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第7章 勇者の意志
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「ベルクさんが殺されている……!」
アリアンは呆然と立ち尽くした。
数時間前、彼女は突然『神託』を得た。
そこで見た映像は、ベルクに何か不吉なことが起きたというイメージ。
場所は、どうやら廃工場のようだった。
不慣れな異世界ながら、なんとか場所を探し当てた。
中庭を掘り返すと、死体が出てきた。
脳天から真っ二つになった死体だ。
この世界の人間が、剣の達人であるベルクを斬殺できるとは思えない。
できるとすれば、ただ一人──。
『勇者候補』である夏瀬彼方の仕業だろう。
「ああ、ベルクさん……」
アリアンは、がくり、とその場に膝を落とした。
大粒の涙がこぼれ、あふれ出す。
嗚咽が止まらない。
「許せない……ナツセ・カナタ」
カナタの運命は、勇者のそれとは交わらない──神託の通りだった。
あくまでも彼を勇者として誘おうとしたベルクに、もっと強硬に反対すればよかったのだ。
そうすれば、彼を死なせずに済んだ。
大切な、幼なじみを。
魔王を倒すべく集った、同志を。
「高潔で、世界を守るために戦おうとしていた彼を、こんな無残に……お前など勇者ではない、カナタ……!」
ぎりっと奥歯を噛みしめる。
そう、夏瀬彼方に勇者の資格などない。
ならば、命を絶つのみ。
そうすれば、この世界の別の人間に『勇者の資格』が宿る。
「私が殺す……お前を殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
殺意をたぎらせながら、アリアンはいつの間にか笑っていた。
怒りなのか、悲しみなのか。
絶望なのか、高揚なのか。
自分でもよく分からない。
ただ、一つ分かることがある。
カナタを殺すことは、きっと神のご意志に沿うことなのだと。
神託の真意なのだと。
ならば、それを実行するのは私の役目だ。
ベルクの分まで──。
「必ずカナタを殺してみせる。首を斬り、あなたの墓前に捧げましょう……ベルク」
「おいおい。随分と物騒な台詞だな、アリアン殿」
突然、前方から苦笑交じりの声が響いた。
「えっ……!?」
驚いて顔を上げるアリアン。
眼前の空間が、ぐにゃり、と歪む。
「これは──」
空間に裂け目が走り、その向こうから人影が飛び出してきた。
「どうにか戻れたぞ」
筋骨隆々とした長身の男だった。
長く伸ばした黒髪に精悍な顔立ち。
いかにも美丈夫といった感じだ。
「ナダレ……!?」
アリアンは呆然とつぶやいた。
彼──ナダレは、東方でその名を馳せる武闘家である。
アリアンとともに、この世界に来訪する第二次メンバーの一人として選ばれたが、世界間通路を移動する際、『時空の果て』に飲みこまれてしまった。
そこに落ちてしまうと、二度と戻ってこられない。
──その、はずだった。
「どうやら、私は別の時代に落ちたらしい。こことは違い、戦乱の時代だった。三年ほど過ごした後、突然私の前に時空の裂け目が現れてな。ここにやって来ることができたのだ」
ナダレが説明する。
簡単に言っているが、おそらく苦難の連続だったのだろう。
「ご苦労をなさったのですね」
「まあ、色々とな。ただ、楽しい時間もあったぞ。現地で仲良くなった人間に武術を教えたりしてな」
「武術……ですか。あなたらしい」
くすりと微笑むアリアン。
「私の流派『雷撃彗星拳』にちなんで『月光流星拳』と名付けたそうだ。あるいは、この時代にまで伝わっているかもしれんな」
がはは、とナダレが豪快に笑った。
※
放課後になり、俺はオカ研にやって来た。
凪沙さんには『話があるので、今日は必ず来てください』と念押ししてある。
夜天に言われた『鍵』のある遺跡の場所をダウジングしてもらわなければならない。
といっても、異世界のことをそのまま話すわけにはいかないから、どうにかアレンジして説明しなきゃな……。
雫と待ち合わせ、一緒に部室に入る。
「すぴー……」
寝ていた。
机に突っ伏し、よだれを垂らしながら。
「凪沙さんったら」
雫がクスリと笑った。
……気持ちよさそうに眠ってるし、起きるまでそっとしておくか。
アリアンは呆然と立ち尽くした。
数時間前、彼女は突然『神託』を得た。
そこで見た映像は、ベルクに何か不吉なことが起きたというイメージ。
場所は、どうやら廃工場のようだった。
不慣れな異世界ながら、なんとか場所を探し当てた。
中庭を掘り返すと、死体が出てきた。
脳天から真っ二つになった死体だ。
この世界の人間が、剣の達人であるベルクを斬殺できるとは思えない。
できるとすれば、ただ一人──。
『勇者候補』である夏瀬彼方の仕業だろう。
「ああ、ベルクさん……」
アリアンは、がくり、とその場に膝を落とした。
大粒の涙がこぼれ、あふれ出す。
嗚咽が止まらない。
「許せない……ナツセ・カナタ」
カナタの運命は、勇者のそれとは交わらない──神託の通りだった。
あくまでも彼を勇者として誘おうとしたベルクに、もっと強硬に反対すればよかったのだ。
そうすれば、彼を死なせずに済んだ。
大切な、幼なじみを。
魔王を倒すべく集った、同志を。
「高潔で、世界を守るために戦おうとしていた彼を、こんな無残に……お前など勇者ではない、カナタ……!」
ぎりっと奥歯を噛みしめる。
そう、夏瀬彼方に勇者の資格などない。
ならば、命を絶つのみ。
そうすれば、この世界の別の人間に『勇者の資格』が宿る。
「私が殺す……お前を殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
殺意をたぎらせながら、アリアンはいつの間にか笑っていた。
怒りなのか、悲しみなのか。
絶望なのか、高揚なのか。
自分でもよく分からない。
ただ、一つ分かることがある。
カナタを殺すことは、きっと神のご意志に沿うことなのだと。
神託の真意なのだと。
ならば、それを実行するのは私の役目だ。
ベルクの分まで──。
「必ずカナタを殺してみせる。首を斬り、あなたの墓前に捧げましょう……ベルク」
「おいおい。随分と物騒な台詞だな、アリアン殿」
突然、前方から苦笑交じりの声が響いた。
「えっ……!?」
驚いて顔を上げるアリアン。
眼前の空間が、ぐにゃり、と歪む。
「これは──」
空間に裂け目が走り、その向こうから人影が飛び出してきた。
「どうにか戻れたぞ」
筋骨隆々とした長身の男だった。
長く伸ばした黒髪に精悍な顔立ち。
いかにも美丈夫といった感じだ。
「ナダレ……!?」
アリアンは呆然とつぶやいた。
彼──ナダレは、東方でその名を馳せる武闘家である。
アリアンとともに、この世界に来訪する第二次メンバーの一人として選ばれたが、世界間通路を移動する際、『時空の果て』に飲みこまれてしまった。
そこに落ちてしまうと、二度と戻ってこられない。
──その、はずだった。
「どうやら、私は別の時代に落ちたらしい。こことは違い、戦乱の時代だった。三年ほど過ごした後、突然私の前に時空の裂け目が現れてな。ここにやって来ることができたのだ」
ナダレが説明する。
簡単に言っているが、おそらく苦難の連続だったのだろう。
「ご苦労をなさったのですね」
「まあ、色々とな。ただ、楽しい時間もあったぞ。現地で仲良くなった人間に武術を教えたりしてな」
「武術……ですか。あなたらしい」
くすりと微笑むアリアン。
「私の流派『雷撃彗星拳』にちなんで『月光流星拳』と名付けたそうだ。あるいは、この時代にまで伝わっているかもしれんな」
がはは、とナダレが豪快に笑った。
※
放課後になり、俺はオカ研にやって来た。
凪沙さんには『話があるので、今日は必ず来てください』と念押ししてある。
夜天に言われた『鍵』のある遺跡の場所をダウジングしてもらわなければならない。
といっても、異世界のことをそのまま話すわけにはいかないから、どうにかアレンジして説明しなきゃな……。
雫と待ち合わせ、一緒に部室に入る。
「すぴー……」
寝ていた。
机に突っ伏し、よだれを垂らしながら。
「凪沙さんったら」
雫がクスリと笑った。
……気持ちよさそうに眠ってるし、起きるまでそっとしておくか。
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