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エウル、腹心達に相談する
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前は叔母上の操る馬車、左右に人はなく、後ろからついてくる馬車にも距離を置かせた。他に聞かれる恐れがないのを確認して、俺は周囲をかためる腹心達に、きりだした。
「到着したら、しばらく宿営しようかと思うんだが」
腹心達が顔を見合わせ、スレイが代表して聞いてくる。
「王の居留地まであと二日だろう。なぜ今ここで?」
「おまえたちはさっきの事故をどう思った?」
皆、また顔を見合わせる。今度はウォリが答えた。
「まあ、おかしいよね。新しいのに壊れるなんてさ」
「俺もそう思う。……王の居留地から馬の引き渡し場所まで行き、ここに来るまでの間に、誰かに細工されたと考えるしかない。
ということは、やった者は、この放牧集団の中か、王の居留地にいるということだ。あるいは、どちらにも何人もの協力者がいるのかもしれない。
もしも、公主を……」
腕の中の公主が、ぴくりと反応した。俺は思わず口を噤んだ。自分の名前を聞き分けたらしい。他の意味が通じていないにせよ、耳にするすべてを覚えようとしている。その次に続ける言葉を選ばずにはいられなかった。
「……この婚姻を望まない者が、どちらにも居るのならば、あちらに着いたら、単純に言って、今の状況より敵が増える。
その前に、まずはアイル内の者を確かめたい。誰を信用していいかわからないのでは、戦いようもない」
「俺は反対だ。はやく王の許へ行き、守り手を増やしてもらうべきだ」
スレイが強く反論した。それは、さっき俺も考えたことだった。
「結局は同じだ。いつまでも親父様の許には居られない。
俺が親父様に命じられたのは、公主を妻にし、軍馬を増やすこと、だ。広い放牧地が要るし、人手も要る。遅かれ早かれ、見極めはつけなければならないんだ。だったら早い方がいいはずだ」
「俺はエウルに賛成。裏切り者が誰かもわからないのは、落ち着かない。飯がまずくなる」
「俺も同じだ。わざわざまぎれこんで、俺たちを欺こうとしてるってんなら、けったくそ悪いしな」
ナタルとリャノが賛同した。
「俺は、公主様の安全を一番に考えた方がいいと思うけどな。それがどっちになるのかはわからないんだけどさ」
面目ないというように、ウォリが頭を掻きながら言う。……実にウォリらしい。こいつが底抜けに優しいと思うのは、こういう時だ。たいていは、思ったことをそのまま口にして、相手に小突かれてばかりの、どうしようもなく一言二言多い奴なんだが。
その人の好さにあてられて、皆の間にただよっていた尖った雰囲気が、霧散した。
「いや、そのとおりだ。だからこそ俺は、少しでも早く、少なくてもいいから、確かな味方が欲しい。
そうしておけば、後で人が増える時も、増えた分だけ警戒すればすむ」
「それで、それはいったいどうやるつもりだ?」
リャノに聞かれ、スレイを見遣る。
「そういうのは、スレイに聞けばどうにかなると思ったんだが。……どうしても反対か、スレイ?」
スレイは難しい顔で目を逸らした。考えているのがわかるから、誰もが黙って待つ。やがて、こちらを見もせずに口を開いた。
「居るのか居ないのかわからないものを探すのは、難しい」
「そうだな」
「だいたい、何をもって犯人だと決める?」
「俺が聞く」
「え?」
スレイが振り向いた。
「ロムランの声で聞く。害意があるのかと。相手は嘘をつけない」
誰も彼もが驚いている。皆、スレイの父と俺が、「もっと誇って使うべきだ」「使いたくない」と、言い争っていたのを知っているからな。
それを、女のためには使うと言うのだから、こいつはどうしてしまったんだと思われているのかもしれない。
皆、俺の顔をまじまじと見ているだけで、何も言わない。……呆れられてしまったのだろうか。だんだん心配になってきた。
「やはり、愚かか?」
「いや、うん、いや、そうだなあ……」
ウォリが困ったように曖昧に笑った。
「いや、悪いって言うんじゃないんだけどさ。そりゃあ、効果てきめんだもんな。でも、聞かれた方は気を悪くするだろう? 俺だったら、泣いて怒る。大将に疑われるなんてさ。……ああ、だから、絞りこめってことか。全員に聞くわけにはいかないから」
「言っておくが、絶対におまえたちを疑ったりはしないからな。おまえたちが裏切る時は、俺がどうしようもない人間になったってことだ。どうなっても、自業自得だ」
「そうだな。エウルが馬鹿やらかすんなら、一緒にやるか、全力で止めるかだな」
リャノが、にやりと笑う。
「おい、スレイ、エウルの定めの伴侶を守ると誓っていただろ。今がその第一歩目じゃないのか?」
「守るとは言ってない。誠心誠意仕えると言ったんだ。守ると言ったのは、リャノ、おまえだ」
「おまえの誠心誠意って、そんなものかよ? 屁理屈言ってんじゃねえよ」
スレイとリャノが睨みあって、お互いの馬を寄せていく。一触即発の雰囲気だ。
そこへ、ホラムが馬を進め、無言で二人の間に分け入った。離れろ、と手を振る。
普段は人のすることに口を出さないホラムの横槍だ。誰が悪いかは推して知るべし、だ。二人は不承不承手綱を引いた。
「スレイ、気になることがあるなら、言ってくれ。何がそんなに気掛かりなんだ」
俺は不思議に思って尋ねた。この五人の中で、本来、誰より女性に甘いのはスレイだ。女性というだけで無条件に敬い、大切にする。耀華公主を守らないわけがないのだ。
「……ウォリと同意見なだけだ。公主に害意のある者を探すには、どうしたって公主を襲わせなきゃならない。そんな危ないことには反対だ」
「今回みたいに不意打ちで食らうから、対応できないんだろ。だから、用意して誘い込もうって言ってんじゃねえか。来るのがわかっているなら、後れを取るもんか」
リャノが反論する。ホラムもそれは止めずに、スレイの出方を見守った。
スレイは俺に視線を向けた。……いや。すいっと滑らせて、器用に公主を指し示した。
「本当に、いいのか」
いいわけがない。
そっと、必要もないのに、公主をもっと抱き寄せる。華奢なぬくもりに、胸が疼いて、痛む。誰にも手出しのできないところへかくまって、安全に、安楽に、暮らさせてやりたい。
だけど、そんな場所など、どこにもないのだ。……この手で作り出さないかぎり。
「ああ。俺は、それこそが公主のためになると信じる」
スレイは眉を曇らせた。深い深い溜息を吐く。やがて、諦めたように言った。
「わかった。……だけど、そうだな、五日だ。隙を見せて、狙う準備をさせ、実行に移すまで五日と見て、それまでに何もなかったとしたら、アイル内はとりあえず味方と見なす。それでいいか?」
「ああ。長引かせても、俺たちの緊張も保たないだろう」
「その間、エウルはアイルを頻繁に離れろ。朝出たら、夕方まで戻ってくるな」
俺は返事に詰まった。隙を作れということなのは、わかる。わかるが、夕方までこの腕の中の娘に会えないのかと考えたら、激しく嫌だった。
が、そんなことは言っていられない。
「……わかった」
「別に、遠くまで行かなくてもいい。ここに居なければいいだけだから」
俺の渋々具合に、苦笑してスレイは付け足した。
「一番重要なのは、誰が最終的に公主の安全を守るかということなんだけど、……どうなんだ、正直に言って、俺はエニとマニがどのくらい理解しているのか、頼りになるのか、信じ切れないんだが」
「ああ。それは問題ない。むしろ人より話は簡単だ。『守れと言われたから守る』以上のことは考えたりしないからな。
それに、公主とずいぶん仲が良くなった。よく遊んでくれている。群れのチビだと認識しているんだろうな。だから、俺が何も言わなかったとしても守るはずだ」
「あ、公主って、エニとマニに、仔犬と同じだと思われてるんだ!? わかる、わかる。なーんか、よちよちしてるもんな!」
ひゃひゃひゃ、とウォリが笑った。
「あいつらの判断基準は、強いか弱いか、でかいか小さいかだからな」
「……エウル。もし言葉が通じるようになっても、そういうことは、公主に言うんじゃないぞ」
「どうしてだ」
「犬に自分より下だと思われていると知って、機嫌が良くなる女性はいない」
「そうか。わかった」
スレイに特別念を押すように言われて、俺は素直に頷いた。
「到着したら、しばらく宿営しようかと思うんだが」
腹心達が顔を見合わせ、スレイが代表して聞いてくる。
「王の居留地まであと二日だろう。なぜ今ここで?」
「おまえたちはさっきの事故をどう思った?」
皆、また顔を見合わせる。今度はウォリが答えた。
「まあ、おかしいよね。新しいのに壊れるなんてさ」
「俺もそう思う。……王の居留地から馬の引き渡し場所まで行き、ここに来るまでの間に、誰かに細工されたと考えるしかない。
ということは、やった者は、この放牧集団の中か、王の居留地にいるということだ。あるいは、どちらにも何人もの協力者がいるのかもしれない。
もしも、公主を……」
腕の中の公主が、ぴくりと反応した。俺は思わず口を噤んだ。自分の名前を聞き分けたらしい。他の意味が通じていないにせよ、耳にするすべてを覚えようとしている。その次に続ける言葉を選ばずにはいられなかった。
「……この婚姻を望まない者が、どちらにも居るのならば、あちらに着いたら、単純に言って、今の状況より敵が増える。
その前に、まずはアイル内の者を確かめたい。誰を信用していいかわからないのでは、戦いようもない」
「俺は反対だ。はやく王の許へ行き、守り手を増やしてもらうべきだ」
スレイが強く反論した。それは、さっき俺も考えたことだった。
「結局は同じだ。いつまでも親父様の許には居られない。
俺が親父様に命じられたのは、公主を妻にし、軍馬を増やすこと、だ。広い放牧地が要るし、人手も要る。遅かれ早かれ、見極めはつけなければならないんだ。だったら早い方がいいはずだ」
「俺はエウルに賛成。裏切り者が誰かもわからないのは、落ち着かない。飯がまずくなる」
「俺も同じだ。わざわざまぎれこんで、俺たちを欺こうとしてるってんなら、けったくそ悪いしな」
ナタルとリャノが賛同した。
「俺は、公主様の安全を一番に考えた方がいいと思うけどな。それがどっちになるのかはわからないんだけどさ」
面目ないというように、ウォリが頭を掻きながら言う。……実にウォリらしい。こいつが底抜けに優しいと思うのは、こういう時だ。たいていは、思ったことをそのまま口にして、相手に小突かれてばかりの、どうしようもなく一言二言多い奴なんだが。
その人の好さにあてられて、皆の間にただよっていた尖った雰囲気が、霧散した。
「いや、そのとおりだ。だからこそ俺は、少しでも早く、少なくてもいいから、確かな味方が欲しい。
そうしておけば、後で人が増える時も、増えた分だけ警戒すればすむ」
「それで、それはいったいどうやるつもりだ?」
リャノに聞かれ、スレイを見遣る。
「そういうのは、スレイに聞けばどうにかなると思ったんだが。……どうしても反対か、スレイ?」
スレイは難しい顔で目を逸らした。考えているのがわかるから、誰もが黙って待つ。やがて、こちらを見もせずに口を開いた。
「居るのか居ないのかわからないものを探すのは、難しい」
「そうだな」
「だいたい、何をもって犯人だと決める?」
「俺が聞く」
「え?」
スレイが振り向いた。
「ロムランの声で聞く。害意があるのかと。相手は嘘をつけない」
誰も彼もが驚いている。皆、スレイの父と俺が、「もっと誇って使うべきだ」「使いたくない」と、言い争っていたのを知っているからな。
それを、女のためには使うと言うのだから、こいつはどうしてしまったんだと思われているのかもしれない。
皆、俺の顔をまじまじと見ているだけで、何も言わない。……呆れられてしまったのだろうか。だんだん心配になってきた。
「やはり、愚かか?」
「いや、うん、いや、そうだなあ……」
ウォリが困ったように曖昧に笑った。
「いや、悪いって言うんじゃないんだけどさ。そりゃあ、効果てきめんだもんな。でも、聞かれた方は気を悪くするだろう? 俺だったら、泣いて怒る。大将に疑われるなんてさ。……ああ、だから、絞りこめってことか。全員に聞くわけにはいかないから」
「言っておくが、絶対におまえたちを疑ったりはしないからな。おまえたちが裏切る時は、俺がどうしようもない人間になったってことだ。どうなっても、自業自得だ」
「そうだな。エウルが馬鹿やらかすんなら、一緒にやるか、全力で止めるかだな」
リャノが、にやりと笑う。
「おい、スレイ、エウルの定めの伴侶を守ると誓っていただろ。今がその第一歩目じゃないのか?」
「守るとは言ってない。誠心誠意仕えると言ったんだ。守ると言ったのは、リャノ、おまえだ」
「おまえの誠心誠意って、そんなものかよ? 屁理屈言ってんじゃねえよ」
スレイとリャノが睨みあって、お互いの馬を寄せていく。一触即発の雰囲気だ。
そこへ、ホラムが馬を進め、無言で二人の間に分け入った。離れろ、と手を振る。
普段は人のすることに口を出さないホラムの横槍だ。誰が悪いかは推して知るべし、だ。二人は不承不承手綱を引いた。
「スレイ、気になることがあるなら、言ってくれ。何がそんなに気掛かりなんだ」
俺は不思議に思って尋ねた。この五人の中で、本来、誰より女性に甘いのはスレイだ。女性というだけで無条件に敬い、大切にする。耀華公主を守らないわけがないのだ。
「……ウォリと同意見なだけだ。公主に害意のある者を探すには、どうしたって公主を襲わせなきゃならない。そんな危ないことには反対だ」
「今回みたいに不意打ちで食らうから、対応できないんだろ。だから、用意して誘い込もうって言ってんじゃねえか。来るのがわかっているなら、後れを取るもんか」
リャノが反論する。ホラムもそれは止めずに、スレイの出方を見守った。
スレイは俺に視線を向けた。……いや。すいっと滑らせて、器用に公主を指し示した。
「本当に、いいのか」
いいわけがない。
そっと、必要もないのに、公主をもっと抱き寄せる。華奢なぬくもりに、胸が疼いて、痛む。誰にも手出しのできないところへかくまって、安全に、安楽に、暮らさせてやりたい。
だけど、そんな場所など、どこにもないのだ。……この手で作り出さないかぎり。
「ああ。俺は、それこそが公主のためになると信じる」
スレイは眉を曇らせた。深い深い溜息を吐く。やがて、諦めたように言った。
「わかった。……だけど、そうだな、五日だ。隙を見せて、狙う準備をさせ、実行に移すまで五日と見て、それまでに何もなかったとしたら、アイル内はとりあえず味方と見なす。それでいいか?」
「ああ。長引かせても、俺たちの緊張も保たないだろう」
「その間、エウルはアイルを頻繁に離れろ。朝出たら、夕方まで戻ってくるな」
俺は返事に詰まった。隙を作れということなのは、わかる。わかるが、夕方までこの腕の中の娘に会えないのかと考えたら、激しく嫌だった。
が、そんなことは言っていられない。
「……わかった」
「別に、遠くまで行かなくてもいい。ここに居なければいいだけだから」
俺の渋々具合に、苦笑してスレイは付け足した。
「一番重要なのは、誰が最終的に公主の安全を守るかということなんだけど、……どうなんだ、正直に言って、俺はエニとマニがどのくらい理解しているのか、頼りになるのか、信じ切れないんだが」
「ああ。それは問題ない。むしろ人より話は簡単だ。『守れと言われたから守る』以上のことは考えたりしないからな。
それに、公主とずいぶん仲が良くなった。よく遊んでくれている。群れのチビだと認識しているんだろうな。だから、俺が何も言わなかったとしても守るはずだ」
「あ、公主って、エニとマニに、仔犬と同じだと思われてるんだ!? わかる、わかる。なーんか、よちよちしてるもんな!」
ひゃひゃひゃ、とウォリが笑った。
「あいつらの判断基準は、強いか弱いか、でかいか小さいかだからな」
「……エウル。もし言葉が通じるようになっても、そういうことは、公主に言うんじゃないぞ」
「どうしてだ」
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