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第2章 守りたい場所
7 新たな仲間
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「知り合いなのか、ノエル?」
俺は彼女にたずねた。
「え、えーっと、昔の知り合いといいますか、その……」
普段のハキハキした話し方と違い、妙に歯切れの悪いノエル。
「ノエル?」
「い、いえいえいえ、隠し事なんてしてませんよっ」
両手を振るノエル。
「隠し事をしてるって言ってるような態度だな」
俺は思わず苦笑した。
「別に言いづらいことなら詮索はしないぞ。安心してくれ、ノエル」
「えへへ、ありがとうございます」
「……さっきからノエルノエルって呼び捨てにしてるけど、ちょっと無礼じゃないかな」
サーシャが俺をじろりとにらんだ。
「えっ?」
「君、このお方が誰だか知ってるの?」
「だからノエルだろ?」
「あーっ、またノエルって呼び捨てにしたっ」
サーシャがますます怒る。
「いい? このお方は、竜王国ディフレイムの第七お──もがっ!?」
「わーわー! ストップだよ、サーシャちゃん!」
ノエルが慌てた様子でサーシャの口を手のひらで塞いだ。
「あたしがディフレイムの第七王女だってことは内緒なんだから!」
「今、自分で今バラしちゃったんでは……?」
まあ、そもそもサーシャの台詞で全部察したけど。
「はっ、しまった!」
俺のツッコミに痛恨の表情を浮かべるノエル。
「王女様だったのか……」
以前にも、何か複雑な事情がありそうな雰囲気を匂わせていたが。
今まで、普通の元気な村娘と思っていたノエルも、こうして見ると気品が漂っているように思えてくるから不思議だ。
「は、はい、フルネームはノエル・ディフレイムです……あ、でも、あたしはそんなに継承順位も高くないですし、末娘ですし、そもそも色々ややこしい家庭事情があったので、あんまり王族絡みの話にはかかわりたくないというか……」
彼女がジュデッカ村に来たのは、その辺に原因があるんだろうか。
「だから、今まで通りに接してください。というか、態度を変えて、周囲に気づかれても困るので……」
まあ、そういうことなら今までのように呼ぶか。
「しかし、そのお姿は……」
サーシャがノエルをジッと見る。
古めかしい甲冑姿の彼女を。
「ジュデッカ村はときどきモンスターに襲われるからね。村の人たちを守るために、あたしも武装してるの」
「ノエル様……」
「今のあたしは王女じゃなくて村人その一だよ、サーシャちゃん」
「村人……ですか。では、ここで他の者たちと運命をともにしようということですね……なるほど」
つぶやきながら、サーシャは顔を上げた。
「では、私もこの村にとどまります」
「えっ?」
「あなた様をお守りするために」
サーシャの顔は真剣だった。
その瞳にはメラメラと炎が灯っているように見えた。
「サーシャちゃんって冒険者でしょ」
「ここから手近のギルド支部まで通って、クエストを受ければいいだけです。普段はここに住みます」
と、サーシャ。
「いざというときには、ノエル様をお守りする所存」
「え、でも……」
「お守りさせてくださいませ。一年間、ずっとあなたを探していたのです」
サーシャが微笑む。
「あなたが、かつて我が一族を救ってくださったように……今度は私があなたを守りたいのです」
深々と頭を下げる竜騎士少女。
「もう、何年も前の話じゃない。気にしなくていいよ」
「いいえ。私も、一族の者すべても、生涯あなたへの恩義は忘れません」
具体的なことは分からないけど、ノエルがすごく感謝されていることは理解できた。
「──というわけで、よろしくねっ」
と、サーシャが俺に向き直り、にっこり笑う。
「今日からここに住むから」
あれよあれよ、という感じで、どうやら村の住人が増えたようだ。
「私はサーシャ。愛と正義の竜騎士だよっ」
「カイルだ」
言って、俺はわずかに眉を寄せる。
「……っていうか、いいのか? そんな簡単に引っ越しを決めて。ここにはちょくちょく邪神の手下なんかが襲ってきたりするんだけど」
まあ、大半は俺が作った防衛システムで追っ払えるとはいえ──。
「平気平気。私、SSSランクだもん。強いよ?」
「まあ、それもそうか」
実際、アグエルを倒したのは彼女の一撃だ。
「わたくしもここに住ませていただきます。村を苦しめてしまった贖罪に」
と、そのアグエルが恭しく頭を下げた。
「お前もかよ!?」
思わずツッコむ俺。
「それに善行点を積むと、正式に堕天使から天使へと戻れるかもしれません。これからは、村を守るための力になってみせましょう」
アグエルがアルカイックスマイルを浮かべて宣言する。
「いやいやいや、君って邪神の手下でしょ! 愛と正義の名のもとに、私が天に代わって悪を討つんだから」
「わたくしはもう悪ではありません、竜騎士様」
うやうやしく一礼するアグエル。
本当に人格(いや、天使格か?)そのものが変わった感じだ。
「むむむ……」
「確かに、そいつから邪悪な魔力は感じない」
と、マキナ。
「魔力属性が完全に反転していることを確認。今のそいつは聖属性。堕天使から天使になってる」
「むむむむ……いい奴になったのなら、君を討つわけにもいかないね……」
サーシャはとりあえず矛を収めてくれたようだ。
「まあ、何はともあれ……よろしくな、二人とも」
俺は二人に挨拶した。
なんだかいきなりの展開に、頭がついていかない。
「わーい、村の仲間が増えたねっ」
ノエルは嬉しそうだった。
「強い人がいっぱい……修業相手がいっぱい……!」
そして、マキナは闘志を燃やしているようだった。
数日後。
「ちょっといいか、アグエル?」
俺は堕天使──いや、天使アグエルを訪ねた。
ちなみに、奴は村はずれのあばら家に住んでいる。
日の出とともに起き、邪神の手下が襲ってこないか、村の上空をパトロールしているようだ。
奴の襲来で壊れてしまった『イージスガード』や『マナバリアシステム』の障壁は、すでに復旧済みである。
二つとも本体は小さな装置で、そっちにはダメージがなかったため、魔力を充填後にふたたび障壁を張り直した。
聖なる存在となったアグエルは、村の防衛システムから警戒対象外として認識されているらしく、防壁や魔導砲塔を素通りすることができる。
「あ、どうぞカイルさま。何もないところですが」
あばら家に招き入れられ、アグエルが紅茶を淹れてくれた。
「ありがとう。実はアグエルに聞きたいことがあって」
俺は紅茶を一口飲み、言った。
「邪神軍について、だ」
俺は彼女にたずねた。
「え、えーっと、昔の知り合いといいますか、その……」
普段のハキハキした話し方と違い、妙に歯切れの悪いノエル。
「ノエル?」
「い、いえいえいえ、隠し事なんてしてませんよっ」
両手を振るノエル。
「隠し事をしてるって言ってるような態度だな」
俺は思わず苦笑した。
「別に言いづらいことなら詮索はしないぞ。安心してくれ、ノエル」
「えへへ、ありがとうございます」
「……さっきからノエルノエルって呼び捨てにしてるけど、ちょっと無礼じゃないかな」
サーシャが俺をじろりとにらんだ。
「えっ?」
「君、このお方が誰だか知ってるの?」
「だからノエルだろ?」
「あーっ、またノエルって呼び捨てにしたっ」
サーシャがますます怒る。
「いい? このお方は、竜王国ディフレイムの第七お──もがっ!?」
「わーわー! ストップだよ、サーシャちゃん!」
ノエルが慌てた様子でサーシャの口を手のひらで塞いだ。
「あたしがディフレイムの第七王女だってことは内緒なんだから!」
「今、自分で今バラしちゃったんでは……?」
まあ、そもそもサーシャの台詞で全部察したけど。
「はっ、しまった!」
俺のツッコミに痛恨の表情を浮かべるノエル。
「王女様だったのか……」
以前にも、何か複雑な事情がありそうな雰囲気を匂わせていたが。
今まで、普通の元気な村娘と思っていたノエルも、こうして見ると気品が漂っているように思えてくるから不思議だ。
「は、はい、フルネームはノエル・ディフレイムです……あ、でも、あたしはそんなに継承順位も高くないですし、末娘ですし、そもそも色々ややこしい家庭事情があったので、あんまり王族絡みの話にはかかわりたくないというか……」
彼女がジュデッカ村に来たのは、その辺に原因があるんだろうか。
「だから、今まで通りに接してください。というか、態度を変えて、周囲に気づかれても困るので……」
まあ、そういうことなら今までのように呼ぶか。
「しかし、そのお姿は……」
サーシャがノエルをジッと見る。
古めかしい甲冑姿の彼女を。
「ジュデッカ村はときどきモンスターに襲われるからね。村の人たちを守るために、あたしも武装してるの」
「ノエル様……」
「今のあたしは王女じゃなくて村人その一だよ、サーシャちゃん」
「村人……ですか。では、ここで他の者たちと運命をともにしようということですね……なるほど」
つぶやきながら、サーシャは顔を上げた。
「では、私もこの村にとどまります」
「えっ?」
「あなた様をお守りするために」
サーシャの顔は真剣だった。
その瞳にはメラメラと炎が灯っているように見えた。
「サーシャちゃんって冒険者でしょ」
「ここから手近のギルド支部まで通って、クエストを受ければいいだけです。普段はここに住みます」
と、サーシャ。
「いざというときには、ノエル様をお守りする所存」
「え、でも……」
「お守りさせてくださいませ。一年間、ずっとあなたを探していたのです」
サーシャが微笑む。
「あなたが、かつて我が一族を救ってくださったように……今度は私があなたを守りたいのです」
深々と頭を下げる竜騎士少女。
「もう、何年も前の話じゃない。気にしなくていいよ」
「いいえ。私も、一族の者すべても、生涯あなたへの恩義は忘れません」
具体的なことは分からないけど、ノエルがすごく感謝されていることは理解できた。
「──というわけで、よろしくねっ」
と、サーシャが俺に向き直り、にっこり笑う。
「今日からここに住むから」
あれよあれよ、という感じで、どうやら村の住人が増えたようだ。
「私はサーシャ。愛と正義の竜騎士だよっ」
「カイルだ」
言って、俺はわずかに眉を寄せる。
「……っていうか、いいのか? そんな簡単に引っ越しを決めて。ここにはちょくちょく邪神の手下なんかが襲ってきたりするんだけど」
まあ、大半は俺が作った防衛システムで追っ払えるとはいえ──。
「平気平気。私、SSSランクだもん。強いよ?」
「まあ、それもそうか」
実際、アグエルを倒したのは彼女の一撃だ。
「わたくしもここに住ませていただきます。村を苦しめてしまった贖罪に」
と、そのアグエルが恭しく頭を下げた。
「お前もかよ!?」
思わずツッコむ俺。
「それに善行点を積むと、正式に堕天使から天使へと戻れるかもしれません。これからは、村を守るための力になってみせましょう」
アグエルがアルカイックスマイルを浮かべて宣言する。
「いやいやいや、君って邪神の手下でしょ! 愛と正義の名のもとに、私が天に代わって悪を討つんだから」
「わたくしはもう悪ではありません、竜騎士様」
うやうやしく一礼するアグエル。
本当に人格(いや、天使格か?)そのものが変わった感じだ。
「むむむ……」
「確かに、そいつから邪悪な魔力は感じない」
と、マキナ。
「魔力属性が完全に反転していることを確認。今のそいつは聖属性。堕天使から天使になってる」
「むむむむ……いい奴になったのなら、君を討つわけにもいかないね……」
サーシャはとりあえず矛を収めてくれたようだ。
「まあ、何はともあれ……よろしくな、二人とも」
俺は二人に挨拶した。
なんだかいきなりの展開に、頭がついていかない。
「わーい、村の仲間が増えたねっ」
ノエルは嬉しそうだった。
「強い人がいっぱい……修業相手がいっぱい……!」
そして、マキナは闘志を燃やしているようだった。
数日後。
「ちょっといいか、アグエル?」
俺は堕天使──いや、天使アグエルを訪ねた。
ちなみに、奴は村はずれのあばら家に住んでいる。
日の出とともに起き、邪神の手下が襲ってこないか、村の上空をパトロールしているようだ。
奴の襲来で壊れてしまった『イージスガード』や『マナバリアシステム』の障壁は、すでに復旧済みである。
二つとも本体は小さな装置で、そっちにはダメージがなかったため、魔力を充填後にふたたび障壁を張り直した。
聖なる存在となったアグエルは、村の防衛システムから警戒対象外として認識されているらしく、防壁や魔導砲塔を素通りすることができる。
「あ、どうぞカイルさま。何もないところですが」
あばら家に招き入れられ、アグエルが紅茶を淹れてくれた。
「ありがとう。実はアグエルに聞きたいことがあって」
俺は紅茶を一口飲み、言った。
「邪神軍について、だ」
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