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第六章 もう一回、転
あばたもえくぼ
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何度も何度も唇が重なる。角度を変え、場所を変え、リズムを変えて、時に短く、時に長く、こすりあわせることも、食むようにすることも。
触れあうたびに、体のどこかが震えて、熱が生まれる。
……気持ちよかった。
というか、気持ちいいことだったんだって、気づいた。
これまで、たくさん八島さんに触れられてきた。抱き上げられて、抱きしめられて、撫でられて、囁かれて、舐められて、キスされて。そのたびに、体の中がざわめいて、これがなになのか、どうしたらいいのかもわからず、言葉に詰まったり、怒ったり。
だけど、こうしているとわかる。それだけじゃなくて、頭を洗ってもらうのも、髪を乾かしてもらうのも、全身マッサージをしてもらうのも、それどころか、手を取って導いてくれることさえ。
たぶん、このキスと同じ。
唇の上を、羽でくすぐるような感覚がよぎっていく。ふ、と息が乱れる。頭の中がふわふわして、ドキドキしてバクバクして、胸が焼けるように熱い。
熱い息を八島さんに吹きかけるのが躊躇われるから、離れた瞬間を狙って呼吸するのだけれど、タイミングをつかむのが難しい。酸欠なのか、過呼吸なのか、息があがってしかたなかった。
彼の動きを追う。離れれば二人の間にある空気の温度まで鋭敏に探って、次の訪れを待ちわびる。
心も体も、触れあうたびにどんどん満ちていって、あふれかえって、それが八島さんに届いて、また与えられる。そうやってぐるぐるとめぐっては増えて大きくなっていくものに真っ白に埋め尽くされていく。何にも考えられなくなっていく。
私はもう、自分が何をしているのかもわからないままに、ただその心地よさに浸って、爪先から頭のてっぺんまで、どぷんと溺れた。
どれだけそうしていたのだろう。
腕が、ずるっとすべり落ち、あれっと思った。うまく力が入らない。上に上げ続けていたせいで血のめぐりが悪くなったのか、全身がゆるゆるになっちゃっているせいなのか。
気をとられて、キスが止まる。
目に入る、自分の腕と、部屋の様子、……と、ほぼ視界をいっぱいに埋めている八島さんの顔!?
反射的に冷めた空気を吸い込み、頭の中の温度が、一度下がった。
うううううううんんわあああああああっ!? 今まで夢中になって、何やってた、私ーーっっ!?
私はあわてて、そろそろと自分の胸元に腕を折りたたんだ。踵もゆっくり床の上に下ろす。
そんな私の唇の一番はしっこに、屈んだ八島さんが、さっきと同じにまた口をくっつけた。それに応えられないでいたら、彼はちょっとだけ離れて囁いた。
「千世様?」
名前のとおりに吐きだされた息が唇を撫ぜて、体が反応して震える。気持ちいい。そう感じる自分に、どうしようもないほど狼狽えた。
私、どうなっちゃってるの、恥ずかしいいいいいいいい……っ。
問いかけるように呼ばれても、何をどう言ったらいいのかわからない。口ごもって、目をうろうろさせるしかなくて。
ようやく空気を読んでくれたのか、八島さんが体を立てて顔を上げた。二人の間に距離ができて、ホッとする。
けれど、ほんの一瞬でそれは間違いだったと気づかされた。瞳をのぞきこまれて、視線があう。さっきまで近すぎたおかげで合ってなかった目の焦点が合い、ほんのちょっと前までの空気をまとったままの、つまり、色気だだ漏れのイケメンに見つめられる破目に陥り、息が止まった。
……目が逸らせない。息ができない。顔が熱い。心臓痛い。悶え死にそう……。
八島さんはそんな私を見て、実に楽しそうに華やかに笑んだ。抱きしめる腕を一つ解いて、私の唇の真ん中を人差し指でつっつく。
「離れても、まだ私のことを考えておいでですね?」
わああああっ!? こ、この性悪執事っ!! なんってことをーっ!?
図星を指されて、羞恥メーターがぎゅいーんとMAXを振り切った。顔がボッと火を噴いたかと思うほどいっぺんに熱くなり、私は思わず涙目になって叫んだ。
「や、八島さんのっ、馬鹿馬鹿っ、おたんこなすーっっ!!」
おたんこなすってなんだ、と自分でも思ったが、罵ったって悪くないと思う、絶対に。
なのに八島さんは、悪びれる様子もなく、それどころか、珍しく、ふふっと声をあげて笑った。
「怒った千世様は、いっそう可愛らしくていらっしゃいますね」
絶句、した。
あぜんとして、自分が怒っているのか、照れているのか、呆れているのかもよくわからなかった。いや、その全部だったのかもしれない。
私は最早、天然無自覚女たらしの無邪気な口説き文句にぐうの音も出ず、燃えそうな頬で唇をかみしめ、いまだゆるまない彼の腕の中、とにかく上目遣いに八島さんを睨むしかできなかった。
触れあうたびに、体のどこかが震えて、熱が生まれる。
……気持ちよかった。
というか、気持ちいいことだったんだって、気づいた。
これまで、たくさん八島さんに触れられてきた。抱き上げられて、抱きしめられて、撫でられて、囁かれて、舐められて、キスされて。そのたびに、体の中がざわめいて、これがなになのか、どうしたらいいのかもわからず、言葉に詰まったり、怒ったり。
だけど、こうしているとわかる。それだけじゃなくて、頭を洗ってもらうのも、髪を乾かしてもらうのも、全身マッサージをしてもらうのも、それどころか、手を取って導いてくれることさえ。
たぶん、このキスと同じ。
唇の上を、羽でくすぐるような感覚がよぎっていく。ふ、と息が乱れる。頭の中がふわふわして、ドキドキしてバクバクして、胸が焼けるように熱い。
熱い息を八島さんに吹きかけるのが躊躇われるから、離れた瞬間を狙って呼吸するのだけれど、タイミングをつかむのが難しい。酸欠なのか、過呼吸なのか、息があがってしかたなかった。
彼の動きを追う。離れれば二人の間にある空気の温度まで鋭敏に探って、次の訪れを待ちわびる。
心も体も、触れあうたびにどんどん満ちていって、あふれかえって、それが八島さんに届いて、また与えられる。そうやってぐるぐるとめぐっては増えて大きくなっていくものに真っ白に埋め尽くされていく。何にも考えられなくなっていく。
私はもう、自分が何をしているのかもわからないままに、ただその心地よさに浸って、爪先から頭のてっぺんまで、どぷんと溺れた。
どれだけそうしていたのだろう。
腕が、ずるっとすべり落ち、あれっと思った。うまく力が入らない。上に上げ続けていたせいで血のめぐりが悪くなったのか、全身がゆるゆるになっちゃっているせいなのか。
気をとられて、キスが止まる。
目に入る、自分の腕と、部屋の様子、……と、ほぼ視界をいっぱいに埋めている八島さんの顔!?
反射的に冷めた空気を吸い込み、頭の中の温度が、一度下がった。
うううううううんんわあああああああっ!? 今まで夢中になって、何やってた、私ーーっっ!?
私はあわてて、そろそろと自分の胸元に腕を折りたたんだ。踵もゆっくり床の上に下ろす。
そんな私の唇の一番はしっこに、屈んだ八島さんが、さっきと同じにまた口をくっつけた。それに応えられないでいたら、彼はちょっとだけ離れて囁いた。
「千世様?」
名前のとおりに吐きだされた息が唇を撫ぜて、体が反応して震える。気持ちいい。そう感じる自分に、どうしようもないほど狼狽えた。
私、どうなっちゃってるの、恥ずかしいいいいいいいい……っ。
問いかけるように呼ばれても、何をどう言ったらいいのかわからない。口ごもって、目をうろうろさせるしかなくて。
ようやく空気を読んでくれたのか、八島さんが体を立てて顔を上げた。二人の間に距離ができて、ホッとする。
けれど、ほんの一瞬でそれは間違いだったと気づかされた。瞳をのぞきこまれて、視線があう。さっきまで近すぎたおかげで合ってなかった目の焦点が合い、ほんのちょっと前までの空気をまとったままの、つまり、色気だだ漏れのイケメンに見つめられる破目に陥り、息が止まった。
……目が逸らせない。息ができない。顔が熱い。心臓痛い。悶え死にそう……。
八島さんはそんな私を見て、実に楽しそうに華やかに笑んだ。抱きしめる腕を一つ解いて、私の唇の真ん中を人差し指でつっつく。
「離れても、まだ私のことを考えておいでですね?」
わああああっ!? こ、この性悪執事っ!! なんってことをーっ!?
図星を指されて、羞恥メーターがぎゅいーんとMAXを振り切った。顔がボッと火を噴いたかと思うほどいっぺんに熱くなり、私は思わず涙目になって叫んだ。
「や、八島さんのっ、馬鹿馬鹿っ、おたんこなすーっっ!!」
おたんこなすってなんだ、と自分でも思ったが、罵ったって悪くないと思う、絶対に。
なのに八島さんは、悪びれる様子もなく、それどころか、珍しく、ふふっと声をあげて笑った。
「怒った千世様は、いっそう可愛らしくていらっしゃいますね」
絶句、した。
あぜんとして、自分が怒っているのか、照れているのか、呆れているのかもよくわからなかった。いや、その全部だったのかもしれない。
私は最早、天然無自覚女たらしの無邪気な口説き文句にぐうの音も出ず、燃えそうな頬で唇をかみしめ、いまだゆるまない彼の腕の中、とにかく上目遣いに八島さんを睨むしかできなかった。
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