不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第5章 勇者の試練

2 勇者の聖剣

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「では部屋に案内するのは後にして、聖剣を渡しましょう。こちらへ、カナタ」

 俺は女神様に案内され、通路を進んだ。

 分厚いカーテンで仕切られた広間。
 そこに入ると、中央の祭壇に一本の剣が刺さっていた。

「あの剣は──」

 聖剣『夜天やてん』。

 俺が『一周目』の人生で、魔王と戦う際に使った二振りの勇者の剣。
 その、一本。

「あいにくもう一本の聖剣──『煌牙こうが』は、この時間軸ではまだ生まれていません。あなたに渡せるのは『夜天』のみです」

 女神様が説明する。
 俺は懐かしい思いで剣を見つめる。

「あいつは……?」

 剣の側には黒髪に黒い瞳、黒い衣──全身黒ずくめの男がたたずんでいた。

 目深にかぶったフードのために、顔つきはよく見えない。
 若者のようでもあり、中年や老人のようでもある、不思議な雰囲気だ。

「こうして語らうのは初めてだな、カナタ」

 黒ずくめの男が俺をまっすぐに見据えた。

「私は『夜天』。この剣に宿る精霊だ」

 聖剣と同じ名を持つ男が、語る。

「夜天……か」

 それにしても、聖剣に宿る精霊なんて初めて聞いた。
 もちろん、この男──夜天の姿を見たのも初めてだ。

「……夏瀬彼方だ」
「カナタ──彼方か。よい名だ」

 夜天がかすかに笑う。

「『一周目』では、この姿で会うことができなかったが、この時空では対面できたことを嬉しく思う」
「一周目、って……」

 こいつ、俺が二度目の人生を過ごしていることを知っているのか?

「アトロポス様から聞いたのだ。お前がたどった運命を。そしてお前がたどっている運命を」

 と、夜天。

「アトロポス?」
「私の名です」

 女神様が微笑む。

 そういえば、女神様の名前を聞いたことってなかったな。
 いまさらと言えば、いまさらだが……。

「運命を司る女神、アトロポス。初めて会ったときから名乗りそびれていましたね」
「わざと名乗らなかったのでは?」
「よけいなことは言わないでいいですよ、夜天」

 女神様──アトロポス様が、夜天を軽くにらむ。
 冗談めかしているけど、その眼光は妙に怖かった。

「さて、本題に移りましょうか。『夜天』を使うためには、聖剣に認められなければなりません。その試練は……夜天自身に伝えてもらいなさい」

 言って、アトロポス様は背を向けた。

「女神様?」
「私はもう行きますね。あまり長くはとどまれないので、いったん天界に戻ります」

 きびすを返す女神様。

「聖剣と仲良くしてくださいね、カナタ。また、時空乱流が収まるころに様子を見に来ますので」

 その言葉とともに、女神様の姿は空間に薄れるようにして消え去った。



 後には俺と夜天だけが残された。

「試練って何をするんだ?」

 たずねる俺。

「戦ったりするのか?」
「ふむ……お前は『一周目』に比べると随分弱くなっているな」

 夜天が俺を見た。
 フードの奥の眼光は、鋭い。

「魔王を倒したときはレベル700を超えていたけど、生まれ変わったときにレベルがリセットされたからな」
「なるほど」

 うなずく夜天。

「まずは『観察』させてもらおう。今のお前を」
「観察?」
「一周目と二周目で何か変わったのか、変わらないのか。お前が私の主としてふさわしいのか、否か。見せてもらうぞ、夏瀬彼方。お前の心と魂を──」



 気が付くと、学校へ向かう通学路だった。

「あ、あれ、ここは……?」

 俺が住む町。
 しかも、いつの間にか俺は制服姿に変わっている。

九天きゅうてん高校……だったか? お前の記憶の中から再現した、お前の日常だ」

 夜天がすぐそばにいた。
 と、

「おはようございます、彼方くん」

 雫が声をかけてきた。

「お、おはよう」

 ぎくりとする。
 そばにいる夜天に視線をやり、それから雫に視線を戻し、

「ああ、えっと……こいつは俺の知り合いっていうか、なんというか……」

 勇者のことや聖剣のことなんて、どう説明したらいいんだろう?

「こいつ? なんの話ですか」

 雫はキョトンとしている。

「えっ」
「私の姿はお前にしか見えない」

 夜天が説明した。

「気にせず、いつも通りに過ごしてみろ。私はそれを見させてもらう」
「いつも通り、って──」
「試練はすでに始まっている」

 夜天が俺を見据える。
 静かで、厳かな光をたたえた瞳だった。

「観察させてもらうぞ、夏瀬彼方」
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