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第九章 束の間の休息(海賊の末裔の地キエラにおいて)
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まず最初に向かったのは、海側の突端にある灯台だった。
このあたりは海岸線が入り組んでおり、うっかり近付くと船が座礁する。昼間なら水の色で判断もできるが、夜は非常に危ない。そこで、暗くなると目印となるように、最上階の部屋で灯りを灯すのだ。
魚も獲れれば真珠も採れ、大陸の南西端にある半島をぐるりとまわった内側にもあたるせいで、商船の寄港地でもある。キエラは古くから栄えた地で、そのため海賊にもよく襲われたのだと、アロナは語った。
「私たちはその海賊の子孫です」
「本当に?」
「はい。三代ほど前の王の御世に、平定されました。平定されたというより、当時の頭領が領主の娘と恋に落ちたのだと言われています。それでこの地を、他の海賊から守るようになったのだそうです。海賊のやり方は、海賊こそが詳しいですから」
「ロマンティックなお話ですね」
「ええ。もう収穫祭は終わってしまいましたけれど、毎年その時に、それを題材にした劇をいたしますの。ね?」
アロナはスーシャとファティエラに相槌を求めた。スーシャが勢い込んで教えてくれる。
「その海賊の頭領と姫の役を務めたカップルは、生涯仲睦まじくいられるというので、憧れの的なんです。私もファティエラも、夫たちとやりましたのよ。壮絶なキスの大会でしたわ」
「キス?」
「はい。劇のクライマックスが告白とそれに続くキスですから。主役の座を射止めるには、いかにロマンティックにできるかを争うのです」
「イドリック殿も?」
思わず、ファティエラを見て尋ねる。
「ええ。そんなことできるかとぐずぐず言うので、役が取れなかったら結婚しないと言ってやりました」
ソランは声をあげて笑った。
――あの堅物が服を着て歩いているようなイドリック殿が!
「それが、近年稀に見る情熱ぶりで、私、すごくびっくりしたんです」
スーシャがちょっと赤くなって言い添える。
「後で、やりすぎだって怒りました」
ファティエラも赤くなって付け加えた。
「アロナ殿もやったのですか?」
「もちろんです。夫はキスがヘタだったので、ずいぶん練習させました、枕を相手にして」
「まあ。お義父様にそんなことを!?」
「さすがアロナ様!」
二人が叫び、ソランと一緒になって笑いだす。
陰気な塔の中に、若い女性の明るい笑い声が響き渡った。
……一方、影の如く付き従っていたイアルは、知りたくもなかったガールズトークに半ば耳を塞ぎながら、護衛として半日ソランの後をついてまわったのだった。
このあたりは海岸線が入り組んでおり、うっかり近付くと船が座礁する。昼間なら水の色で判断もできるが、夜は非常に危ない。そこで、暗くなると目印となるように、最上階の部屋で灯りを灯すのだ。
魚も獲れれば真珠も採れ、大陸の南西端にある半島をぐるりとまわった内側にもあたるせいで、商船の寄港地でもある。キエラは古くから栄えた地で、そのため海賊にもよく襲われたのだと、アロナは語った。
「私たちはその海賊の子孫です」
「本当に?」
「はい。三代ほど前の王の御世に、平定されました。平定されたというより、当時の頭領が領主の娘と恋に落ちたのだと言われています。それでこの地を、他の海賊から守るようになったのだそうです。海賊のやり方は、海賊こそが詳しいですから」
「ロマンティックなお話ですね」
「ええ。もう収穫祭は終わってしまいましたけれど、毎年その時に、それを題材にした劇をいたしますの。ね?」
アロナはスーシャとファティエラに相槌を求めた。スーシャが勢い込んで教えてくれる。
「その海賊の頭領と姫の役を務めたカップルは、生涯仲睦まじくいられるというので、憧れの的なんです。私もファティエラも、夫たちとやりましたのよ。壮絶なキスの大会でしたわ」
「キス?」
「はい。劇のクライマックスが告白とそれに続くキスですから。主役の座を射止めるには、いかにロマンティックにできるかを争うのです」
「イドリック殿も?」
思わず、ファティエラを見て尋ねる。
「ええ。そんなことできるかとぐずぐず言うので、役が取れなかったら結婚しないと言ってやりました」
ソランは声をあげて笑った。
――あの堅物が服を着て歩いているようなイドリック殿が!
「それが、近年稀に見る情熱ぶりで、私、すごくびっくりしたんです」
スーシャがちょっと赤くなって言い添える。
「後で、やりすぎだって怒りました」
ファティエラも赤くなって付け加えた。
「アロナ殿もやったのですか?」
「もちろんです。夫はキスがヘタだったので、ずいぶん練習させました、枕を相手にして」
「まあ。お義父様にそんなことを!?」
「さすがアロナ様!」
二人が叫び、ソランと一緒になって笑いだす。
陰気な塔の中に、若い女性の明るい笑い声が響き渡った。
……一方、影の如く付き従っていたイアルは、知りたくもなかったガールズトークに半ば耳を塞ぎながら、護衛として半日ソランの後をついてまわったのだった。
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