ずっと一緒の親友で、好きな人で、僕を殺した人。

しゅんすけ

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湘琶視点

18『トマトジュース』

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「海人は、どこにいるか分かる?」

「あら、先に行っちゃったわよ」

 トイレに入って蛍光灯を交換した。帰ってきてから海人と話そう、そう決めて学校に向かった。

 昨日と同じく、朝のホームルームの時間になっても緑山先生は来なかった。理由は分かっていた。教室に入った瞬間からその話は広まっていた。

行方不明だった生徒が全員、昨日見つかったという。

海人が全員を解放したということが事実だと分かった。その反面本当に海人が犯人だということも分かった。ただ慎太郎は登校していなくて、昨日のうちに送っていたメッセージも返信は無かった。

「皆さん席についてください。大事な話があります」

緑山先生は教室に入ってくると言った。まず出席を取ります、といつものように一番の阿部大地の名前を呼んだ。慎太郎の名前は呼ばなかった。出欠が終わると咳払いして話を始めた。

「良いお話と悲しいお話があります。こんな伝え方で始めたくはなかったのですが……。まず昨日全校集会で話のありました、行方不明の生徒の件ですが全員昨日の夕方過ぎに家に帰ってきたことが分かりました。

もう一つのお話ですが、慎太郎君が意識不明の状態になっています。他の行方不明の子たちと同じく昨日お家に帰ってきたのですが、意識が無くなって現在入院をしています。詳しいことは分かりませんが現状そのようになっています」

 教室は波音が近づいてくるみたいに少しずつ騒がしくなった。拓哉は俺の方を振り向いている。

その顔から俺は目をそらした。原因はきっと海人の能力にある。それを知ったうえで何も知らないふりをして、心配している顔を向けることができなかった。

今すぐにでも海人のクラスへ乗り込みたい気持ちだった。

朝のホームルームが終わってすぐに海人のクラスに行くと海人はいなくて、すぐに電話をかけた。

「おい、お前どこにいるんだよ」と言った。以外にもワンコールで海人が電話に出て心の準備ができていなかった。大声で話すおじさんみたいになってしまった。

「どこって、別に……。関係ないじゃん」
「聞きたいことがある、お前さ」と言ったところで海人は声をかぶせてきた。

「分かってるって、忘れてくれよ。昨日のことは」と言って電話を切られた。

「その話じゃねえよ」と言った声は届いていなかった。

直ぐにかけなおしても海人は電話に出なかった。スマホを投げつけたい気持ちをギュっと握りしめて抑え込んだ。行方不明者が見つかったとはいえ、当分の間、授業は五時間目で終わるとのことだった。

昨夜のキスの事と、慎太郎の事と今すぐにでも海人に聞きたくて授業内容は何も頭には入ってこなかった。海人が慎太郎を意識不明にしたとしても、どうしても嫌いにはなれない自分に嫌悪感を抱く。

世界中を敵にしても君を守るよ、誠先生が鼻歌交じりに一時期ずっと歌っていた。その歌詞が刺さって、俺が海人を守るとそんなことを思った時期もあった。そして今もその気持ちは変わっていないみたいだ。

「潮にぃも一緒に食べよ?」

 家につくと予想外に海人は帰ってきていて、拓海とおやつを食べているようだった。手を洗ってくると拓海に言って洗面台に行くと海人と出くわした。

「おい、大丈夫かよ。また鼻血か?」

 すぐにでも慎太郎の事を問い詰めようと思っていたのに、海人は赤く染まったシャツを洗面台で洗っていた。海人はこっちを一度見て、また洗面台に目を戻した。

「大丈夫、トマトジュース」

「あ、そっか……。てか教えろよ」

「だから忘れろって、気の迷いもあったんだよ。俺も反省してる」とまた、俺の話を聞かずに遮った。

「ちげえって。その話もそうだけど……。慎太郎が意識不明なんだよ。お前なにしたんだ」

「え?」と海人はシャツを洗う手を止めてこっちを見た。蛇口をひねって水を止めると、洗うのを止めた。

「嘘だろ。俺は何もしてない」

「でも慎太郎が意識不明で入院してるって言ってたぞ」

「……もしかしたら」

「なんだよ」

「カラスに能力を使うと、少ししたら死んでいった……。俺も能力を使うと脳に負荷がかかって鼻血が出る時がある。それに副作用的に願っていない現象が出たりする。ガラスが割れたり、物が浮いたり……。やっぱり異質な力だから代償がどこかに出るんだよ」

「だから何だよ」

「マインドコントロールをかけられた側も、もしかしたら異質な力が体内に入ってくるわけだから、その代償……風邪をひくと直すために細胞が活性化して熱が出るみたいに体が反応するのかもしれない」

「かもしれないって……。他の人は何ともないって話だぞ。慎太郎以外は……」

「個人差があるんだよ。風邪をひきやすいかどうかみたいに、それに慎太郎には何度か力を使っているせいかも……」

「さっきから、かも、かもって……。なんだよ、慎太郎が……」

俺は海人の胸ぐらを掴んですぐに離した。なんでこんなに必死になっているのかと冷静になった。俺は慎太郎の心配をしている、ふりをしている。本当はどうでもよかった。

「俺も分からないことが多いんだよ。だから色々試したり……」

胸ぐらを掴んだのは初めてで、海人は怯えた目をしていた。海人のこんな顔を見たいわけじゃない。世界中を敵にしても守りたいだけだった。

「ごめん、怖がらせるわけじゃ」

「いや、俺の方こそ悪かった。慎太郎はきっと時間がたてば元に戻るよ。それとキスの事も……。無理やりしてごめん」

「いや……。で、どうだった。試してみて」
俺が一番聞きたいのはこの事だった。

まだかすかな希望にしがみついている。海人は異性愛者、いわゆるノンケだ。ノンケがゲイになるか、なんて馬鹿なことを検索していた時期もあった。

歳をとってから男を好きになる人もネット上には存在した。だから今は可能性がゼロでもいつかは変わるんじゃないかという期待が捨てられなかった。

「え!?」と海人はあからさまに声が裏返って言った。

「二人とも……。大丈夫?喧嘩してるの?」と拓海が入ってきた。待ちきれずに様子を見に来たようだ。

「あ、してないよ。おやつをどっちが多く食べるか話し合いしてたんだ……。だよな?」と海人は言って俺は頷いた。

「そっか……。それならよかった。ねえ、たまにはゲームでもしない?三人で昔みたいにさ」

「お、いいよ。やろうぜ」と海人は言って拓海の背中を押していった。

「海人。まだ話は……」

「何も、俺は何もしていない。お前も忘れろ」と海人は言った。振り向きもせずに、頼むから忘れてくれという気持ちが超能力が無くても伝わってきた。

「いいからゲームやるぞ。俺らは兄弟なんだから、弟の世話もしないと」

 ぎこちなく始まったゲームも、次第にいつも通り話せるようになった。拓海も楽しそうで、舞も帰ってきて四人そろって遊んだ。久しぶりに四人で過ごす時間は懐かしくも感じた。

 一週間くらいして、慎太郎から返事があった。電話で話してみると何も覚えていないと慎太郎は言った。

最後の記憶は晩御飯の焼肉が美味しかったことだと呑気に言っていたから大丈夫そうだと思った。
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