不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第7章 勇者の意志

4 再会

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「ベルクさんが殺されている……!」

 アリアンは呆然と立ち尽くした。

 数時間前、彼女は突然『神託』を得た。

 そこで見た映像は、ベルクに何か不吉なことが起きたというイメージ。
 場所は、どうやら廃工場のようだった。

 不慣れな異世界ながら、なんとか場所を探し当てた。
 中庭を掘り返すと、死体が出てきた。

 脳天から真っ二つになった死体だ。

 この世界の人間が、剣の達人であるベルクを斬殺できるとは思えない。
 できるとすれば、ただ一人──。

『勇者候補』である夏瀬彼方の仕業だろう。

「ああ、ベルクさん……」

 アリアンは、がくり、とその場に膝を落とした。

 大粒の涙がこぼれ、あふれ出す。
 嗚咽が止まらない。

「許せない……ナツセ・カナタ」

 カナタの運命は、勇者のそれとは交わらない──神託の通りだった。

 あくまでも彼を勇者として誘おうとしたベルクに、もっと強硬に反対すればよかったのだ。
 そうすれば、彼を死なせずに済んだ。

 大切な、幼なじみを。
 魔王を倒すべく集った、同志を。

「高潔で、世界を守るために戦おうとしていた彼を、こんな無残に……お前など勇者ではない、カナタ……!」

 ぎりっと奥歯を噛みしめる。

 そう、夏瀬彼方に勇者の資格などない。
 ならば、命を絶つのみ。

 そうすれば、この世界の別の人間に『勇者の資格』が宿る。

「私が殺す……お前を殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」

 殺意をたぎらせながら、アリアンはいつの間にか笑っていた。

 怒りなのか、悲しみなのか。
 絶望なのか、高揚なのか。

 自分でもよく分からない。

 ただ、一つ分かることがある。
 カナタを殺すことは、きっと神のご意志に沿うことなのだと。
 神託の真意なのだと。

 ならば、それを実行するのは私の役目だ。
 ベルクの分まで──。

「必ずカナタを殺してみせる。首を斬り、あなたの墓前に捧げましょう……ベルク」
「おいおい。随分と物騒な台詞だな、アリアン殿」

 突然、前方から苦笑交じりの声が響いた。

「えっ……!?」

 驚いて顔を上げるアリアン。

 眼前の空間が、ぐにゃり、と歪む。

「これは──」

 空間に裂け目が走り、その向こうから人影が飛び出してきた。

「どうにか戻れたぞ」

 筋骨隆々とした長身の男だった。
 長く伸ばした黒髪に精悍な顔立ち。
 いかにも美丈夫といった感じだ。

「ナダレ……!?」

 アリアンは呆然とつぶやいた。

 彼──ナダレは、東方でその名を馳せる武闘家である。
 アリアンとともに、この世界に来訪する第二次メンバーの一人として選ばれたが、世界間通路を移動する際、『時空の果て』に飲みこまれてしまった。

 そこに落ちてしまうと、二度と戻ってこられない。
 ──その、はずだった。

「どうやら、私は別の時代に落ちたらしい。こことは違い、戦乱の時代だった。三年ほど過ごした後、突然私の前に時空の裂け目が現れてな。ここにやって来ることができたのだ」

 ナダレが説明する。
 簡単に言っているが、おそらく苦難の連続だったのだろう。

「ご苦労をなさったのですね」
「まあ、色々とな。ただ、楽しい時間もあったぞ。現地で仲良くなった人間に武術を教えたりしてな」
「武術……ですか。あなたらしい」

 くすりと微笑むアリアン。

「私の流派『雷撃彗星拳らいげきすいせいけん』にちなんで『月光流星拳げっこうりゅうせいけん』と名付けたそうだ。あるいは、この時代にまで伝わっているかもしれんな」

 がはは、とナダレが豪快に笑った。

    ※

 放課後になり、俺はオカ研にやって来た。
 凪沙さんには『話があるので、今日は必ず来てください』と念押ししてある。
 夜天に言われた『鍵』のある遺跡の場所をダウジングしてもらわなければならない。

 といっても、異世界のことをそのまま話すわけにはいかないから、どうにかアレンジして説明しなきゃな……。

 雫と待ち合わせ、一緒に部室に入る。

「すぴー……」

 寝ていた。
 机に突っ伏し、よだれを垂らしながら。

「凪沙さんったら」

 雫がクスリと笑った。

 ……気持ちよさそうに眠ってるし、起きるまでそっとしておくか。
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