異世界執事

伊簑木サイ

文字の大きさ
51 / 87
第八章 そして二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。(R18バージョン)

欲情して

しおりを挟む
 唇が触れあう。それだけで、幸せで、安心して、もっともっと触れたくて、無意識に口を開く。すべりこんできた舌に舌をからめとられてこすりあわされた瞬間、頭の奥に、意識が揺らぐような快感が奔った。

「んんっ」

 肌よりも深い場所で彼を感じられる。それがたまらなく嬉しい。
 唇が離れ、頬を舐められる。慕わしさに彼の背を撫ぜれば、深く抱きこまれて、耳を齧られた。思わず身を竦ませると、今度は舌が這わされる。彼の手が首筋をなぞり、髪をかきあげ、手品のように簡単に簪で後頭部に留めつけていく。そうして無防備にさらけ出されたうなじにチュッと吸いつかれた瞬間、頭の中が一瞬真っ白くなった。

「あっ」
「ここも感じるのですね?」
「ああんっ」

 優しい声で尋ねられながら同じ場所にキスを落とされて、さらに一直線に強い快感が通りぬけていく。気持ちいい。力が入らない。その余韻が抜けもしないうちに、首の後ろへと、音をたててキスが移動していった。
 そうして首の真後ろまできた時、シュルとかすかに衣擦れの音がして、バスローブの襟がくつろげられた。うなじにひんやりとした外気を感じて心細さを感じたのも束の間、柔らかくあたたかいものが触れる。彼の唇だと気付くより先に、甘い疼きに体の芯が、じんと痺れて。

「あっ、はん」

 唇で触れられるたびに、鼻から抜ける高い声が、弾き出されていくのが止められない。
 バスローブを押し下げながら、いくつもいくつも背に散らされるそれを、まるで花びらみたいだと思った。柔らかで、すべらかで、儚い感触なのに、情熱を宿してひらひらと降りそそぐ。
 際限なく繰り返されるキスに、魂まで請われている気がして、心が震えてしかたなかった。

「んんーっ」

 感じる場所を探り当てられ、叫ぶようにあえいだ。……何度も、何度も。そのたびに丹念に愛撫をほどこされては、熱が体の内側に溜まっていく。じりじりと、ゆらゆらと、熱は今度は内側から肌を炙りだし、耐え難い疼きをもたらしはじめ、必死に彼の腕にしがみついた。
 いつの間にかずいぶん前のめりになっていて、気付けばすぐ目の前にクッションがあった。うつぶせにその上に下ろされる。
 姿勢が伸びて楽になったけれど、八島さんのぬくもりが離れていってしまう。反射的に彼を追って顔を上げたら、床に下りて膝をついた彼と、ちょうど目が合った。彼は私に笑いかけて身をかがめ、バスローブが引っ掛かっているだけのむきだしになった腰骨のところにキスをした。

「あんっ」

 直接下腹部に届くひときわ激しい感覚に、たまらず大きな声をあげてしまう。

「ここも、なのですね?」

 すかさず歯が立てられ、吸いつかれ、執拗に舐られ。自分では制御できないどうしようもない快感に、甘く高く鼻にかかった声がとめどなくこぼれて。

「ああ、そうです。この声と、同じ」

 うっとりとした呟きとともに、腰の線に沿って掌がのぼってくる。脇から素肌を撫ぜ、前にまわりこみ、あっと思った時には、胸を包みこまれていた。全身に快感が漣のように広がる。
 やわやわと掌の中におさめるように揉まれ、次の瞬間に頂をつままれた。びりびりとした疼きが胸の先から下腹に向かう。同時に腰にもねっとりと舌が這わされて、強烈な快楽が背筋をはしりぬけ、光が頭の中で瞬いた。

「あ、あ」
「ここは、そんなに感じるのですか?」

 声が移動して、耳元にキスされた。ぼんやりと目を開ければ、熱を宿した瞳で微笑みかけられる。肩をやんわりと押されて、されるがままに仰向けになった。そうして露わになった胸元へと、彼が顔を寄せてくる。
 掌で包まれていない方の胸。その中心を咥えこまれた。目の前で繰り広げられる淫らな光景に息を吞み、同時にすぐに加えられた舌の絶妙な愛撫に、頂で快感がはじける。息が詰まって、声も出せずに身悶えるのに、そうしてる間にも反対側も指でこねられ、不規則な予想できない刺激に翻弄されて。

「あっ、あっ、あっ、あっ」

 私はあられもない声をあげて、どうしようもなくびくびくと震えた。
 そうして与えられる疼きごとに、彼への愛しさが増していくようだった。快楽が体の中を走りまわって、自分でもわからない間に心の奥に積み重ねてきた思いを見つけだしては揺り起こす。彼への思いが次々目覚めて、広がって、体の中に満ちていって。
 好き。
 好き。
 内側から破裂してしまいそうなほどの息がつまる思いに、私はたまらず、胸元の艶やかな黒髪に指をさし入れた。

「八島、さん」

 胸から口を離し、彼が上目遣いに見上げてくる。

「ああ、千世様、これを、もっと、もっとください」

 うん、と答えた。掠れた声しか出なかった。私ももっと彼を感じたかった。キスされたい。自分のすべてで彼に触れたい。彼の与えてくれるもので、体中全部全部満たされたかった。
 彼がまた乳房に吸いつく。下腹部がきゅっとくる感覚にうかされて、彼の頭を強く抱きしめる。
 声が止まらない。指と舌と唇とに絶え間なく愛撫されて、ふくれあがって行き場のない快楽が苦しい。でも、まだ足りなくて。なのに、どうしたいのか、どうされたいのかもわからない。ただ、ただ、好きでたまらない人の名が、その人を求めて、体から転がり出ていく。

「八島、さん、八島、さんっ」
「はい、千世様?」
「ん、んっ、もっと……」
「もっと?」

 愛撫が止められ、聞き返される。やだ、やめないで、と思う。もっと、もっと、

「……いっぱい」

 どこもかしこも、触れないところがないほどに触れて。私を満たして。
 最後まで言う前に、自分の本音に気付いて、あまりの恥ずかしさに言葉を飲みこんだ。
 だけど、八島さんはそれだけで。

「もっと、いっぱいでございますね」

 そうして、わかっていますと言わんばかりに優しく笑み、乳房を下から押し上げるようにキスをする。それもまた気持ちよくて、声と一緒に体が揺れてしまう。

「承知いたしました。お体のすみずみまでお探しいたしましょう。千世様の心の臓が騒ぎ、生気が甘美に揺らぐところを。……ですが、ここでは少々窮屈でございますね。寝室へお運びいたします」

 八島さんは脱げかけのバスローブもそのままに、軽々と私を抱き上げた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...