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第五章 平穏は、ほど遠く
閑話 殿下の愉快な仲間たち2
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「なんか、あれだよね」
「ん? なにが?」
ディーの呟きに、向かいに座ったキーツが、鶏の唐揚げに口をもごもごさせながら聞き返した。
「殿下とソラン殿って」
「ああ、うん、うん、何か進展あったの?」
「あるわけないだろう。あの人たち、朴念仁の師匠と弟子だよ? どっちもどっちっていうか、二人そろうと、突っ込みどころばかりで突っ込みようがないというのか。すごいよ。考えられないよ。俺なんか、もう、繊細だから、身悶えして死にそう」
ディーは自分の両肩を抱いて、くねくねと体を揺らした。
「そんなにじれったいの?」
「ああ、違う、違う、おかしくて、笑い死にしそうってこと」
「なるほど。それで、本当のところ、どうなの、二人は」
「知らないよ、人のことなんて。なんていうのか、ツンデレな飼い主と躾のいい大型犬?」
キーツは唐揚げを噴き出した。咳きこみながら笑っている。ディーは嫌そうに、自分の皿に飛んできた肉の欠片をつまみ出した。
「それはそれで特別だよな、確かに」
「それにソラン殿には群れの仲間が出来たからね」
「ん? 誰?」
「マルティーク・トレド」
「将軍のとこの護衛か」
そっけなく、キーツが相槌を打つ。
護衛は出世頭である。軍部では、側近とほぼ同義となる任だ。護衛のまま終わるのか、側近として頭角を現すのかは、本人次第ではあったが。
「今んとこ、若手では一番の有望株だよね。熱血で正義感が強くて真面目で、ちょっとお馬鹿なところがかわいい、かな?」
最後に首を傾げたディーに、キーツが手を振って笑った。
「褒めてない、褒めてない」
「褒めてるさあ。いずれ殿下の犬になるなら、あれなら安心だろう」
裏表がないことだけは確かである。密かに性格に裏表のある彼らにしてみれば、そこが時々イラッとするポイントなのだが。
マルティーク・トレドは、人間としてはまともすぎるほどまともなので、人望もある。その単純さの使い方を心得ている、上からの覚えもめでたい。なにかとやっかまれそうなソランの友人としては、申し分のない相手であった。
「俺は、怖いよ」
ディーはポツンと言った。キーツが笑いを引っ込めて見返す。
「殿下の頭の中を想像すると、怖い」
「そりゃあ、怖いだろう。殿下の頭の中、部下をこき使う計画でいっぱいだからな」
キーツは冗談にして笑い飛ばした。ディーもそれに乗って、深刻さを脱ぎ捨てる。
「うん。それもあるけど、絶対、地平線まで男で埋まっているよ。どこを見まわしても、男男男、男しかいそうにないなんて。俺なら気が狂う」
「違いない」
ひとしきり二人は笑いあった。
「それはさておき、殿下の動向には十分注意してくれ。この頃、よく考え事をしていらっしゃる。最低最悪なこと企んでる気がしてしかたない」
「わかった。他にも伝えておくよ」
「頼む」
彼らの敬愛する殿下は、生きることに倦んでいる。新しい宝剣の主が現れた今、辛うじてこの世に彼を引き留めている責務を、その新しい宝剣の主に押しつけて、この国の火種にしかならない己を消し去ってしまおうとするかもしれなかった。
先に立ち上がり、食べ終わった食器を持ち上げたキーツに、ディーがもう一つ声をかける。
「あと、スープ持ってきてくんない? これ、おまえ食べろよ。鶏肉だらけになっちゃてんだよ」
「お? おお? すまん、すまん。でもそれ、おまえだって口つけただろ。俺、嫌だよ」
「嫌って、俺だって嫌だよ。でも、残すとエメット婦人が怖いだろ、責任持って食べろって」
ディーはキーツに向かって皿を押しやった。キーツも負けじとディーに向かって皿を押しやる。押しやり、押しやられ、二人で口喧嘩しながらやっているうちに、とうとう皿はひっくり返り。
「いい大人が、何をしているんですか!」
二人は、この館の法律であり母であるエメット婦人に、たっぷり絞られたのだった。
「ん? なにが?」
ディーの呟きに、向かいに座ったキーツが、鶏の唐揚げに口をもごもごさせながら聞き返した。
「殿下とソラン殿って」
「ああ、うん、うん、何か進展あったの?」
「あるわけないだろう。あの人たち、朴念仁の師匠と弟子だよ? どっちもどっちっていうか、二人そろうと、突っ込みどころばかりで突っ込みようがないというのか。すごいよ。考えられないよ。俺なんか、もう、繊細だから、身悶えして死にそう」
ディーは自分の両肩を抱いて、くねくねと体を揺らした。
「そんなにじれったいの?」
「ああ、違う、違う、おかしくて、笑い死にしそうってこと」
「なるほど。それで、本当のところ、どうなの、二人は」
「知らないよ、人のことなんて。なんていうのか、ツンデレな飼い主と躾のいい大型犬?」
キーツは唐揚げを噴き出した。咳きこみながら笑っている。ディーは嫌そうに、自分の皿に飛んできた肉の欠片をつまみ出した。
「それはそれで特別だよな、確かに」
「それにソラン殿には群れの仲間が出来たからね」
「ん? 誰?」
「マルティーク・トレド」
「将軍のとこの護衛か」
そっけなく、キーツが相槌を打つ。
護衛は出世頭である。軍部では、側近とほぼ同義となる任だ。護衛のまま終わるのか、側近として頭角を現すのかは、本人次第ではあったが。
「今んとこ、若手では一番の有望株だよね。熱血で正義感が強くて真面目で、ちょっとお馬鹿なところがかわいい、かな?」
最後に首を傾げたディーに、キーツが手を振って笑った。
「褒めてない、褒めてない」
「褒めてるさあ。いずれ殿下の犬になるなら、あれなら安心だろう」
裏表がないことだけは確かである。密かに性格に裏表のある彼らにしてみれば、そこが時々イラッとするポイントなのだが。
マルティーク・トレドは、人間としてはまともすぎるほどまともなので、人望もある。その単純さの使い方を心得ている、上からの覚えもめでたい。なにかとやっかまれそうなソランの友人としては、申し分のない相手であった。
「俺は、怖いよ」
ディーはポツンと言った。キーツが笑いを引っ込めて見返す。
「殿下の頭の中を想像すると、怖い」
「そりゃあ、怖いだろう。殿下の頭の中、部下をこき使う計画でいっぱいだからな」
キーツは冗談にして笑い飛ばした。ディーもそれに乗って、深刻さを脱ぎ捨てる。
「うん。それもあるけど、絶対、地平線まで男で埋まっているよ。どこを見まわしても、男男男、男しかいそうにないなんて。俺なら気が狂う」
「違いない」
ひとしきり二人は笑いあった。
「それはさておき、殿下の動向には十分注意してくれ。この頃、よく考え事をしていらっしゃる。最低最悪なこと企んでる気がしてしかたない」
「わかった。他にも伝えておくよ」
「頼む」
彼らの敬愛する殿下は、生きることに倦んでいる。新しい宝剣の主が現れた今、辛うじてこの世に彼を引き留めている責務を、その新しい宝剣の主に押しつけて、この国の火種にしかならない己を消し去ってしまおうとするかもしれなかった。
先に立ち上がり、食べ終わった食器を持ち上げたキーツに、ディーがもう一つ声をかける。
「あと、スープ持ってきてくんない? これ、おまえ食べろよ。鶏肉だらけになっちゃてんだよ」
「お? おお? すまん、すまん。でもそれ、おまえだって口つけただろ。俺、嫌だよ」
「嫌って、俺だって嫌だよ。でも、残すとエメット婦人が怖いだろ、責任持って食べろって」
ディーはキーツに向かって皿を押しやった。キーツも負けじとディーに向かって皿を押しやる。押しやり、押しやられ、二人で口喧嘩しながらやっているうちに、とうとう皿はひっくり返り。
「いい大人が、何をしているんですか!」
二人は、この館の法律であり母であるエメット婦人に、たっぷり絞られたのだった。
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