転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~

緒沢利乃

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陰謀編 社交シーズン春②

伯爵、従者の話を聞く

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そういえば、不思議には思っていた。

ベンジャミンたちと言葉を交わしたのは、俺が正体不明の白豚となっていて、知らない間にできた娘の婚約破棄のトラブルに目を白黒させていたときだった。とにかく周りは知らない奴らばっかりだし、俺自身も知らない人だったしとパニック状態だったので、初めましての自己紹介であれ? と思いつつもスルーした結果、ベンジャミンたちに「どういうこと?」と確認するのを忘れてました。

ベンジャミンの実子がディーンで、養子がノーマンであること。ベンジャミンの仕事の跡継ぎにはディーンではなくてノーマンと考え教育していること。いや、ディーンが能力不足で跡継ぎとして落第なら理解できるが……ディーンの奴はなかなかに優秀な人物である。ベンジャミンとの親子関係もなんとなく溝がある気はしていたが、なんせ異世界産の魂の俺ですから、こっちの世界ってそうなのかな? とあまり気にしていなかった。
ドライな親子関係もあるんじゃないって。ハーディング家は暑苦しいスキンシップ付の親子関係だけど。

俺はゴクリと唾を飲み込んで、真摯な態度でディーンの話を聞くことにした。
























父、ベンジャミンは代々オールポート伯爵家に仕える使用人の家に生まれた。父は祖父と同じ執事としてお屋敷に勤め、母はメイドの手伝いとして時々お屋敷に通っていた。

俺が生まれたので母はメイドの職を辞して子育てに勤しんでいたらしい。ただ、伯爵夫人が母を気に入っており、夫人の希望もあって通いの仕事を続けていたと聞いた。たまに母にくっついてオールポートのお屋敷に俺も行くことはあったが、基本は騎士団の訓練場で時間を潰すことにしていた。理由は簡単、伯爵令嬢であるルチア様に極力会わないようにしていたからだ。
伯爵夫婦の間には長い間子どもができずに、遅くに生まれたルチア様を溺愛していた。その結果、ルチア様は我儘で手の付けられない小さな猛獣となった。

そんなルチア様にとって、自分より幼い使用人の子どもなど壊していい玩具と認識されてもおかしくない。実際、俺も階段から突き落とされたり、薔薇園に突き飛ばされたり、生傷の絶えない仕打ちを受けた。

主人である伯爵に追従する祖父はルチア様を野放しにするし、父はまだ祖父に逆らうことができないようだった。母が何度か伯爵夫人に苦言を呈していたが、そのうちお屋敷から母にお呼びがかかることがなくなった。そのおかげで俺もお屋敷に行くことがなくなり、結果オーライだったけど。

俺がお屋敷の近くの小さな一軒家で母と穏やかに過ごしているとき、父はとんでもないことになっていたらしい。俺と入れ替わるようにお屋敷に訪れるようになったのは、隣の領地を治める大貴族ハーディング侯爵家の侯爵夫人とその息子だった。そして、お人形のようなキレイな男の子と、悪魔のようなルチア様が婚約するという話が出ていた。

俺はその顔も知らない侯爵子息に同情したよ。俺より年上だけど、かわいそうに……って。当然、婚約の話はハーディング侯爵家からいい返事はもらえなかったと噂で知ったけど。
それでもルチア様が婚約を諦めなかったのは、侯爵夫人がその婚約話に乗り気だったから。むしろ、遠慮する伯爵夫婦をけしかけているようだと父は母に愚痴っていた。

数年後、父は苦しそうな顔で母に離縁を突き付けた。そのときはまだ、父を尊敬していたし好きだったから、俺も泣いて反対したっけ。今ならわかる。あの唐突の離縁のあと、父は祖父に疎まれるようになり、セシル様の結婚、あの忌まわしいルチア様の企みが成されたとき、父は屋敷の牢に監禁されていた。母との離縁は俺たちを守るためだったのだ。

結果、セシル様がオールポート家の犠牲になり、伯爵夫婦も亡くなり、ルチア様が実質伯爵家の実権を握ることになった。その頃には監禁を解かれていた父は、虎視眈々と味方を増やし祖父を屋敷から追放し、屋敷の家政全般の指揮を握ることに成功していた。セシル様が嵌められていたとき王都の屋敷にいたライラさんが領地に戻ってきていたのも父にとっては助けになったみたい。

たぶん……このときにはハリソンさんは騎士団の団長に就任していたと思う。俺と母が父から離縁され、母の実家に帰るときには、まだ幼いメイを抱え騎士として領地の見回りをして不在だったと記憶している。
あれ? ハリソン団長の奥さんって会ったことないな……。もしかして、愛想尽かされて逃げられたのかな?

ハリソン団長がお屋敷を追い出されたのは、例のコーディが執事長になってからだ。騎士団の予算がもったいないって、騎士たちの半数以上がクビになったって聞いた。ハリソンさんの娘のメイは、マリーの下でメイド見習いをしていた。本当は騎士になりたかったらしいけど、ハリソン団長が許さなかったって。
メイ……そこら辺の騎士よりも強いですけどね。

俺は、父がコーディが屋敷に入ってきて、古参の使用人を下働きに落としたりクビにしているのに不安を覚えて呼び戻された。謝罪もなしに「コーディたちの動きを探れ」って命令された。父の態度、頭にきません? 

父と離縁したあとの母は、実家に帰って苦労もしたし肩身の狭い思いもしてきた。なのに、あの野郎は手紙ひとつも寄越さずに、放置だよ? それで久しぶりに会った息子にスパイの真似事をしろって言うんだよ?
あんな奴、父親じゃありませんよ。ちゃっかり、俺の代わりの跡継ぎも見つけてますし。

まぁ、セシル様の従者は退屈しませんから、もう少し付き合ってあげてもいいですけどね。
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