普通のゲイの『奇妙な短編集』

しゅんすけ

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植物とキスをする

小説とキスをする 4

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 僕は女の子に……。かえでさんに優しく接吻をするようにアルモンドカズラの葉に接吻をした。それは酸っぱい初めての接吻とは違って、甘くて苦い、彼女が珈琲を口に含んだ後にする接吻のようだった。それから僕はアルモンドカズラの葉を下にのせて、電気を消した。紫色の照明も消して床に横たわった。床に背中を付けると鳥肌が立った。だけどそれもすぐに僕の体温と同じになる。
 目を瞑って、呼吸に意識を集中する。呼吸を聞くことに……。
 彼らの、いや、彼女らの呼吸は突然始まった。彼というよりは彼女のような気がする。彼女らではなく彼女な気がする。今度は一人でお店より静かな寝息だった。耳元にダイレクトに聞こえる。まるですぐ隣で添い寝をしているように、彼女の口元が僕の耳元にくっつきそうな距離で寝息を立てている。目を開けたら本当にいるのかもしれない。そして寝息を聞いていると、この呼吸の優しさの中にかえでさんと同じような呼吸を感じた。気のせいかもしれない。だけど確かに感じる。はあ、はあ、と吐かれる呼吸はかえでさんが話している時に聞いた、小さな吐息ととても似ている。このアルモンドカズラはかえでさんに育てられたから、かえでさんに似たのかもしれない。ペットが飼い主に似るように。

 自分の鼓動も少しずつ早くなって、彼女の寝息と僕の鼓動が一定のリズムで重なり合う。ドクドクと、はあはあ、がくっついて離れずに手を繋いでクルクル回るように踊っている。その回転は速くなって、僕の荒々しい呼吸が合いの手を入れる。
 興奮状態の僕は不思議な感覚に成すがままで身を任せた。次に感じたのは舌の上に乗せていたアルモンドカズラの葉が舌の表面を指先でなぞるような感覚だった。なぞってくるのは細い二本の指で、それは想像していたかえでさんの指先の感覚にとても近かった。人差し指と中指とで、僕の舌を奥から手前へと繰り返しなでる。舌の上を触られることでこんなに感じてしまうことを僕は初めて知った。それはくすぐったくて、僕の内なる本質の部分に触れられているような恥ずかしさもあった。だけど体は拒否ができずに舌を前へ前へと自ら差し出してしまう。そしてその指先は僕の中心軸に沿って体を下へとなぞりながら降りていく。指先は期待していた通りに動いた。
ここで気づいたのは僕の呼吸が荒くなればそれに比例して、アルモンドカズラの葉であるはずの彼女の手は濃密に僕の体に刺激を与えてくれることだ。僕は我慢ができなくて呼吸を自発的に荒くした。今度は口で包み込まれるような感覚になる。そうなると自発的でなくても呼吸は荒くなり、僕は射精をした。今度は感覚ではなくて確実にしていた。しばらく動けなくて、かえでさんのことを思った。

 アルモンドカズラの葉についてしまった僕の精液を拭き取る行為は、とても空しく感じた。これは彼女ではなくて、ただの植物だ。だけど僕は丁寧に、それを拭いた。
 出してしまえばこの非道徳的な行為は溜まった性欲のせいだということにして、僕は植物を部屋の端に追いやって普通の生活した。
 ひどい話、性欲がたまっていたからかえでさんのことが気になっただけで、溜まっていなければ今さら女性とどうなりたいという気もちは薄くなる。だから僕はかえでさんのことも頭の中から消えた。そしてまた、性欲がたまるとかえでさんを思い出して、植物と呼吸の交換を行った。交換の頻度はだんだんと増していって、週に一度だったものが毎日行うようになった。つまり毎日かえでさんのことを思うようになってしまった。
 直接彼女に会いに行けばいいものの、引き留めているのは後ろめたさからだ。僕は彼女に想像の上であるとはいえ不純な行為をさせてしまっている。だから僕は会うことが恥ずかしかったし合わせる顔が無かった。それに今度あそこでセラピーを受けてしまえば、僕はきっと彼女の前で射精をしてしまうことだろう。それは想像上だから許されることで、ただのセラピーの場でそんな行為をすることは僕の道徳観として許されない。付き合っていない男女関係で起きていい事ではない。だからお客としてもう一度行くことも大変悩ましかった。。

 だけど一か月も経つとそんな気持ちも抑えきれなくなって、用事もないのにあのスーパに向かっていた。無駄にシャワーを浴びて、まだ新しい方の下着に履き替えた。スーパーで並んでいるものはお正月用品から、節分用の豆や恵方巻になっている。ひなあられまで売られていた。二階に上がる勇気はやっぱり無くて、店内を三周ほどしていた。お昼時だからあわよくば、かえでさんがお昼ご飯を買いには来ないかと期待して周ってみたけれどそう上手くはいかない。四週目をしようとすると、さすがに店員のおばさんがこちらを見てきていた。何も買わずに店内をぐるぐると、さすがに少し怪しまれているようで僕はシュークリームを二つ買った。かえでさんがシュークリームを好きそうな気がしたからだ。それを買って流れるように二階に登った。

 やっぱり僕は考えたら何もできない。何も考えずただ、二階のかえでさんのお店の前まで来た。入口の窓からは紫色の光が光っている。店名が扉の上に、お洒落な木製の看板に白いペンキで書かれていた。以前きた時には気が付かなかった。『リーフレッシュ』それを見ていると扉が中から開かれた。

「面白いでしょ。リーフとリフレッシュをかけているの。また来てくれると思っていましたよ」
かえでさんに招かれてそのまま店内に入ると、やはり湿度が高くてモアッとした。だけど乾燥している外とは違って呼吸がしやすい。中にはすでに机がセットされていて、かえでさんがおかけください、と僕にそこに座らせた。
僕は座ると、これよければとシュークリームをビニール袋に入ったまま渡した。

「下で買ったものですけど」

かえでさんは、ありがとうございますと言ってそれを受け取った。そして、大好きなんです、シュークリームと言った。僕はそれがお世辞ではなくて本心から言っているのだと声質で分かった。そしてかえでさんの声を聴いていると、あのアルモンドカズラの呼吸とやはり似ていると思った。

かえでさんがビニール袋を覗くと、シュークリーム一つを僕にくれた。ありがとうございます、と僕が言うと「下で買ったものですが」と彼女が返した。僕たちは同じ笑い方をして、一緒にシュークリームを食べた。

「彼女は元気ですか?」

「彼女?」と僕は聞いた。
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