65 / 104
第6話
説教三昧1
しおりを挟む
「ん? ねえ、ブラッド、なんか身体つきが違う」
ジジイから視線をそらせずに固まっている俺の体を、ルシアンが抱きついたまま、もぞもぞとさすった。人の肩だの背中だの胸だの腹だのに手を滑らせては、マントに吊るされたいろんなものの間から摘もうとするのだ。
「重いっ。くすぐったいっ。やめろってっ」
俺は抱きかかえていた手を離して、ルシアンを押し退けた。
ルシアンはおとなしく下りたと思ったら、いきなり人のマントを捲り上げて、その中に手を突っ込んでくる。そして、わき腹を掴んだ。
「わっ。やめっ、やめっ、くすぐったいっ!」
俺は半ば笑いながら身をよじった。ぜんぜんおかしくないんだけど、くすぐられると笑顔になってしまうのだから、しかたない。
そうしているうちにも、ルシアンはしゃがんで、今度は人の太ももを両手で掴む。そうして、さすさす、もみもみと、
「揉むな!!」
俺は、腹の下で揺れている黄色い頭を鷲掴んで、ぐいーっと押しやった。穏便に、ぺしぺしと手を叩き払う。ルシアンじゃなければ、蹴り飛ばしているところだ。
「だって。筋肉ついた?」
「おう。ずいぶん歩いたからな」
「肩とか腕とか腹とか背中もぜんぜん違うよ?」
「ああ。それは、かなり殴りあいしたから」
「え。手は大丈夫?」
ルシアンが心配そうに俺の手を取りながら立ち上がって、光の方へと甲をかざした。
「ちゃんと、鉄甲をはめてるだろ」
でないと、自分の力で指の骨が折れるんだよ。前世でやって、かなり痛い目にあった。あの時は、さすがの俺も、泣きながら一本一本骨を接いだもんなあ。同じ轍は踏まない。
「へええ。魔法じゃなくて、これで盗賊をぶちのめしたの」
「一応、武器は魔法で取り上げておいたけどな。腕っ節で生きてる奴を従えるには、こっちじゃないと駄目だから」
奴らが使えない魔法で圧倒的に勝ってみせたって、心まで屈服させることはできない。けれど、同じスタンスで徹底的に降してみせれば、体でも心でも納得するしかなくなる。
どっちが本当に強いのかを。
「へえええええ。ずいぶん、無茶したんだね、ブラッド」
ルシアンの甘ーい声が耳に届いた。……腰砕けになりそうなほどの。
そのとたん、俺は、ぶるっと震えた。急転直下、どうしてだか、雰囲気が非常にまずいことになっている。今の今まで和やかだったのに、なんでだ!?
とにかく背筋がぞくぞくする。ルシアンの表情は暗くてはっきり見えないけれど、たぶん、例の綺麗な微笑を浮かべているに違いない。いつもは見惚れるはずのそれが、なぜか今は、ものすごく怖い。
取られた手はぎゅうううううっと握リ潰され、そうしているのとは違う手が、頬を撫でてから、首の後ろへとまわってくる。そうして、まさしく首根っこを掴まれた。
寒気が酷くなった。ルシアンの顔が近付いてきて、
「今まで何をしてきたのか、もちろん隠さず余さず詳しく教えてくれるよね、ブラッド?」
耳元に息を吹きかけられながら妙に色っぽい声で囁かれた。
それ、お願いじゃないよな? なんで俺、ルシアンに脅されてんの?
「ここじゃなんだから、中に入ろうか」
俺は、俺たちの親密なじゃれあいを見ていいものかどうか視線のやり場に護衛たちが困っているのにも気付かずに(それどころじゃなかった)、有無を言わさない態度のルシアンに手と首を掴まれたまま、おとなしく宿の中へと連行されるしかなかったのだった。
ジジイから視線をそらせずに固まっている俺の体を、ルシアンが抱きついたまま、もぞもぞとさすった。人の肩だの背中だの胸だの腹だのに手を滑らせては、マントに吊るされたいろんなものの間から摘もうとするのだ。
「重いっ。くすぐったいっ。やめろってっ」
俺は抱きかかえていた手を離して、ルシアンを押し退けた。
ルシアンはおとなしく下りたと思ったら、いきなり人のマントを捲り上げて、その中に手を突っ込んでくる。そして、わき腹を掴んだ。
「わっ。やめっ、やめっ、くすぐったいっ!」
俺は半ば笑いながら身をよじった。ぜんぜんおかしくないんだけど、くすぐられると笑顔になってしまうのだから、しかたない。
そうしているうちにも、ルシアンはしゃがんで、今度は人の太ももを両手で掴む。そうして、さすさす、もみもみと、
「揉むな!!」
俺は、腹の下で揺れている黄色い頭を鷲掴んで、ぐいーっと押しやった。穏便に、ぺしぺしと手を叩き払う。ルシアンじゃなければ、蹴り飛ばしているところだ。
「だって。筋肉ついた?」
「おう。ずいぶん歩いたからな」
「肩とか腕とか腹とか背中もぜんぜん違うよ?」
「ああ。それは、かなり殴りあいしたから」
「え。手は大丈夫?」
ルシアンが心配そうに俺の手を取りながら立ち上がって、光の方へと甲をかざした。
「ちゃんと、鉄甲をはめてるだろ」
でないと、自分の力で指の骨が折れるんだよ。前世でやって、かなり痛い目にあった。あの時は、さすがの俺も、泣きながら一本一本骨を接いだもんなあ。同じ轍は踏まない。
「へええ。魔法じゃなくて、これで盗賊をぶちのめしたの」
「一応、武器は魔法で取り上げておいたけどな。腕っ節で生きてる奴を従えるには、こっちじゃないと駄目だから」
奴らが使えない魔法で圧倒的に勝ってみせたって、心まで屈服させることはできない。けれど、同じスタンスで徹底的に降してみせれば、体でも心でも納得するしかなくなる。
どっちが本当に強いのかを。
「へえええええ。ずいぶん、無茶したんだね、ブラッド」
ルシアンの甘ーい声が耳に届いた。……腰砕けになりそうなほどの。
そのとたん、俺は、ぶるっと震えた。急転直下、どうしてだか、雰囲気が非常にまずいことになっている。今の今まで和やかだったのに、なんでだ!?
とにかく背筋がぞくぞくする。ルシアンの表情は暗くてはっきり見えないけれど、たぶん、例の綺麗な微笑を浮かべているに違いない。いつもは見惚れるはずのそれが、なぜか今は、ものすごく怖い。
取られた手はぎゅうううううっと握リ潰され、そうしているのとは違う手が、頬を撫でてから、首の後ろへとまわってくる。そうして、まさしく首根っこを掴まれた。
寒気が酷くなった。ルシアンの顔が近付いてきて、
「今まで何をしてきたのか、もちろん隠さず余さず詳しく教えてくれるよね、ブラッド?」
耳元に息を吹きかけられながら妙に色っぽい声で囁かれた。
それ、お願いじゃないよな? なんで俺、ルシアンに脅されてんの?
「ここじゃなんだから、中に入ろうか」
俺は、俺たちの親密なじゃれあいを見ていいものかどうか視線のやり場に護衛たちが困っているのにも気付かずに(それどころじゃなかった)、有無を言わさない態度のルシアンに手と首を掴まれたまま、おとなしく宿の中へと連行されるしかなかったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる