残念令嬢の恩返し~婚約者に浮気されている公子様、あなたにお味方いたします!~

伊簑木サイ

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【8】お姑様にお茶会に呼ばれました。

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「すみません、急な呼び出しで……」
「気にしないでください。食器の確認なんて、いつだっていいのですから。それより、しっかりお勤めなさってきてくださいね。皆様、シュリオスをあてにされているのですもの」

 ほんっとうに、食器の柄の確認なんて、どうでもいいことなので!
 普段からとても素敵な器が日替わりで出てくるものだから、いったいどんな物があるのか見せてほしいと、うっかり言ってしまったのよね……。そうしたら、あれは普段使い用の一部で、行事用だの客用だの王族専用だの、果ては花器やら陶人形やらあるので、それも一度目を通したらという話になってしまって……。

 数十人泊めるのがせいいっぱいな実家と違って、千人でももてなせるお家は規模がぜんぜん違うのだというのを、理解していなかった!
 話がどんどん大きくなっていくものだから、途中で後悔しはじめたのだけれど、新しく買わないというのなら、要る物を選別しなければならないと執事に言われて。それもそうよね、と。いずれにしても、この館の女主人として、すべての備品に責任を負わねばならないのには、変わりはないという……。

 ただ、センスに自信がないので、シュリオスに付き合ってもらいたい。それに、そういう日常的なことを、彼とああでもないこうでもないと選ぶのは、とても楽しい。二人の生活を作り上げていくという感じがして。

「なるべく早く帰ります」
「それも気にしないでください。外に出たら、ご自分の務めを第一にしてください。私は家を守っておりますから」

 シュリオスははっとしたように目を見開き、次いで、嬉しいと残念を足した複雑なお顔で私を抱きしめた。

「覚悟が足りていないのは、私のほうでしたね。ですが、ますますそんなことを言うあなたと離れがたくなってしまいました」
「はい、はい。いってらっしゃいませ」

 ぽんぽんと背中を叩く。御者も執事も待っておりますよ? 皆、空気に徹しながら、私たちの動向に気を配っていますからね?

「…………いってきます」

 渋々とした返事と一緒に、耳の下にキスをされ、体が震える。挨拶なのに、どうして敏感な場所にするの!? わかっていてやっていますね!? もう、困った人なんだから!

 キスを返さないかぎりは離さないとばかりにゆるまない腕の中、彼の頬に少し長めのキスをして、どうにかこうにか送りだしたのだった。



「お招きありがとうございます」

 マデリナ様――ジェダオ公爵夫人、シュリオスのお母様――から急にお誘いが来て、本館へお邪魔した。馬車が用意された。 あまりに遠くて歩いて行く距離ではないので。自宅内を馬車で移動。さすが公爵家はスケールが違う。

「来てくれて嬉しいわ。こちらへどうぞ」

 手招かれ、小ぶりの丸いテーブルに着く。ラーニア様もいる。なんと本日は、初の女性だけの集まりなのだ。
 こうして少しずつ公爵家や社交のことを伝授してくださるとのこと。頑張らなければと気合いが入っているし、お姑様に嫌われたくないしで、緊張しております。

「どうですか、シュリオスとの生活は。困ったことはありませんか? どうぞ忌憚なくおっしゃって」
「いいえ、特にはございません。お心遣いありがとうございます」

 にこやかに答える。本当にないからだけれど、普通は困ったことがあるなんて言ったら、傲慢な嫁だと思われる。マデリナ様が嫁に優しいお方なのか、それとも揚げ足を取るための罠なのかわからなくて、笑顔の引っ込め時がわからない。

「セリナさん」
 今度はラーニア様だ。あら? 厳しいお顔をしている!? えええ、もしかして、私もう粗相をしてしまったのかしらー!?

「正直におっしゃい。遠慮はいらないわ。シュリオスの能力がこれ以上強くならないようにと、無理を言って早く我が家に来てもらったのはこちらです。
 シュリオスは特殊な体質だし、思わぬ弊害が起きるだろうことはわかっています。些細なことでも早く対応したほうがいいの。何か心当たりがあるのではない?」

 ん? ああ、そういう理由! どうりで、うちの者は誰も理由を言わなかったはず。それを言ってしまったら、シュリオスを悪く言うことになってしまうものね。納得だわ!

 ラーニア様がいぶかしげにする。

「そのお顔、まさかあなた何も知らないで来たの?」
「ええ、はい、詳しくは。それで、シュリオス様のお力は、まだ強くなるものなのですか? そうすると、あの眼鏡でも抑えられなくなるようになってしまうとか……?」

 それはとても困ると思う。魅了された人々は、どんなことをしでかすかわからないらしいし、人心の掌握に細心の注意を払わなければならなくなるだろう。

 ラーニア様は、なぜか額に手を当て、はあ、と疲れたように息を吐いた。

「さすが聖女の家系……」
「うちが何か?」
「いえ、そのことはまた後で説明します。……絶対に説明が必要とわかりました。
 まずは質問に答えます。シュリオスの力がまだ強くなるか、でしたね。
 あなたは、魔王の力がいつ強くなるか知っていて?」
「いいえ」

「三才くらいまでの赤ん坊と、成人前後です。赤ん坊は生き残るために、基本的に泣くしかできないですからね。生存本能が魅了の力を発現させるのでしょう。
 成人前後は、伴侶を手に入れるためだと考えられます。つまり、恋煩いをすると、相手を求めてどんどん強くなってしまうの。だから、あなたに来てもらったのです。あなたがそばにいれば、当分は大丈夫でしょう」

「当分は、ということは、いずれは違うということですか?」
「戦乱など身の危険を感じる状況になれば、どうなるかはわかりません。もちろんあなたは聖女だから、何の影響も受けませんけれど。
 ただ、力を眼鏡でも抑えられなくなれば、混乱を起こさないために、館に引きこもるしかなくなるでしょうね。――建国記で魔王と呼ばれた初代ジェダオ公爵が、そうしたように」

 やはりそうなってしまうのね。いくら広くて素敵な館だからって、生涯籠もり続けなければならなくなるなんて……。

「あるいは、王となってすべてを支配する道もあります」

 はっとする。そうだった、マデリナ様は陛下の従姉妹にあたる方! シュリオスには王家の血が流れている。時勢が変われば、ありえなくはない話なんだわ。……しかたのないことね。

「承知しました。その場合は離婚を受け入れます」
「何を言っているの、それだけはありません!!」
「そんなことをシュリオスには絶対に言わないでくださいね!?」

 ラーニア様とマデリナ様が同時に――マデリナ様は腰まで浮かせて――叫んだ。
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