暁にもう一度

伊簑木サイ

文字の大きさ
147 / 272
第九章 束の間の休息(海賊の末裔の地キエラにおいて)

5-4

しおりを挟む
「では、ジェナス、今夜聞くはずだった話を、今聞きたい。失われた神についてだ」

 ソランは小首を傾げた。それに殿下が不思議そうにする。

「なんだ?」
「いえ、呪いについてかと思っていたので」
「呪いではなくて、加護なのだろう? ジェナス、それに間違いはないな?」
「はい、私はそう考えております」
「うん。そこで考えてみたのだが、加護とは、人が神に願い出て受けるものなのだろう? 春には豊穣の神フェルトにその年の豊作を願うし、我が妹のミルフェは、よく美の神リエンナに捧げものをしている。その願いに神が応じてくだされば、加護を受けられるのではないのか?」
「そうだと言われております」
「加護がその願いに対して行われるものならば、願いが成就すれば、加護も解けるのであろうと思ったのだが。そして、神々がそれぞれ司るものを違(たが)えていたというならば、失われた神がどういった神であったか知れば、成就すべきこともわかるのではないかと思ったのだ」

 論理立てて語る殿下に、ソランはぽかんとして見惚れていた。まったくもってそのとおりであると思いながら。

「ソラン様」
「はい。なんでしょうか?」

 隣でジェナスが座りなおして、ソランへと向きなおった。

「ソラン様は、どうすれば加護が解けるとお考えになりますか?」
「私、ですか?」

 ソランは恥じ入った。

「……すみません。特に深くは考えていませんでした。宝剣の主はやりたいことをやればよいと伺っていたので、そうしようと思っていたのです」
「やりたいこととは?」
「え?」

 なぜ自分に聞くのだろう? ソランは戸惑ってジェナスと殿下を交互に見たが、二人とも答えを待っている。仕方なく、殿下に確認するように尋ねた。

「この地の平和、ですよね?」
「そうだな。それは私のやりたいことだが、おまえの望みはなんだ?」

 逆に聞き返され、『宝剣の主』の意味を履き違えていたことに気付く。あんなに言っても、二人ともまだソランを主と見なしていたらしい。ソランは殿下に咎めるまなざしを向けた。

「宝剣の主は唯一人です。それは私ではありません。加護を受けた者の願いこそ叶えられなければならないはずです」
「つまりソラン様は、主殿の願いを叶えるべく、それに力をお貸しすると仰るのですね?」
「そうです。ですが、それだけではありません。殿下の願いは私の願いでもありますから」

 はっきりと言い切ったソランの言葉に、ジェナスは急に表情を失くした。やがて複雑な色を浮かべて微笑む。痛みと切なさを含んだそれは、明らかに傷ついているように見えた。しかし同時に喜びも確かに感じられ、ソランはどう対応していいのかわからず、思わず息を止めて彼女を見守った。

「お手をお貸し願えますか?」

 そう懇願したジェナスはとても儚く見えて、ソランは意味はわからずとも、求めを断る気にはなれなかった。右手を差し出すと、それを両手で恭しく受け取り、甲にそっと口付ける。そして、ソランの手を握ったまま殿下へと向き、静かに頭を下げた。

「感謝申し上げます、宝剣の主殿」

 その真意を計り知ることは誰にもできなかったが、それはまぎれもない、深い深い謝意を示した姿だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...