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第4話
喧嘩上等2
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俺は植物を呼んで、母に巻きつかせ、問答無用で動きを封じて遠ざけた。
本気でやるのに、女は邪魔だ。
そっちがその気なら、こっちも手加減はできねえ。
「我に従え、我に従え、我に従え、我に従え、我に従え……」
ぶつぶつと呟き、集中力を高める。周囲に偏在する五大要素すべてにはたらきかける。自分のまわりの空間に存在するものすべてが、呼びかけに反応して揺らぎ、その輪郭を崩すのを感じる。
世界の真理。究極の姿。原初と終焉の混沌。その一歩手前の擬似空間を現出させる。
俺の残りの魔力では、真っ当な方法ではルシアンの攻撃を防ぎきれない。それに規格外の強力な魔法を不用意に弾き返せば、周囲に甚大な被害を及ぼす。
防御魔法が使えれば一番いいが、あいにくそんな魔力は残っていない。俺にはこれ以外、他に方法が思いつかなかった。
ルシアンがゆっくりと上に手を上げる。人差し指を立て、それを振り下ろしながら、俺へと突きつける。炎と疾風が指先に渦を巻いて凝縮され、指向をもって放たれて、怒涛のように迫りくる。
俺は、それを全部、擬似空間に引き入れた。
風が刃となって肌を切り裂き、炎は肌を舐めあげる。
痛えな、くそったれ!!
取り込むほどに中は修羅場と化すが、途中で退くわけにはいかない。
表情が歪み、がくんと膝が落ちるのを止められなかった。それでもルシアンを睨みつけ、魔法だけは維持し続ける。
地面に這いつくばった俺を見て、ルシアンがわずかに表情を変えた。手が、力なく下ろされてゆく。攻撃が止む。
終わりか? 終わりだな? いずれにしても、これ以上は無理だ。魔力がもたない。
俺は擬似空間の上に穴をあけ、中の力を上空へと解き放った。ごおおおっと、耳をつんざく轟音とともに、火柱があがる。
俺はもう、まわりを認識できるだけの体力はなかった。泥のようにしか感じない体の中で、魔力の流れだけにしぼって意識を集中する。
火柱の放出にあわせて、擬似空間の範囲を小さくしていく。絶対に、誰にも、何にも、被害を出させたりするものか。
ルシアンの手だけは穢させない。
果てしなく時間が引き延ばされたように苦行の時が続く。が、果てのない魔力も魔法もない。やがて放出は終わり、ほっと息をついた。
そうして最後に、俺の周囲にだけ、空間が残る。
閉じないと。
そう思うが、空間の揺らぎに押されて、己の意識さえ拡散していくのを止められない。
この感覚は覚えがある。還元だ。
必死の思いで意識をつなぎとめようとするが、もう、自分の意思ではどうにもならなかった。現象に流されるまま、薄れていってしまう。
この擬似空間は閉じられていない。人一人分の還元は、いったいどれほどのエネルギーになるのだろう。
外に放出されればさっきの火柱どころではない、広範囲で現実空間の崩壊が起こるに違いない。
「ルシアン!!」
叫んだ、つもりだった。が、俺の耳は自分の声を拾わなかった。声があげられなかったのか、耳がおかしくなっているのか、もう体がないのか。
ルシアン、ルシアン、ルシアンッ。
なにもかもが、拡散=収縮する中で、唯一人、俺と同じ力を持つ弟に全身全霊で訴えかける。
頼むからっ。この空間を閉じてくれ!
俺は意識の保てる最後の瞬間まで、魂の半身の名を呼び続けた。
本気でやるのに、女は邪魔だ。
そっちがその気なら、こっちも手加減はできねえ。
「我に従え、我に従え、我に従え、我に従え、我に従え……」
ぶつぶつと呟き、集中力を高める。周囲に偏在する五大要素すべてにはたらきかける。自分のまわりの空間に存在するものすべてが、呼びかけに反応して揺らぎ、その輪郭を崩すのを感じる。
世界の真理。究極の姿。原初と終焉の混沌。その一歩手前の擬似空間を現出させる。
俺の残りの魔力では、真っ当な方法ではルシアンの攻撃を防ぎきれない。それに規格外の強力な魔法を不用意に弾き返せば、周囲に甚大な被害を及ぼす。
防御魔法が使えれば一番いいが、あいにくそんな魔力は残っていない。俺にはこれ以外、他に方法が思いつかなかった。
ルシアンがゆっくりと上に手を上げる。人差し指を立て、それを振り下ろしながら、俺へと突きつける。炎と疾風が指先に渦を巻いて凝縮され、指向をもって放たれて、怒涛のように迫りくる。
俺は、それを全部、擬似空間に引き入れた。
風が刃となって肌を切り裂き、炎は肌を舐めあげる。
痛えな、くそったれ!!
取り込むほどに中は修羅場と化すが、途中で退くわけにはいかない。
表情が歪み、がくんと膝が落ちるのを止められなかった。それでもルシアンを睨みつけ、魔法だけは維持し続ける。
地面に這いつくばった俺を見て、ルシアンがわずかに表情を変えた。手が、力なく下ろされてゆく。攻撃が止む。
終わりか? 終わりだな? いずれにしても、これ以上は無理だ。魔力がもたない。
俺は擬似空間の上に穴をあけ、中の力を上空へと解き放った。ごおおおっと、耳をつんざく轟音とともに、火柱があがる。
俺はもう、まわりを認識できるだけの体力はなかった。泥のようにしか感じない体の中で、魔力の流れだけにしぼって意識を集中する。
火柱の放出にあわせて、擬似空間の範囲を小さくしていく。絶対に、誰にも、何にも、被害を出させたりするものか。
ルシアンの手だけは穢させない。
果てしなく時間が引き延ばされたように苦行の時が続く。が、果てのない魔力も魔法もない。やがて放出は終わり、ほっと息をついた。
そうして最後に、俺の周囲にだけ、空間が残る。
閉じないと。
そう思うが、空間の揺らぎに押されて、己の意識さえ拡散していくのを止められない。
この感覚は覚えがある。還元だ。
必死の思いで意識をつなぎとめようとするが、もう、自分の意思ではどうにもならなかった。現象に流されるまま、薄れていってしまう。
この擬似空間は閉じられていない。人一人分の還元は、いったいどれほどのエネルギーになるのだろう。
外に放出されればさっきの火柱どころではない、広範囲で現実空間の崩壊が起こるに違いない。
「ルシアン!!」
叫んだ、つもりだった。が、俺の耳は自分の声を拾わなかった。声があげられなかったのか、耳がおかしくなっているのか、もう体がないのか。
ルシアン、ルシアン、ルシアンッ。
なにもかもが、拡散=収縮する中で、唯一人、俺と同じ力を持つ弟に全身全霊で訴えかける。
頼むからっ。この空間を閉じてくれ!
俺は意識の保てる最後の瞬間まで、魂の半身の名を呼び続けた。
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