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第七章 不死人(ふしびと)
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殿下の大笑いがおさまってきた頃、ソランは、ペイヴァーが何にけりをつけなければいけないのかを聞いた。
「王女派の掌握だ。不穏分子は王妃が片付けてくれるのだから、簡単なものだろう」
「ペイヴァー殿は殿下の部下だったのですか?」
「いや、将軍のだ。少々固いのが玉に瑕だが、公正な人物だ」
「彼を買っていらっしゃるのですね」
「妹をまかせようと思うくらいには。だが、ミルフェがいつもひっかかるのは、クライブ・エニシダだの、ルティン・コランティアだの、あれには少々荷の重い者ばかりでな。おまえといい、ミルフェは面食いなのだろうな」
殿下は困ったような情けないような顔をした。
ミルフェ姫が、ソランを精霊王と評したことを思い出す。確かに弟のルティンも、王の侍従のエニシダも、精霊族のような容姿をしている。それは逆に言えば、男っぽくないということだ。
彼女は自分の恋が国を左右すると知っていた。積極的であるようでいて、案外恐れているのかもしれない。だから、夢物語のような相手にばかり魅かれるのだ。
「恋に恋していらっしゃるところがあるのかもしれませんね」
「ああ、確かに。よくわけのわからないことを言っているな」
殿下は頷いた。
「ペイヴァー殿は、ミルフェ殿下を本気でお慕い申し上げているのではないですか?」
アティス殿下の不興を買ってもかまわないと彼は言っていた。イリスと話すことで、ソランの様子が聞けるのなら。それによって、ミルフェ殿下が少しでも元気を取り戻してくださるなら、と。
「大事にしすぎて口説くこともできんヘタレだ、とディーは言っていたが」
殿下は自信がなさそうに言った。男女のことになると、どうも苦手でいるようだ。
「そうですか。ペイヴァー殿なら、あの強面をやめて、笑いかけてさしあげればすぐだと思うのですが」
ソランは小首を傾げて、彼の笑顔を思い出した。
「とても魅力的でしたよ」
「ほう? いつ見たのだ?」
「手に」
キスを受けた時に。と、うっかり答えそうになり、どこか笑っていない殿下のまなざしとかち合う。殿下が彼の触った手袋を投げ捨てたのを思い出し、答えを変えた。
「手のことで気にすることはないと言ってくれた時に」
「あいつめ、別の場所で油を売ってどうするつもりだ」
「女性に優しいのは、得がたい美質だと思われますが?」
「意中の女性以外でもか?」
「そうであればこそです。女性を無体に扱ったりしないでしょう。……もちろん、殿下の魅力には遠く及びませんが」
どこか不機嫌でいるので、付け足してみた。
「気を遣わなくてもよい。よけいに腹が立つ」
「そうですか。それは失礼致しました」
ソランは先程の仕返しとばかりに、にっこりと笑ってみせた。
「王女派の掌握だ。不穏分子は王妃が片付けてくれるのだから、簡単なものだろう」
「ペイヴァー殿は殿下の部下だったのですか?」
「いや、将軍のだ。少々固いのが玉に瑕だが、公正な人物だ」
「彼を買っていらっしゃるのですね」
「妹をまかせようと思うくらいには。だが、ミルフェがいつもひっかかるのは、クライブ・エニシダだの、ルティン・コランティアだの、あれには少々荷の重い者ばかりでな。おまえといい、ミルフェは面食いなのだろうな」
殿下は困ったような情けないような顔をした。
ミルフェ姫が、ソランを精霊王と評したことを思い出す。確かに弟のルティンも、王の侍従のエニシダも、精霊族のような容姿をしている。それは逆に言えば、男っぽくないということだ。
彼女は自分の恋が国を左右すると知っていた。積極的であるようでいて、案外恐れているのかもしれない。だから、夢物語のような相手にばかり魅かれるのだ。
「恋に恋していらっしゃるところがあるのかもしれませんね」
「ああ、確かに。よくわけのわからないことを言っているな」
殿下は頷いた。
「ペイヴァー殿は、ミルフェ殿下を本気でお慕い申し上げているのではないですか?」
アティス殿下の不興を買ってもかまわないと彼は言っていた。イリスと話すことで、ソランの様子が聞けるのなら。それによって、ミルフェ殿下が少しでも元気を取り戻してくださるなら、と。
「大事にしすぎて口説くこともできんヘタレだ、とディーは言っていたが」
殿下は自信がなさそうに言った。男女のことになると、どうも苦手でいるようだ。
「そうですか。ペイヴァー殿なら、あの強面をやめて、笑いかけてさしあげればすぐだと思うのですが」
ソランは小首を傾げて、彼の笑顔を思い出した。
「とても魅力的でしたよ」
「ほう? いつ見たのだ?」
「手に」
キスを受けた時に。と、うっかり答えそうになり、どこか笑っていない殿下のまなざしとかち合う。殿下が彼の触った手袋を投げ捨てたのを思い出し、答えを変えた。
「手のことで気にすることはないと言ってくれた時に」
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「女性に優しいのは、得がたい美質だと思われますが?」
「意中の女性以外でもか?」
「そうであればこそです。女性を無体に扱ったりしないでしょう。……もちろん、殿下の魅力には遠く及びませんが」
どこか不機嫌でいるので、付け足してみた。
「気を遣わなくてもよい。よけいに腹が立つ」
「そうですか。それは失礼致しました」
ソランは先程の仕返しとばかりに、にっこりと笑ってみせた。
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