しかたなく英雄的最後を迎えた魔法使いの受難

伊簑木サイ

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第6話

説教三昧1

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「ん? ねえ、ブラッド、なんか身体つきが違う」

 ジジイから視線をそらせずに固まっている俺の体を、ルシアンが抱きついたまま、もぞもぞとさすった。人の肩だの背中だの胸だの腹だのに手を滑らせては、マントに吊るされたいろんなものの間から摘もうとするのだ。

「重いっ。くすぐったいっ。やめろってっ」

 俺は抱きかかえていた手を離して、ルシアンを押し退けた。
 ルシアンはおとなしく下りたと思ったら、いきなり人のマントを捲り上げて、その中に手を突っ込んでくる。そして、わき腹を掴んだ。

「わっ。やめっ、やめっ、くすぐったいっ!」
 俺は半ば笑いながら身をよじった。ぜんぜんおかしくないんだけど、くすぐられると笑顔になってしまうのだから、しかたない。
 そうしているうちにも、ルシアンはしゃがんで、今度は人の太ももを両手で掴む。そうして、さすさす、もみもみと、

「揉むな!!」

 俺は、腹の下で揺れている黄色い頭を鷲掴んで、ぐいーっと押しやった。穏便に、ぺしぺしと手を叩き払う。ルシアンじゃなければ、蹴り飛ばしているところだ。

「だって。筋肉ついた?」
「おう。ずいぶん歩いたからな」
「肩とか腕とか腹とか背中もぜんぜん違うよ?」
「ああ。それは、かなり殴りあいしたから」
「え。手は大丈夫?」

 ルシアンが心配そうに俺の手を取りながら立ち上がって、光の方へと甲をかざした。

「ちゃんと、鉄甲をはめてるだろ」

 でないと、自分の力で指の骨が折れるんだよ。前世でやって、かなり痛い目にあった。あの時は、さすがの俺も、泣きながら一本一本骨を接いだもんなあ。同じ轍は踏まない。

「へええ。魔法じゃなくて、これで盗賊をぶちのめしたの」
「一応、武器は魔法で取り上げておいたけどな。腕っ節で生きてる奴を従えるには、こっちじゃないと駄目だから」

 奴らが使えない魔法で圧倒的に勝ってみせたって、心まで屈服させることはできない。けれど、同じスタンスで徹底的にくだしてみせれば、体でも心でも納得するしかなくなる。
 どっちが本当に強いのかを。

「へえええええ。ずいぶん、無茶したんだね、ブラッド」

 ルシアンのあまーい声が耳に届いた。……腰砕けになりそうなほどの。
 そのとたん、俺は、ぶるっと震えた。急転直下、どうしてだか、雰囲気が非常にまずいことになっている。今の今まで和やかだったのに、なんでだ!?
 とにかく背筋がぞくぞくする。ルシアンの表情は暗くてはっきり見えないけれど、たぶん、例の綺麗な微笑を浮かべているに違いない。いつもは見惚れるはずのそれが、なぜか今は、ものすごく怖い。

 取られた手はぎゅうううううっと握リ潰され、そうしているのとは違う手が、頬を撫でてから、首の後ろへとまわってくる。そうして、まさしく首根っこを掴まれた。
 寒気が酷くなった。ルシアンの顔が近付いてきて、

「今まで何をしてきたのか、もちろん隠さず余さず詳しく教えてくれるよね、ブラッド?」

 耳元に息を吹きかけられながら妙に色っぽい声で囁かれた。
 それ、お願いじゃないよな? なんで俺、ルシアンに脅されてんの?

「ここじゃなんだから、中に入ろうか」

 俺は、俺たちの親密なじゃれあいを見ていいものかどうか視線のやり場に護衛たちが困っているのにも気付かずに(それどころじゃなかった)、有無を言わさない態度のルシアンに手と首を掴まれたまま、おとなしく宿の中へと連行されるしかなかったのだった。
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