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幸せと陰

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それからの私は幸せだった。ララに内緒にしていたことも無くなり、憧れていた師団長と信じられないことに思いが通じ合って、師団の中では今までどおり、話すこともないけど、目が合うことが増えた。

1週間に1度くらいの頻度で師団長の自宅に伺って、私のたわいも無い話しを優しい目で聞いてくださって、キスをして抱きしめられた。
時々、夜も泊まったけど、抱きしめられるだけで先に進む気配はない。きっとゆっくり進めてくださるのだと思っていた。

私は浮かれて幸せに終わりがあるのに気づけなかった。

1年たって私は21歳になっていた。
公爵家の18歳の令嬢に莫大な癒しの力が覚醒したと王都で話題となった。公爵家令嬢であれば働く必要も無く、働くとしても王宮で王族専門のヒーラーとして存在するのだと思っていた。

「えっ、あの噂の公爵家のヒーラーが第7師団に入られるのですか?」

「えぇ、ご令嬢たってのご希望だそうよ」

イザベル先輩達から話しを聞き、不安になる。

「いつからですか?」

「近日中らしいわよ。師団長も副師団長も調整で忙しくて、全然見かけないでしょ。」

最近、師団長に連絡が取れていない。イヤーカフに今日は会えますかと問いかけてもnoの返信ばかりだった。
寂しくて辛い。

ララと2人で訓練施設から管理棟に歩いているとき、師団長がヒーラーの方と歩いているのが見えた。笑顔で彼女を見ている。
あれが公爵家令嬢。18歳の彼女は綺麗なストロベリーブロンドの髪を靡かせて、オパールの瞳の大人っぽい、師団長と2人並ぶと一枚の絵画のようにお似合いの女性だった。

それからも、自宅に伺っても良いかイヤーカフで聞いてもnoの返事が続く。
そのうち王都で師団長と公爵令嬢のエリザベス様が交際しているとゴシップ誌に報じられた。

毎日が不安で仕方ない。私が連絡をとるのを辞めたら全てが終わりそうで、断られても断られても連絡を取り続けた。

遠征があり、コカトリスが出現したとのことで、今回はエリザベス様も同行されることとなった。ヒーラーの寝所の警備の為にテントの前で椅子に座っていたところに、エリザベス様が来て、私に声をかけられた。

「ねぇ、お前。シグルドが好きなんでしょ。」

「‥尊敬しております。」

「嫌だわ、誰も彼もシグルドが好きなんだもの。でも残念ね、彼は私が好きなの。信じられないなら、この遠征の後の祝勝会で、王宮のローズの間にいらっしゃい、クローゼットルームに隠れているといいわ、彼の本音を聞かせてあげる」

心が軋む。行かない方がいい、まだ夢を見ておきたいと自分の心が叫ぶ。
その後の遠征はどのように過ごしたのか記憶にない。

祝勝会の日、第7師団は前と同じく王前に並んでいた。そこにエリザベス様をエスコートする師団長とアンナさんをエスコートする副師団長が現れた。

ララと目を合わせて、きっと何かの間違い、きっと王か上官に言われての業務の一貫と思いこもうとした。だけど、一度も師団長と目が合わないことから察することができた。

もう、ローズの間には行かないようにしようと思っていたが、気になって近くまで来てしまった。向こうから師団長とエリザベス様が来るのが見えて、結局クローゼットルームに隠れることになってしまった。

エリザベス様は師団長に私のことを話していた。

「シグルド、あなたがユーリを好きなんじゃないかと噂があるの」
「彼女とは用が無ければ話していない。今日の祝勝会も今までの祝勝会もだ」
「でもあなたの目がユーリを追っているっていう人もいたわ」

師団長はため息をついて
「‥上から面倒をみるように頼まれていただけだよ」
と言った。
私は今、心が壊れる音を聞いたと思った。

「ユーリよりも私が好き?」

師団長は何も答えず、エリザベス様の唇にキスをして
「もう何も言うな」と言った。

カタカタと小刻みに震える身体を自分の腕で抱きしめ、嗚咽が出ないように気をつける。

2人が部屋を出るときにエリザベス様がこちらをみて、フッと笑っていた。

今日、やっと理解できた。
あの優しい眼差しも、愛してるの言葉もキスもこれからはエリザベス様のものだと。

2人が出て行ってから祝勝会の会場をひっそりと出た。夜に父に連絡をとって会った。

「お父さん、私のことを師団長に頼んだの?」

「あぁ、余計なことだったんだな」

「そうじゃないの、ありがとう」

「お前に幸せになってほしかったんだ。事情があってあの時
父になれなかったから。私は君がお母さんのお腹に宿った時、本当は嬉しかったんだ。でも取り巻く環境が素直に喜べなくて.何度後悔したことか‥」

「お父さん、私、この国から逃げたいの、いい?」

「私がお前の頼みを断ることはないよ」

父に抱きついて今まで辛かった分泣いた。

宿舎に戻って、エントランスを通るとき、アンナさんとレイシアさんを囲んでいる騎士達に会った。いつものように、ユーリとナナは女に見えないとの揶揄いに顔が強張って冗談で返せなかった。急いで部屋に戻って、もう無理だと呟いた。

次の日、様子のおかしかった私を心配してくれてララが部屋に来てくれた。昨日のことを話すと一緒に泣いてくれた。

「私は自業自得なんだけどね。」
ララも一緒に国を出たいと言うので理由を聞いたら、やはり、副師団長と連絡が取れなかったらしく、ララは副師団長が1人になる瞬間に業務連絡の振りをして突撃したそう。そして、仕事が落ち着いたら、またお泊まりをして、その時に一つになりたいと思いきって告げたところ、顔をゆがめてとても嫌そうにされたらしい。自分をそういう対象として見ていなかったのにはしたなく誘って引かれたみたいと弱々しく俯くララを抱きしめた。それからずっと避けられているらしい。

私は父にララと2人で国外に行くと伝えた。父は2週間後に隣国に行けるよう手配してくれた。

それからはララも私も淡々と日々を過ごした。イヤーカフも外して、私達が国外に出た後、師団長達に返してもらうように頼んだ。

出発の日は雨だった。思いが通じ合った幸せだった日を思い出して少し泣けた。
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