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11 神獣
しおりを挟むしばらくその感触を堪能した後、俺はモッキュを床に下ろした。
今後のためにも、いくつかコミュニケーションを試してみようかな。
「モッキュ、お手」
とりあえず手を差し伸べてみた。
「もきゅ?」
モッキュは小さな頭をこてんと傾げる。
さすがにいきなり『お手』は無理だよな。
……と思っていたら、
「もきゅ」
小さな体で、ちょこんと俺の上に飛び乗った。
「おお……!?」
すごい、一発で覚えるなんて。
「じゃあ、次は――おすわり、なんてどうだ?」
するとモッキュは俺の手のひらの上に体を下ろしてみせた。
毛玉状の体だから今一つ分かりにくいけど、さっきより手のひらに重みがかかってるから、たぶんモッキュは座ってるんだろう。
「かしこいぞ、モッキュ!」
俺は嬉しくなってモッキュの頭を撫でた。
調子に乗った俺は、さらにふざけてこう言ってみた。
「ははは、すごいなモッキュ! よーし、じゃあ次は、『大きくなってみろ』!」
完全に冗談だった。
そんなことができるわけがない――そう思っていたんだけど、
「もきゅ……?」
モッキュが不思議そうに俺を見上げた。
こぉぉぉぉぉぉぉ……!
次の瞬間、モッキュの体が淡い光に包まれた。
「えっ……?」
ごうっ、とアトリエの中に魔力の風が吹き荒れる。
「えっ? えっ? えっ?」
何が起きたのか理解する前に、モッキュの体がみるみるうちに膨れ上がっていく!
「ち、ちょっと待っ……お、おいおいおいおい……!?」
手のひらサイズだった体は、あっという間に大型犬ほどになり、さらに膨れ上がっていき――数メートルもある獣の姿へと変貌した。
「お、お前……モッキュ……だよな……!?」
そこにいたのは白銀の毛皮を備えた、威風堂々とした虎のような神獣だった。
くりっとした瞳は鋭い黄金色の瞳に変わり、すさまじい威圧感を放っている。
スローライフの護衛役も兼ねて、いざという時には頼れる存在になるようにと術式を組んだ。
それが、こんな形で発現するとは――。
「……確かに頼りになりそうだけど」
「がうっ」
モッキュが俺を見て、小さく吠えた。
うわ、もう別生物じゃないか!
「モッキュ、えっと……悪いんだけど、いったん元に戻ってくれ」
はっきり言って、ちょっと怖い。
「もきゅぅ……」
今度は可愛らしい鳴き声になった。
あ、こっちの声も出せるんだ。
「いや、鳴き声だけ可愛くなってもだな――っていうか、その巨体であんまり動くと部屋が壊れそうだ」
現に、みしみし、と床が悲鳴を上げている。
壁に巨体が擦れると、ぎぎ……っと嫌な音がする。
「とにかく元に戻ってくれ! 部屋を壊すと、後片付けが大変だし」
まあ、部屋そのものは錬金術で元に戻せるが……。
それにしたって、一発で元通りにするのはたぶん無理だろう。
ちゃんと構造単位で補強して、材料を作り直して――なかなか面倒そうだ。
と、俺の願いが通じたのか、
しゅるしゅるしゅる~っ。
モッキュは光と共に元の可愛らしい毛玉に戻った。
「ふう、よかった……」
俺は全身の力が抜けるような安堵を覚えた。
へなへなとその場に座り込み、大きく息をつく。
と、
「もきゅう……」
足元でモッキュが体を丸め、すやすやと寝息を立て始めた。
その無防備な寝顔は、さっきまでの姿が嘘のように愛らしい。
もしかして、変身して疲れたのかな?
「悪かったな、モッキュ」
俺はモッキュの体を優しく撫でながら謝った。
お前に負担をかけるようなことは、もうしないからな。
「これからもよろしく」
俺はモフモフの『家族』に対して、にっこりと微笑んだ。
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