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1 世界を救うため、俺は犠牲になる
しおりを挟む山のように巨大なエンシェントドラゴンが圧倒的な力で俺たち王国軍を蹴散らしていく。
「くっ、聖剣が折れるとは――」
俺の隣で、勇者ブライが崩れ落ちた。
人類の希望である勇者の聖剣が、あっさりと壊されるとは――。
まさに絶望的な戦力差だった。
「だめ、最上位魔法も通じないわ……」
賢者ソフィアが悲痛な声でうめく。
彼女が放った極大の雷撃はドラゴンの鱗に傷一つ漬けられない。
「回復も追いつきません……!」
聖女アンナも青ざめた顔でうめいている。
勇者、賢者、聖女。
王国軍の主力たちが、まるで歯が立たない。
まして他の兵士や騎士たちは、それこそ虫けらのように踏み潰され、吹き飛ばされるだけだった。
このままでは全滅だ――。
「そ、そうだ、ナッシュ! お前が開発した【超魔導爆弾】はどうだ?」
震える声で俺の名前を呼んだのは、魔法師団長だった。
「あれは未完成で――」
「構わん! 使えるのか、使えないのか!」
俺の言葉を遮って、師団長が叫ぶ。
「破壊力は申し分ありません。が、遠隔コントロールができず、起爆するには誰かがその場にとどまらなければなりません」
そう、それが【超魔導爆弾】の致命的な欠陥だった。
起爆した瞬間、使用者は確実に爆発の中心にいることになる。
つまり起爆役を担った者は、その場で蒸発して死ぬ。
そして、それを起爆できるのは俺だけだ。
「――よし、それを使え」
勇者ブライが冷徹な声で言った。
「エンシェントドラゴンを討伐する英雄になれるんだ。いい死に方じゃないか」
「えっ、俺がやるんですか!?」
俺は思わず叫んだ。
冗談じゃない。
「名誉なことじゃないか、ナッシュ君」
追い打ちをかけるように、魔法師団長が言った。
こいつが俺を見る目も勇者同様に冷ややかだった。
「さあ、いけよ!」
どんっ、と背中に強い衝撃。
勇者ブライが、俺の背中を思いきり蹴りつけたのだ。
「うわっ……」
俺はエンシェントドラゴンの前まで放り出された。
「そのままなら、どっちみち殺されるぞ! 早くやれ!」
ブライはそう吐き捨てると、魔法師団長を連れて一目散に逃げていく。
その背中が、俺にはすごく小さく見えた。
これが人類の希望、勇者だなんて――。
ため息をつくしかない。
と、
ぐるるるおおおおおおおおおおおおおおんっ……!
エンシェントドラゴンが咆哮を上げて俺をにらんだ。
もう逃げ場はない。
おそらく次の瞬間には、踏み潰されるか、ブレスで吹き飛ばされるだけだ。
「どうせ死ぬなら――」
俺は覚悟を決めた。
決めざるを得なかった。
「これ以上、犠牲が出るくらいなら……俺が終わらせる」
そう、ここで終わりにするんだ。
すべてを――!
「みんな、できるだけ離れろ! 俺は今から、こいつを道連れに自爆する!」
俺は絶叫した。
前線で生き残っているわずかな兵士たちは、それを聞くと大慌てで逃げていく。
同時に、エンシェントドラゴンが突っこんでくる。
――よし、これなら他の兵士を巻き込まずに【超魔導爆弾】を発動できそうだ。
犠牲になるのは、俺一人でいい。
人生の土壇場において、俺は不思議なほど穏やかで静かな心境に至っていた。
「やるぞ――」
俺は懐から宝玉を取り出した。
手のひらに収まるほどの大きさの、赤く輝く宝玉。
これが、俺が錬金術師としての技術のすべてを懸けて開発した【超魔導爆弾】だ。
起動すると、使用者を中心に半径10メートル程度の結界が生成される。
そして、その結界の内部に火炎攻撃魔法【ファイア】の数億倍にも達する超火力が発生し、内部のすべてを焼き尽くす。
結界の外には炎も衝撃も一切漏れないため、極めて狭い範囲での超破壊を成し遂げることができる超兵器だ。
ただし遠隔操作は不可能で、使用者は確実に死ぬ。
「厄介な役目を押し付けられたけど……仕方ないな」
最後に脳裏に浮かんだのは、穏やかだった故郷の風景。
五年前、その全てがエンシェントドラゴンの炎で焼き尽くされた。
家族も、友人も、みんな死んだ。
「みんなの仇を取るために五年間やって来て……やっとそれが叶うんだな」
俺が王国に来て、魔法兵器の開発にすべてを捧げてきたのは、この日のためだったのかもしれない。
この命と引き換えに――。
長年の悲願が、今ようやく果たされる。
「さよなら――」
俺は【超魔導爆弾】に魔力を込めて起動した。
カッ!
宝玉がまばゆい光を放つ。
同時に、俺を中心として半透明の結界が展開され、エンシェントドラゴンを完全に内部へと閉じ込めた。
ドラゴンが驚いたように動きを止める。
「俺が道連れだ、一緒に逝こう」
――次の瞬間、轟音と爆炎、そして衝撃波が発生した。
視界が真っ白な光に包まれる。
エンシェントドラゴンの巨体が光の中に溶けて消えていくのが見えた。
そして、俺の意識も消えていった――。
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