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第2章 守りたい場所
8 天使アグエルの邪神軍講座
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俺は村はずれにある天使アグエルの家を訪ねていた。
「邪神軍のことを教えてほしい」
小さな居間で紅茶を飲みながら、話を切り出す。
「邪神軍について……ですか?」
「ああ、奴らの正確な狙いを知りたいんだ。元邪神軍のお前なら何か情報を持っているんじゃないかと思って」
俺は単刀直入に切り出した。
「ああ、そういうことでしたか」
納得したようにうなずくアグエル。
「では、まず邪神軍の基本的な構造から話しましょう」
その内容は──。
まず邪神軍とは、その名の通り『邪神』をトップとする戦闘集団だそうだ。
太古の昔、天界に反逆した一柱の神が『邪神』となり、神々と戦いを繰り広げた。
「まあ、砕けて言うとヤンチャしてたんですね、邪神様は。反抗期だったようです」
「は、反抗期……?」
壮大な神々と邪神の戦いをそういう言葉で言われると、反応に困るな。
「で、邪神様の元には、天使族の一部や竜族、モンスターなどが集い、一大集団を結成しました。これが邪神軍です」
「お前もその一人か」
「ええ、当時は神を目指していたんですが、神養成学校で落第してしまって、神の座につけませんでした。で、すべてを投げ出したくなって、天界の場末の酒場で飲んでいたところ、邪神様に声をかけられたんです」
「そ、そうなんだ……」
なんか……天界も人間界もあんまり変わらないんだな。
社会的なあれやこれや、って。
「我々はアットホームな職場だ。誰でもできる簡単な仕事だし、手伝ってくれないか、と。まあ、誰でもできると言われながら、実際にやらされたのは天軍との全面戦争なんですけどね、ははははは」
「いや、笑いごとじゃないだろ、それ」
「百五十回くらい死にそうになりましたが、どうにか生き延びましたよ」
あっけらかんと告げるアグエル。
「……と、随分話が逸れましたね。とにかく邪神軍というのは、そういう組織です。神々との戦いに敗れたあとは異空間である『封印空間』に閉じこめられてしまい、今はそこから脱出するためにあれやこれや作戦を練ったり、適当に飲んだくれたりしています」
「そ、そうなのか……」
「で、邪神軍の構成ですが、トップである邪神様の下には、最上位配下と呼ばれる者たちがいます。邪神様を除けば軍で最強の戦闘能力を持つ幹部たちですね」
「最強……か」
「人間のランクにあてはめるなら──そうですね、SSSSからSSSSSSSSくらいまでいるんじゃないでしょうか」
「Sが多すぎて分かりづらい!」
「ですね。なんで人間たちはこんなにSばっかり並べたがるんでしょう?」
んー、なんでだろ。
アグエルの素朴な疑問に、俺は首をひねった。
冒険者だったころは大して気にならなかった。
ギルドでそういう名称にしているんだから、くらいの考えだ。
そもそもがEランクの俺にはSSSなんて雲の上すぎて、考えること自体が少なかったんだけど。
「たくさん連ねると強そうだし、なんかかっこいいだろ?」
「なるほど。奥が深い」
適当に言ったら、なぜか納得されてしまった。
奥が深いのか、今のって?
「最上位配下は全部で六体。さらにその下にも、最上位配下に準ずる猛者が何百体と控えています」
アグエルの説明タイムが再開された。
「はっきり言って強いですよ。天軍とある程度渡り合える猛者たちですからね」
「そんな連中がジュデッカ村を狙ってるんだよな……」
あらためて身が引き締まる思いだった。
「ええ、封印の鍵となるのは、この村ですから。ここを滅ぼせば、封印空間は弱体化し、邪神様の力があれば、いずれは完全に封印自体を破壊できる──と考えられています」
「奴らがこの村を襲わなくなる方法はあるかな?」
「封印を解く方法が他に見つからない限り、ジュデッカ村は襲われ続けると思います」
「やっぱそうかー……」
俺はため息をついた。
「邪神軍の『封印空間から外に出たい!』という思いは強いです。なんといっても、封印空間は退屈です。ロクな娯楽もありません」
と、アグエル。
「退屈なのか」
「娯楽施設がなんにもないですからね。場所によっては草原や岩山、海などが存在するのですが、自然が広がっているだけでさして面白くないです。飽きます。せいぜい酒盛りくらいでしょうか、楽しみは。それも何千年も続けていると飽きます」
アグエルが説明する。
「封印の外に出れば、何か楽しいことがあるんじゃないか──邪神様を始め、軍の見解はそう統一されています」
「飽きる……か」
数千年か、数万年か、あるいはもっと長く──同じ場所に閉じこめられ続けてるんだ。
その変化のなさが生活感のマンネリを呼び、マンネリが退屈さを加速させるんだろう。
考えたところで、一つ案が浮かんだ。
「なあ、こっちからの友好のしるしとして、彼らが楽しめるようなものを何か送ることはできないか?」
防衛は引き続き強化していくけど、それとは別に彼らが封印空間でも楽しくやっていけたら、ここを攻める理由自体がなくなるかもしれない──。
「申し訳ありません、わたくしの説明が悪かったですね。退屈を解消したいと考えているのは、あくまでも一派閥です」
と、アグエル。
「えっ?」
「神々への恨みを晴らすために封印空間から脱出し、人も神もすべてを殺し尽くそうとするグループ。破壊衝動のまま、人間界で暴れ回りたいグループ。大半はそういった殺戮を好むタイプです。邪神軍というだけあって、やはり邪悪な者の数が圧倒的多数派なのです」
「なるほど……」
さすがに簡単に懐柔したり、和解できるような連中じゃないか。
やはり基本戦略は防衛能力を高めての撃退、ってことになるのかな──。
「あれ、カイル様?」
アグエルの家を出ると、ノエルと出会った。
さらに農家のおじさんや娘さんもいる。
「どうしたんだ、みんな?」
「アグエルさんの淹れる紅茶は美味しいと評判になっていて。一度味わいたいなって、みんなで」
「そんなに評判になってるのか……?」
「ふん、ちょっと興味が湧いてな」
「うちの野菜とコラボして売り出すのもいいかも、なんて」
と、農家の父娘が顔を見合わせてニヤリと笑う。
「そうそう、名付けて『天使アグエルの特選セット! 今ならさんきゅっぱでお得!』なんて商品名を考えているんだが」
「さんきゅっぱ?」
「売り出し予定価格が398銅貨だから、さんきゅっぱだ」
「なるほど」
みんな色々考えてるんだな。
っていうか、意外な交流が生まれてるんだな……。
こうやって、人と人とが少しずつつながっていくんだろうか。
──なんて、ちょっと深いような大して深くないようなことを考えつつ、俺は軽く感慨に耽ったのだった。
「邪神軍のことを教えてほしい」
小さな居間で紅茶を飲みながら、話を切り出す。
「邪神軍について……ですか?」
「ああ、奴らの正確な狙いを知りたいんだ。元邪神軍のお前なら何か情報を持っているんじゃないかと思って」
俺は単刀直入に切り出した。
「ああ、そういうことでしたか」
納得したようにうなずくアグエル。
「では、まず邪神軍の基本的な構造から話しましょう」
その内容は──。
まず邪神軍とは、その名の通り『邪神』をトップとする戦闘集団だそうだ。
太古の昔、天界に反逆した一柱の神が『邪神』となり、神々と戦いを繰り広げた。
「まあ、砕けて言うとヤンチャしてたんですね、邪神様は。反抗期だったようです」
「は、反抗期……?」
壮大な神々と邪神の戦いをそういう言葉で言われると、反応に困るな。
「で、邪神様の元には、天使族の一部や竜族、モンスターなどが集い、一大集団を結成しました。これが邪神軍です」
「お前もその一人か」
「ええ、当時は神を目指していたんですが、神養成学校で落第してしまって、神の座につけませんでした。で、すべてを投げ出したくなって、天界の場末の酒場で飲んでいたところ、邪神様に声をかけられたんです」
「そ、そうなんだ……」
なんか……天界も人間界もあんまり変わらないんだな。
社会的なあれやこれや、って。
「我々はアットホームな職場だ。誰でもできる簡単な仕事だし、手伝ってくれないか、と。まあ、誰でもできると言われながら、実際にやらされたのは天軍との全面戦争なんですけどね、ははははは」
「いや、笑いごとじゃないだろ、それ」
「百五十回くらい死にそうになりましたが、どうにか生き延びましたよ」
あっけらかんと告げるアグエル。
「……と、随分話が逸れましたね。とにかく邪神軍というのは、そういう組織です。神々との戦いに敗れたあとは異空間である『封印空間』に閉じこめられてしまい、今はそこから脱出するためにあれやこれや作戦を練ったり、適当に飲んだくれたりしています」
「そ、そうなのか……」
「で、邪神軍の構成ですが、トップである邪神様の下には、最上位配下と呼ばれる者たちがいます。邪神様を除けば軍で最強の戦闘能力を持つ幹部たちですね」
「最強……か」
「人間のランクにあてはめるなら──そうですね、SSSSからSSSSSSSSくらいまでいるんじゃないでしょうか」
「Sが多すぎて分かりづらい!」
「ですね。なんで人間たちはこんなにSばっかり並べたがるんでしょう?」
んー、なんでだろ。
アグエルの素朴な疑問に、俺は首をひねった。
冒険者だったころは大して気にならなかった。
ギルドでそういう名称にしているんだから、くらいの考えだ。
そもそもがEランクの俺にはSSSなんて雲の上すぎて、考えること自体が少なかったんだけど。
「たくさん連ねると強そうだし、なんかかっこいいだろ?」
「なるほど。奥が深い」
適当に言ったら、なぜか納得されてしまった。
奥が深いのか、今のって?
「最上位配下は全部で六体。さらにその下にも、最上位配下に準ずる猛者が何百体と控えています」
アグエルの説明タイムが再開された。
「はっきり言って強いですよ。天軍とある程度渡り合える猛者たちですからね」
「そんな連中がジュデッカ村を狙ってるんだよな……」
あらためて身が引き締まる思いだった。
「ええ、封印の鍵となるのは、この村ですから。ここを滅ぼせば、封印空間は弱体化し、邪神様の力があれば、いずれは完全に封印自体を破壊できる──と考えられています」
「奴らがこの村を襲わなくなる方法はあるかな?」
「封印を解く方法が他に見つからない限り、ジュデッカ村は襲われ続けると思います」
「やっぱそうかー……」
俺はため息をついた。
「邪神軍の『封印空間から外に出たい!』という思いは強いです。なんといっても、封印空間は退屈です。ロクな娯楽もありません」
と、アグエル。
「退屈なのか」
「娯楽施設がなんにもないですからね。場所によっては草原や岩山、海などが存在するのですが、自然が広がっているだけでさして面白くないです。飽きます。せいぜい酒盛りくらいでしょうか、楽しみは。それも何千年も続けていると飽きます」
アグエルが説明する。
「封印の外に出れば、何か楽しいことがあるんじゃないか──邪神様を始め、軍の見解はそう統一されています」
「飽きる……か」
数千年か、数万年か、あるいはもっと長く──同じ場所に閉じこめられ続けてるんだ。
その変化のなさが生活感のマンネリを呼び、マンネリが退屈さを加速させるんだろう。
考えたところで、一つ案が浮かんだ。
「なあ、こっちからの友好のしるしとして、彼らが楽しめるようなものを何か送ることはできないか?」
防衛は引き続き強化していくけど、それとは別に彼らが封印空間でも楽しくやっていけたら、ここを攻める理由自体がなくなるかもしれない──。
「申し訳ありません、わたくしの説明が悪かったですね。退屈を解消したいと考えているのは、あくまでも一派閥です」
と、アグエル。
「えっ?」
「神々への恨みを晴らすために封印空間から脱出し、人も神もすべてを殺し尽くそうとするグループ。破壊衝動のまま、人間界で暴れ回りたいグループ。大半はそういった殺戮を好むタイプです。邪神軍というだけあって、やはり邪悪な者の数が圧倒的多数派なのです」
「なるほど……」
さすがに簡単に懐柔したり、和解できるような連中じゃないか。
やはり基本戦略は防衛能力を高めての撃退、ってことになるのかな──。
「あれ、カイル様?」
アグエルの家を出ると、ノエルと出会った。
さらに農家のおじさんや娘さんもいる。
「どうしたんだ、みんな?」
「アグエルさんの淹れる紅茶は美味しいと評判になっていて。一度味わいたいなって、みんなで」
「そんなに評判になってるのか……?」
「ふん、ちょっと興味が湧いてな」
「うちの野菜とコラボして売り出すのもいいかも、なんて」
と、農家の父娘が顔を見合わせてニヤリと笑う。
「そうそう、名付けて『天使アグエルの特選セット! 今ならさんきゅっぱでお得!』なんて商品名を考えているんだが」
「さんきゅっぱ?」
「売り出し予定価格が398銅貨だから、さんきゅっぱだ」
「なるほど」
みんな色々考えてるんだな。
っていうか、意外な交流が生まれてるんだな……。
こうやって、人と人とが少しずつつながっていくんだろうか。
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