血の記憶

甘宮しずく

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別離

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 開店前の<ナンバーファイブ>は慌しかった。普段ひかえめにおとされている照明も今は煌々と輝き、店内を照らし出している。

 指名の少ない同僚たちが忙しく開店準備に追われる中、晃聖はひとりカウンターのスツールにぼんやり座っていた。態度も雰囲気も洗練されて堂々としているが、顔には疲労の色が濃い。指先がしきりにカウンターを叩いている。彼の目は何も見ていなかった。

 「お疲れのようだな。遊び過ぎたか?」近寄りがたい空気をものともせず、慎司がのんきに話しかけた。

 「そうだな」指の動きは止まったが、上の空だ。

 「客を拾いに行かないのか?」

 「行かない」

 「最近、おまえおかしいよな?この分じゃ、次のトップは俺だな」

 「そうだな」

 慎司は驚いて固まった。
 「おいおい、どうしたんだ?やけに謙虚じゃないか。頭でも打ったか?」

 ようやく晃聖は、彼に顔を向けた。
 慎司の姿に自分を重ね、まじまじと見る。

 「何だよ?」慎司が居心地悪そうに身を引く。

 「俺、ホスト辞めるわ」

 唖然とする慎司を残し、晃聖は店長のいる店の奥に消えた。





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