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閑話集 こぼれ話
あの上司にしてこの部下あり2
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「でも、あまり気にすることはありませんよ。ソラン様はもうしばらくしたらここを離れるのですから。憧れは所)詮憧れ。すぐに現実の生活に戻っていきますよ」
イアルは、意気消沈している彼らを励まして言った。
「それに、ソラン様は絶対に誰かのものになるなんて期待を持たせたりしませんよ、それこそ殿下以外の誰にもね」
それはそうなのであった。彼女はとりたてて女子供にだけ優しいのではなかった。誰にでも気さくで、会う人ごとに、あなたに会えて嬉しくて楽しい、といった態度で接する。
だがそれは、どこか浮世離れした愛情だった。甲乙なく平等に愛を振りまくのである。好かれているとは信じられたが、自分だけがなど、思いもよらない。
そんな彼女に、膝に幼子が取り付くように女子供は群がる。男たちからアプローチしないのは御領主が怖いからであって、そうでなければ気軽に酒でも飲みながら語り合いたいものだった。
そこに百パーセント疚しい気持ちがないかと問われれば、五パーセントくらいはありそうだったが、大半はほとんど同性に対するのと同じ気安さなのだ。
御領主では恐れ多いが、若くて無茶を絵に描いたような彼女となら、馬鹿話から領地の未来についてまで共に語り合えそうだった。
「うちの領地でも一番人気で、何かというと常に女性の一団に囲まれていましたが、その領地の女性たちも、ちゃんと結婚していってます。心配ないですよ」
男たちの顔に血の気と希望が戻ってくる。イアルはそれを見て、にこりと笑った。
「まあ、女性の思い描く『理想の王子様』に見て触れてしまったわけですから、彼女たちの理想が高くなるのは仕方がありませんよね。その理想に足りない分、常に尻を叩かれることになりますが、要は自分の男っぷりを上げればいいんですから。絶望することはありませんよ」
その理想が高すぎるのである。しかも張り合う相手は男ですらない。夜空の星を取ってきて婚約指輪にして差し出すようなものであった。
彼らは仄かに希望を持たされた分、イアルの意図とは正反対に、今度こそ本当に絶望の淵に突き落とされたのだった。
そんな男たちを見まわして、どことなく落ちこんだ表情に変わったイアルが呟いた。
「すみません。励ましたつもりだったんですが」
いっそ悪意があった方がマシな突き落とし具合であった。イアルの凶悪な天然ぶりに、誰もが口には出さなくても、恨みがましく思わずにはいられなかった。
――あの上司にしてこの部下あり、と。
「大丈夫、大丈夫。ほら、奥の手を教えてもらいに来たんでしょ? このクッション使っていいから、それを子供に見立ててやってみなよ」
ディーはさっと立ってソファのクッションを手にとり、あるだけ全部を彼らに投げて寄越した。彼らは初めは呆然と受け取りながらも、だんだんと生気を取り戻していった。
「そうだった。教えてもらいに来たんだった」
「イアル殿、ぜひ、すごいのを!」
クッションを手に手にイアルへと詰め寄る。
「任せてください。教えるのは得意です。故郷で絶大な人気を誇る遊びを、すべて伝授しましょう」
そうして彼らは、冷える深夜の廊下で足音を忍ばせながら、我を忘れて黙々とクッションを振りまわしたのだった。
愛する女性たちには絶対に見せられない、大変に涙ぐましい姿であった。
あの領主にして、この領民あり。
彼らは自ら女性たちの尻に敷かれる努力をしていることに、気付いていないのだった。
イアルは、意気消沈している彼らを励まして言った。
「それに、ソラン様は絶対に誰かのものになるなんて期待を持たせたりしませんよ、それこそ殿下以外の誰にもね」
それはそうなのであった。彼女はとりたてて女子供にだけ優しいのではなかった。誰にでも気さくで、会う人ごとに、あなたに会えて嬉しくて楽しい、といった態度で接する。
だがそれは、どこか浮世離れした愛情だった。甲乙なく平等に愛を振りまくのである。好かれているとは信じられたが、自分だけがなど、思いもよらない。
そんな彼女に、膝に幼子が取り付くように女子供は群がる。男たちからアプローチしないのは御領主が怖いからであって、そうでなければ気軽に酒でも飲みながら語り合いたいものだった。
そこに百パーセント疚しい気持ちがないかと問われれば、五パーセントくらいはありそうだったが、大半はほとんど同性に対するのと同じ気安さなのだ。
御領主では恐れ多いが、若くて無茶を絵に描いたような彼女となら、馬鹿話から領地の未来についてまで共に語り合えそうだった。
「うちの領地でも一番人気で、何かというと常に女性の一団に囲まれていましたが、その領地の女性たちも、ちゃんと結婚していってます。心配ないですよ」
男たちの顔に血の気と希望が戻ってくる。イアルはそれを見て、にこりと笑った。
「まあ、女性の思い描く『理想の王子様』に見て触れてしまったわけですから、彼女たちの理想が高くなるのは仕方がありませんよね。その理想に足りない分、常に尻を叩かれることになりますが、要は自分の男っぷりを上げればいいんですから。絶望することはありませんよ」
その理想が高すぎるのである。しかも張り合う相手は男ですらない。夜空の星を取ってきて婚約指輪にして差し出すようなものであった。
彼らは仄かに希望を持たされた分、イアルの意図とは正反対に、今度こそ本当に絶望の淵に突き落とされたのだった。
そんな男たちを見まわして、どことなく落ちこんだ表情に変わったイアルが呟いた。
「すみません。励ましたつもりだったんですが」
いっそ悪意があった方がマシな突き落とし具合であった。イアルの凶悪な天然ぶりに、誰もが口には出さなくても、恨みがましく思わずにはいられなかった。
――あの上司にしてこの部下あり、と。
「大丈夫、大丈夫。ほら、奥の手を教えてもらいに来たんでしょ? このクッション使っていいから、それを子供に見立ててやってみなよ」
ディーはさっと立ってソファのクッションを手にとり、あるだけ全部を彼らに投げて寄越した。彼らは初めは呆然と受け取りながらも、だんだんと生気を取り戻していった。
「そうだった。教えてもらいに来たんだった」
「イアル殿、ぜひ、すごいのを!」
クッションを手に手にイアルへと詰め寄る。
「任せてください。教えるのは得意です。故郷で絶大な人気を誇る遊びを、すべて伝授しましょう」
そうして彼らは、冷える深夜の廊下で足音を忍ばせながら、我を忘れて黙々とクッションを振りまわしたのだった。
愛する女性たちには絶対に見せられない、大変に涙ぐましい姿であった。
あの領主にして、この領民あり。
彼らは自ら女性たちの尻に敷かれる努力をしていることに、気付いていないのだった。
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