不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第4章 勇者の日常

1 オカ研プラス1・1

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 俺が『二周目』の人生を始めて、一か月ほどが経った。

 今は六月の頭だ。
 そろそろ暑さが増してきて、いよいよ夏の到来という感じだった。

 ちなみに『一周目』だと、ちょうど今月くらいに魔王が復活するはずだ。
 俺にはもう関係ないことだけれど。

 その日の放課後、

「あ、彼方くん、一緒に部活に行きましょう~」

 雫が、とてとて、と可愛らしく駆け寄ってきた。
 手にラッピングされた袋を持っている。

「それは?」
「お菓子をつくってきましたっ」

 にっこり笑顔で説明する雫。

「あら、美味しそうな匂いね」

 かつ、かつ、と甲高い足音とともに、金髪の美少女が歩いてきた。
 生徒会長の緋ヶ崎ひがさき穂乃花ほのかだ。

「緋ヶ崎」
「緋ヶ崎さん、こんにちは~」
「ごきげんよう、二人とも」

 と、あいさつを返す緋ヶ崎。

「美味しそうな匂いね……ふふ」

 緋ヶ崎が、さっきと同じ言葉を繰り返す。

「──って、緋ヶ崎?」

 その目が異様なまでに輝いていた。
 ふー、ふー、と息遣いも妙に荒い。

「あ、よかったら、緋ヶ崎さんも食べますか?」

 雫がにっこりと提案した。

「ほ、本当っ?」

 緋ヶ崎が身を乗り出した。

「これからオカ研の部室に行って、食べようかと。凪沙さんや月子ちゃんもいるかもしれないので」
「じゃあ、みんなで一緒に食べるか」
「ありがとう。お言葉に甘えるとするわねっ」

 緋ヶ崎が満面の笑みを浮かべた。



「オカ研の新入部員?」
「あ、先輩も雫ちゃんもやほー。あれ、そっちの人は?」

 部室には凪沙さんと月子がいた。
 オカ研フルメンバーだ。

「緋ヶ崎穂乃花です。そちらの方は、はじめまして──ですね」

 と、凪沙さんに一礼する緋ヶ崎。

 そっか、雫や月子とは顔見知りだから、この中で初対面なのは緋ヶ崎と凪沙さんだけだ。

なぎ凪沙なぎさ。呼ぶときは凪沙で」

 一瞬、雑誌から顔を上げて緋ヶ崎を見た凪沙さんは、ふたたび読書に没頭する。

「凪沙さん、何を読んでるんですか」

 たずねる俺。

「『魔女の集い』の会報。黒魔術における儀式の司会進行完全解説・永久保存版が載ってる。熟読中」
「は、はあ……」

 いかにも怪しそうな会報だった。

 月子のほうはダンベルを手に、筋トレをやっていた。

「3508……3509……」

 なんかすごい回数になってるんだが。

「私、家でお菓子を作ってきたんです。よかったら、みんなで食べませんか?」
「やったー! 雫ちゃんのお菓子だ!」
「興味あり」

 月子も凪沙もずいっと身を乗り出した。

「では、準備しますね」

 にっこり笑った雫がいそいそとバスケットを出した。

 キッチンペーパーを敷き、その上にクッキーを乗せる。
 ハート形や星形、あるいは犬や猫のような動物型などいろんな形があった。

「彼方くんも緋ヶ崎さんもどうぞ」
「ありがとう」
「いただくわね」

 というわけで、オカ研クッキータイムが始まった。
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