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第1章 勇者の帰還

19 レベルアップへの道1

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 俺の一撃が、コンビニ強盗をぶっ飛ばした。

「ぐ……あ……」

 うめいたまま、男は立ち上がれない。
 完全KOだ。

 ──スキル【気配遮断】解除。

 俺は姿を現し、倒れた男を見下ろした。

「お、お前、どこから出てきたんだ……!?」

 ようやく俺の存在を認識したコンビに強盗が、驚いたようにうめく。
 と、

「う……ぐ……」

 突然、男の体から黒いモヤのようなものが出てきた。

「これは──」

 俺は驚きの声を上げる。
 まさか、と思った。

「……いや、間違いない」

 首筋がチリチリすするような感覚。
 腹の底がぞわりとするような悪寒。

 このモヤは自然現象なんかじゃない。

 もう一度目を凝らす俺。

 まだ黒いモヤはかすかに残っていたが、少しずつ薄れ、やがて消えた。

「気のせい、なんてことはないよな……」

 今、感じたのは『魔力』の気配だ。

 おそらく、あれは──『魔法使い』ジョブのスキル【傀儡くぐつ】。
 対象の精神に作用し、その者を自分の意のままに操るスキルである。

 だとしたら、コンビニ強盗は誰かに操られていた、ってことか?

 どうして現代日本でそんな現象が──。



 ほどなくして警察が来て、男は逮捕された。
 俺がコンビニ強盗をKOしたのを見て、誰かが通報してくれたらしい。

「大丈夫でしたか、彼方くん」

 雫が心配そうに声をかけてきた。

「ああ、問題ない」

 俺は微笑みを返しておく。
 さっきの【傀儡】らしき現象は気になるところだけど──。

「あっ、彼方くん、怪我してます!」

 雫が悲鳴のような声を上げた。

「えっ?」

 言われてみれば、指先が少し切れていた。
 強盗のナイフを取り上げたときに切れたらしい。

 勇者時代の俺なら考えられないミスだけど、今の俺はレベル一桁に戻ってしまってるからな。

「とりあえず応急手当てを……」

 雫が鞄からバンソウコウを取り出し、俺の指に巻いてくれた。

「後でちゃんと消毒してくださいね」
「ありがとう。お前、バンソウコウなんて持ち歩いてるのか」
「ガーゼや包帯類、鎮痛薬なんかも一式持ってますよ」

 微笑む雫。
 こいつの性格から考えると、いざというときに自分だけじゃなく他人を手当てするためだろう、たぶん。

 なんだか雫らしいな。
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