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35.やったか!?
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スッと目を閉じた私は、自分の中を巡る魔力の流れを知覚するため集中する。
両の手のひらを前方にかざすとふわりと魔導風が発生した。
(土のマナたちよ、チカラを貸して――!)
左手につけたブレスレットの魔石を通して、体内に暖かい何かが流れ込んでくるのを感じる。土のマナと私の魔力が混ざり合い、再び手元まで押し出されていく。
(ここだっ!)
直感的にタイミングを見計らった私は、目を開けると同時にオレンジ色の光をまとった両手を天に掲げる。言葉では言い表せない手ごたえを、振り下ろすと同時に巨大ミミズめがけて投げつけた。
「いっけぇぇえええ!!」
掛け声と同時に、横から大剣を構えたラスプが飛び出す。囮のルカがドカッ!と敵の頭を蹴り、上半身(?)を地に沈めてくれる。
その瞬間を狙い、私の魔導が巨大ミミズの手前に着弾する。モコッと競りあがった土たちが楔のように巨体の首あたりと尻尾を固定する。焦ったミミズは何とか逃れようと暴れるのだけどガッチリ捕まえているので脱出は不可能だ。
ザンッ!と、小気味よい音が響き、ラスプが切り裂いた尻尾の先端が宙を舞った。一瞬、収縮するように全身を震わせた巨大ミミズは次の瞬間すさまじい咆哮を辺りに轟かせた。
「やったか!?」
「そのセリフはやってないフラグが立ってしまうので避けるべきかと」
何だか妙なことを言うルカの心配をよそに、巨大ミミズのワームベームは傷口から体液をびちゃびちゃと流しながら大人しくなった。悶えるように身体をくねらせては痙攣している。
離れた位置から見守っていた村人とゴブリン達から歓声があがった。だけど、その喜びも生理的に嫌な音が響いてミミズの尻尾がブジュウッッ!と再生するまでだった。再び悲鳴を上げた住民が震え上がる。
「ああいった巨大生物は再生能力が高いのがお約束ですが、絶命するまで切り刻むのは骨が折れそうですね」
「任せとけ、何度でも輪切りにしてやらぁ」
やれやれとため息をつくルカと、再び剣を構えるラスプをよそに、私はゆっくりとワームベームの方へ歩いていった。
「お、おい! どこ行く気だ」
いつ力任せに土の枷を外して暴れだすかもしれない恐怖をなんとか押しやり、固定されている首元までやってくる。そっと手を当てると、人肌よりは少し暖かい温度が伝わってきた。
彼はもう抵抗する気も残っていないらしく、少しだけ震えていた。
怖いんだ、死ぬまで切り刻まれる未来を悟って怯えてる。
「手荒なことしてゴメンね」
声だけじゃなくて、魔力的な何かでも伝わらないかと手のひらを通じて話し掛けてみる。少しだけ自由の利く頭を動かしたミミズはこちらを見るように首をひねった。
「私の言葉、わかる? わかるなら尻尾を二回動かしてみて」
じぃぃーっと、じれったくなるほどの時間がすぎる。やっぱりダメかと諦めかけたその時、尻尾の先端がぴたーんぴたーんと少しだけ上下した。
「ありがとう、あなたは元からここに住んでたの?」
またぴたーんぴたーん。やっぱりそうだったんだ。
「いきなり頭上で大騒ぎし始めたからビックリしたんだよね、でもそれで我を忘れて暴れるのはダメだよ」
心なしかシュン……としたようなミミズは力なく横たわっている。私はできるだけ優しく話し掛けてあげた。
「もう人を傷つけないって約束するなら、大丈夫。あなたも今日から私達の仲間にしてあげる」
***
「と、いうわけで、今日から畑の番犬ならぬ『番ミミズ』になってもらう、わーむ君です! 彼も国民の一人なので仲良くするよーに!」
「おかしいだろ!」
こちらに指を突きたてたラスプが力の限りツッコミを入れる。あれ? 良い案だと思ったんだけど。
拘束を解かれたワームベーム改め、わーむ君は私の横で申し訳なさそうに身体を縮こまらせている。そのつるっとした頭部を剣で指し示しながら狼男は止まらない。
「ンな紐ミミズがオレらと同じ国民? 冗談いってねぇで、さっさとぶった切って畑の肥やしにしちまえ!」
「ちょっと! そんな言い方ないでしょ。驚かせたのはこっちなんだからおあいこじゃない。けが人も大したことなかったみたいだし、わーむ君はパニックになってただけだって」
腰に手をあてて怒る仕草をしたのに、ルカも眉を顰めながら反対意見を出した。
「さすがにそれは……意思の疎通ができる魔族ならともかく、ワームベームは知能の低い魔物です。それを我々と同じ国民として扱うのは……」
「意思の疎通ならできるわよ。少なくともこっちが言ってることは分かってるみたいだし。ね?」
見上げて問いかけると、こちらを見下ろしながらぴたーんぴたーんと尻尾を動かす。すっかりこれが「はい」の返事になったようだ。
「私が目指すのは『種族の垣根のない』優しい国よ。悪意がなければミミズだろうがゴブリンだろうが人間だろうが、みんないっしょくたに国民です。平等に扱うからね」
みんな戸惑ったように顔を見合わせていたのだけど、『人間である』私の今の宣言はゴブリン達には概ね好評だったようで、笑顔がところどころ見受けられる。
それなのにまだ警戒心むき出しのラスプは武装解除をしないまま半目でこんなことを言い出した。
「悪意がないかどうかなんて、どうやって見極めるんだっつの」
「わーむ君、ゴー!」
「ぎゃあ!?」
◇◆◇
【手首ちゃんの一言コーナー】
手首です。フルアーマーさんの施設を見てきましたが素晴らしい出来栄えになっていました!感動ですっ
そうそう、前回の質問わたくしとグランドマスターの回答を載せていませんでしたね。えぇとわたくしの好きな色ですがやはり白が好きですね。お洗濯をしていて汚れものがまっさらになっていくのを見るのは気持ちがいいです。グランドマスターのお答えは「やっぱ黒髪かなー!でも赤も捨てがたいよね、でもやっぱり一番は銀髪。これに青目は外せない!女の子だったら暖色系が好きだなぁ~オレンジとか」…好きな色?
両の手のひらを前方にかざすとふわりと魔導風が発生した。
(土のマナたちよ、チカラを貸して――!)
左手につけたブレスレットの魔石を通して、体内に暖かい何かが流れ込んでくるのを感じる。土のマナと私の魔力が混ざり合い、再び手元まで押し出されていく。
(ここだっ!)
直感的にタイミングを見計らった私は、目を開けると同時にオレンジ色の光をまとった両手を天に掲げる。言葉では言い表せない手ごたえを、振り下ろすと同時に巨大ミミズめがけて投げつけた。
「いっけぇぇえええ!!」
掛け声と同時に、横から大剣を構えたラスプが飛び出す。囮のルカがドカッ!と敵の頭を蹴り、上半身(?)を地に沈めてくれる。
その瞬間を狙い、私の魔導が巨大ミミズの手前に着弾する。モコッと競りあがった土たちが楔のように巨体の首あたりと尻尾を固定する。焦ったミミズは何とか逃れようと暴れるのだけどガッチリ捕まえているので脱出は不可能だ。
ザンッ!と、小気味よい音が響き、ラスプが切り裂いた尻尾の先端が宙を舞った。一瞬、収縮するように全身を震わせた巨大ミミズは次の瞬間すさまじい咆哮を辺りに轟かせた。
「やったか!?」
「そのセリフはやってないフラグが立ってしまうので避けるべきかと」
何だか妙なことを言うルカの心配をよそに、巨大ミミズのワームベームは傷口から体液をびちゃびちゃと流しながら大人しくなった。悶えるように身体をくねらせては痙攣している。
離れた位置から見守っていた村人とゴブリン達から歓声があがった。だけど、その喜びも生理的に嫌な音が響いてミミズの尻尾がブジュウッッ!と再生するまでだった。再び悲鳴を上げた住民が震え上がる。
「ああいった巨大生物は再生能力が高いのがお約束ですが、絶命するまで切り刻むのは骨が折れそうですね」
「任せとけ、何度でも輪切りにしてやらぁ」
やれやれとため息をつくルカと、再び剣を構えるラスプをよそに、私はゆっくりとワームベームの方へ歩いていった。
「お、おい! どこ行く気だ」
いつ力任せに土の枷を外して暴れだすかもしれない恐怖をなんとか押しやり、固定されている首元までやってくる。そっと手を当てると、人肌よりは少し暖かい温度が伝わってきた。
彼はもう抵抗する気も残っていないらしく、少しだけ震えていた。
怖いんだ、死ぬまで切り刻まれる未来を悟って怯えてる。
「手荒なことしてゴメンね」
声だけじゃなくて、魔力的な何かでも伝わらないかと手のひらを通じて話し掛けてみる。少しだけ自由の利く頭を動かしたミミズはこちらを見るように首をひねった。
「私の言葉、わかる? わかるなら尻尾を二回動かしてみて」
じぃぃーっと、じれったくなるほどの時間がすぎる。やっぱりダメかと諦めかけたその時、尻尾の先端がぴたーんぴたーんと少しだけ上下した。
「ありがとう、あなたは元からここに住んでたの?」
またぴたーんぴたーん。やっぱりそうだったんだ。
「いきなり頭上で大騒ぎし始めたからビックリしたんだよね、でもそれで我を忘れて暴れるのはダメだよ」
心なしかシュン……としたようなミミズは力なく横たわっている。私はできるだけ優しく話し掛けてあげた。
「もう人を傷つけないって約束するなら、大丈夫。あなたも今日から私達の仲間にしてあげる」
***
「と、いうわけで、今日から畑の番犬ならぬ『番ミミズ』になってもらう、わーむ君です! 彼も国民の一人なので仲良くするよーに!」
「おかしいだろ!」
こちらに指を突きたてたラスプが力の限りツッコミを入れる。あれ? 良い案だと思ったんだけど。
拘束を解かれたワームベーム改め、わーむ君は私の横で申し訳なさそうに身体を縮こまらせている。そのつるっとした頭部を剣で指し示しながら狼男は止まらない。
「ンな紐ミミズがオレらと同じ国民? 冗談いってねぇで、さっさとぶった切って畑の肥やしにしちまえ!」
「ちょっと! そんな言い方ないでしょ。驚かせたのはこっちなんだからおあいこじゃない。けが人も大したことなかったみたいだし、わーむ君はパニックになってただけだって」
腰に手をあてて怒る仕草をしたのに、ルカも眉を顰めながら反対意見を出した。
「さすがにそれは……意思の疎通ができる魔族ならともかく、ワームベームは知能の低い魔物です。それを我々と同じ国民として扱うのは……」
「意思の疎通ならできるわよ。少なくともこっちが言ってることは分かってるみたいだし。ね?」
見上げて問いかけると、こちらを見下ろしながらぴたーんぴたーんと尻尾を動かす。すっかりこれが「はい」の返事になったようだ。
「私が目指すのは『種族の垣根のない』優しい国よ。悪意がなければミミズだろうがゴブリンだろうが人間だろうが、みんないっしょくたに国民です。平等に扱うからね」
みんな戸惑ったように顔を見合わせていたのだけど、『人間である』私の今の宣言はゴブリン達には概ね好評だったようで、笑顔がところどころ見受けられる。
それなのにまだ警戒心むき出しのラスプは武装解除をしないまま半目でこんなことを言い出した。
「悪意がないかどうかなんて、どうやって見極めるんだっつの」
「わーむ君、ゴー!」
「ぎゃあ!?」
◇◆◇
【手首ちゃんの一言コーナー】
手首です。フルアーマーさんの施設を見てきましたが素晴らしい出来栄えになっていました!感動ですっ
そうそう、前回の質問わたくしとグランドマスターの回答を載せていませんでしたね。えぇとわたくしの好きな色ですがやはり白が好きですね。お洗濯をしていて汚れものがまっさらになっていくのを見るのは気持ちがいいです。グランドマスターのお答えは「やっぱ黒髪かなー!でも赤も捨てがたいよね、でもやっぱり一番は銀髪。これに青目は外せない!女の子だったら暖色系が好きだなぁ~オレンジとか」…好きな色?
応援ありがとうございます!
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