不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

文字の大きさ
6 / 135
第1章 勇者の帰還

6 八条雫3

しおりを挟む
「えっ?」
「俺がやってみる」

 キョトンとした彼女に、俺はそう言った。

 稼いだ経験値ポイントで【ジャンプ】のスキルを取得する。
 軽く地面を蹴って跳びあがった。

「お、取れた」

 十メートルほどの跳躍で枝まで届き、俺は風船を取って着地。

「ええええええっ!? す、すごいジャンプ力です……!」

 彼女は目を丸くしている。


 俺は風船を女の子に渡した。

「ほら、もう離すなよ」
「わあ、おにーちゃん、ありがとう!」

 女の子はパッと顔を輝かせた。

「こっちのおねーちゃんもがんばってくれたんだ」

 と、フォローを入れておく。

「礼を言っておいたほうがいいぞ」
「おねーちゃんもありがとう!」
「えへへ、私は役に立てませんでしたが、よかったですね」
「二人ともありがとー! わーい!」

 女の子は嬉しそうに風船を持って、たたた、と駆けていった。

 うん、いいことをすると気持ちがいい。

「ありがとうございました」

 ぺこり、と彼女が頭を下げた。

「私、八条はちじょうしずくといいます」
「夏瀬彼方だ……って、俺のことは知ってるんだっけ」
「ええ」

 俺たちはなんとなく一緒に通学路を歩き始めた。

「私、男の子と一緒に登校するなんて初めてです」

 八条がぽつりとつぶやいた。
 うん、俺もだ。

「なんだか、照れます」

 はにかんだ彼女の顔にドキッとする。

 地味な感じだけど、よく見るとかなり可愛い。
 美少女といってよかった。

 胸が甘酸っぱくときめく。
 異世界で何十年という人生を歩み、老人といえる年齢に達した俺だけど。
 こっちの世界で高校生に戻った影響か、気持ちまでその時分のものに変わり始めているような気がする。

 体だけでなく、心まで十代の若者に戻っていくような感覚──。

「どうかしました、夏瀬くん?」

 キョトンと首をかしげるその仕草も、いちいち可愛かった。
 やがて、俺たちは学校についた。

「では、私は三組なので」
「俺は五組だ。じゃあな」

 なんだか離れるのが名残惜しい。

「ええ、また──」

 ん? またってことは、これで終わりじゃないってことか。
 嬉しくなって振り返ると、靴箱の前に立ち尽くす八条の姿が見えた。

「ああ……」

 うめくような、彼女の声。
 その両肩がかすかに震えている。

 どうしたんだろう?
 俺は彼女の元へ歩み寄った。

「これは……!」

 俺は呆然と目を見開く。

 靴箱の中の八条の上履きは──。
 ズタズタに切り裂かれていた。



「なんだよ、これ……!」

 俺は怒りの声をもらした。

「な、夏瀬くん……!?」

 驚いたように振り返る八条。

「あ、悪い。様子が変だったから気になって」
「……気にしないでください」

 八条が寂しげに首を振った。

「私、よくこういうことをされるんです」
「まさか、いじめられてるってことか?」

 嫌な気分が込み上げた。

「貸してくれ」

 ズタズタになった八条の靴を手に取った。

 ──スキル【リペア】を取得。発動。

 これは僧侶系のスキルで、物質を修復することができる。
 淡い光に包まれた靴は、次の瞬間には傷一つない状態に直っていた。

「えっ? あれ……?」
「修理しておいたぞ」

 驚いたような八条に靴を返す俺。

「修理って、えっ、でも、あんなにズタズタに……」
「ほら、行くぞ」

 俺は八条を促した。

「行くって──」
「お前のクラス」

 おせっかいかな、と思いつつも、俺は言った。
 やっぱり見過ごせない。

「お前へのいじめをやめさせる」
しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...