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海人視点
3『ひとをころした』
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「夢だな。俺は夢を見ていた。つーか熱いわ、くっついて。子供じゃねえんだから」
潮琶に触れている腕が急に熱く感じてベッドから降りた。夢だと思えばいい。俺がやった証拠はない。
「なんだよ、昔はいつも一緒に寝てたじゃんか。最近は一緒に寝てくれなくて寂しいわ」と潮琶は言った。
「この年になってそんなのキモイわ」と言って潮琶をベッドから引きずり降ろした。
腹が減ったとキッチンに下りるとチャーハンと唐揚げがあった。
冷めても美味しい誠先生の唐揚げの最後の一つを潮琶が話に夢中になっているスキに勝ち取った。
静かすぎると流していたバラエティ番組が終わってニュース番組に切り替わった。
先ほど入ったニュースです、とニュースキャスターが言うと、画面は真っ暗な野外でパトカーや救急車の赤い光が映し出された。
そして何度も頭の中で再生された映像と同じものがテレビの向こうに映った。
改めてみると小学生の頃見学したごみ焼却工場を思い出した。圧縮されたリサイクル缶の塊だ。
「現場からお伝えします。本日十八時頃、こちらの国道百八十八号線から駅へと向かう大通りで信号待ちで停車中の車が潰れているとの通報がありました。車体からは黒焦げの遺体が発見されていますが身元は分かっていません。一時は車体から炎と黒煙が立ち上がりましたが現在は鎮火しています。周囲に衝突の後は無く事件と事故の両方で捜索中です。何か目撃した方がいましたら警察署の方までご連絡ください」
女性リポーターの声が耳を通り抜けて画面はソーラーパネルのコマーシャルに切り替わった。すると画面が消えて手の上が急に軽くなった。
「洗うからもらうよ」と潮琶は俺の手から皿を取って洗い始めた。
眠いから先に戻る、と潮琶に言って部屋に戻った。寒気がしてきて布団の中に潜り込んだ。
耳を塞いで、目を瞑った。それでもおばさんの悲鳴が聞こえてくる。悲鳴は車の中でつぶれて死んだ人の悲鳴に変わって、黒く焼け焦げた死体が脳裏に浮かんだ。
目玉も内臓も腕も足も顔も全部が潰れて、ひき肉みたいになった。それが車体の炎で焼かれて聞こえないはずの悲鳴が、塞いだ手を突き抜けて聞こえてくる。
やめろ、やめろ、やめろ、やめろ。考えるな、考えるな、考えるな。
何回唱えても、どれだけ強く目を瞑っても聞いていない悲鳴と、見ていない映像で頭の中を犯される。
俺は、人を殺したのか。布団から抜け出すと部屋は真っ暗だった。手探りで扉を開けてトイレの電気もつけずに便器に頭を突っ込んだ。吐き出せるものを吐き出して、それでも何かが出そうになってトイレから抜け出せなかった。
潮琶が来てくれて大丈夫かと背中を擦ってくれる。そんなことを一瞬想像して、またでない何かを吐き出した。
口をゆすいで部屋に戻っても悲鳴は消えなかった。
イヤホンをしてハードロックを検索して大音量で流した。悲鳴よりも大きなデスボイスが少しはマシにさせてくれた。目を瞑ると見てもいないグロスティックな映像が再生される。
瞑るのが怖くて目を開いた。五分、一時間、三時間……。
カーテンから光が漏れ始めて音楽を止めた。一睡もできずに朝を迎えた。変な倦怠感があるけど眠れそうになかった。
明るくなると少しは気が楽になって、少しでもいいから眠ろうと布団の中にまたもぐりこんだ。
「朝だぞ、起きろよ」
ようやく、眠れそうなところで潮琶は起きて俺の体を揺すってきた。声をかけるのも億劫なくらいにだるかった。寝たふりをしていると潮琶は諦めて部屋を出ていった。
怪しまれたところで俺がやった証拠も無いはずだけど近くの監視カメラに写っていないか急に不安になった。
とりあえず平静を装わないと、顔を二回叩いて気合を入れた。制服に着替えてキッチンに下りた。
「おはよ、特製トースター焼き上がったとこだよ」
「おう、ありがとう」
自分の声が引きつっていないか、潮琶の顔を見たけど大丈夫そうだ。
「海人お前知ってるか。昨日、変な事故あったんだってよ」と潮琶が言った。背筋がゾクリと震えた。
いつもニュースの話なんてしない癖に、俺を怪しんでいるのだろうか。
「知らない」と返すさほど興味もなかぅたのか、その話はすぐに終わった。一人で外を歩いたら道の監視カメラに映るだろうか。それも考えすぎなのか、そもそも映っているかも分からない。だけど用心に越したことは無い。
「たまには一緒に学校いかね?」
「え、何?珍しい」
「別に、嫌ならいいわ」
「いや、嫌じゃないけど珍しいなって」
「そっか?」
胃の中は空っぽで空腹だった。特製トーストを食べ終わると一緒に置かれている薬を一錠、念の為飲むふりをしてからポケットに入れた。
潮琶は先に準備を終えていて、俺も急いで洗面台で準備をした。右上の寝癖がどうしても落ち着かなかない。
寝っていないのなら寝癖じゃないのかも知れない。なんてどうでもいいことが頭によぎった。
潮琶に触れている腕が急に熱く感じてベッドから降りた。夢だと思えばいい。俺がやった証拠はない。
「なんだよ、昔はいつも一緒に寝てたじゃんか。最近は一緒に寝てくれなくて寂しいわ」と潮琶は言った。
「この年になってそんなのキモイわ」と言って潮琶をベッドから引きずり降ろした。
腹が減ったとキッチンに下りるとチャーハンと唐揚げがあった。
冷めても美味しい誠先生の唐揚げの最後の一つを潮琶が話に夢中になっているスキに勝ち取った。
静かすぎると流していたバラエティ番組が終わってニュース番組に切り替わった。
先ほど入ったニュースです、とニュースキャスターが言うと、画面は真っ暗な野外でパトカーや救急車の赤い光が映し出された。
そして何度も頭の中で再生された映像と同じものがテレビの向こうに映った。
改めてみると小学生の頃見学したごみ焼却工場を思い出した。圧縮されたリサイクル缶の塊だ。
「現場からお伝えします。本日十八時頃、こちらの国道百八十八号線から駅へと向かう大通りで信号待ちで停車中の車が潰れているとの通報がありました。車体からは黒焦げの遺体が発見されていますが身元は分かっていません。一時は車体から炎と黒煙が立ち上がりましたが現在は鎮火しています。周囲に衝突の後は無く事件と事故の両方で捜索中です。何か目撃した方がいましたら警察署の方までご連絡ください」
女性リポーターの声が耳を通り抜けて画面はソーラーパネルのコマーシャルに切り替わった。すると画面が消えて手の上が急に軽くなった。
「洗うからもらうよ」と潮琶は俺の手から皿を取って洗い始めた。
眠いから先に戻る、と潮琶に言って部屋に戻った。寒気がしてきて布団の中に潜り込んだ。
耳を塞いで、目を瞑った。それでもおばさんの悲鳴が聞こえてくる。悲鳴は車の中でつぶれて死んだ人の悲鳴に変わって、黒く焼け焦げた死体が脳裏に浮かんだ。
目玉も内臓も腕も足も顔も全部が潰れて、ひき肉みたいになった。それが車体の炎で焼かれて聞こえないはずの悲鳴が、塞いだ手を突き抜けて聞こえてくる。
やめろ、やめろ、やめろ、やめろ。考えるな、考えるな、考えるな。
何回唱えても、どれだけ強く目を瞑っても聞いていない悲鳴と、見ていない映像で頭の中を犯される。
俺は、人を殺したのか。布団から抜け出すと部屋は真っ暗だった。手探りで扉を開けてトイレの電気もつけずに便器に頭を突っ込んだ。吐き出せるものを吐き出して、それでも何かが出そうになってトイレから抜け出せなかった。
潮琶が来てくれて大丈夫かと背中を擦ってくれる。そんなことを一瞬想像して、またでない何かを吐き出した。
口をゆすいで部屋に戻っても悲鳴は消えなかった。
イヤホンをしてハードロックを検索して大音量で流した。悲鳴よりも大きなデスボイスが少しはマシにさせてくれた。目を瞑ると見てもいないグロスティックな映像が再生される。
瞑るのが怖くて目を開いた。五分、一時間、三時間……。
カーテンから光が漏れ始めて音楽を止めた。一睡もできずに朝を迎えた。変な倦怠感があるけど眠れそうになかった。
明るくなると少しは気が楽になって、少しでもいいから眠ろうと布団の中にまたもぐりこんだ。
「朝だぞ、起きろよ」
ようやく、眠れそうなところで潮琶は起きて俺の体を揺すってきた。声をかけるのも億劫なくらいにだるかった。寝たふりをしていると潮琶は諦めて部屋を出ていった。
怪しまれたところで俺がやった証拠も無いはずだけど近くの監視カメラに写っていないか急に不安になった。
とりあえず平静を装わないと、顔を二回叩いて気合を入れた。制服に着替えてキッチンに下りた。
「おはよ、特製トースター焼き上がったとこだよ」
「おう、ありがとう」
自分の声が引きつっていないか、潮琶の顔を見たけど大丈夫そうだ。
「海人お前知ってるか。昨日、変な事故あったんだってよ」と潮琶が言った。背筋がゾクリと震えた。
いつもニュースの話なんてしない癖に、俺を怪しんでいるのだろうか。
「知らない」と返すさほど興味もなかぅたのか、その話はすぐに終わった。一人で外を歩いたら道の監視カメラに映るだろうか。それも考えすぎなのか、そもそも映っているかも分からない。だけど用心に越したことは無い。
「たまには一緒に学校いかね?」
「え、何?珍しい」
「別に、嫌ならいいわ」
「いや、嫌じゃないけど珍しいなって」
「そっか?」
胃の中は空っぽで空腹だった。特製トーストを食べ終わると一緒に置かれている薬を一錠、念の為飲むふりをしてからポケットに入れた。
潮琶は先に準備を終えていて、俺も急いで洗面台で準備をした。右上の寝癖がどうしても落ち着かなかない。
寝っていないのなら寝癖じゃないのかも知れない。なんてどうでもいいことが頭によぎった。
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