転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~

緒沢利乃

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陰謀編 社交シーズン春②

伯爵、サレルノ訪問、知らない奴発見!

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相変わらずハリソンの姿は見えず。私の管理からは外れていますとつれない態度だったベンジャミンも少々イラついている様子。ジャコモなんてハリソンの分のメシはないと、騎士団に提供する食事を減らしたと聞いた。それが結構な分量で、騎士たちから泣き言が入ってきている。

一日中、まったく不在なわけでもなく、俺の視界の端に映るときもある。しかし、声をかけようとすると消える。レアキャラのような奴になってしまった。体がデカイおっさんなのに……。
俺としても、領地経営に忙しく、それに合わせてそろそろ春の社交シーズンの準備も始めなきゃいけない。不良護衛騎士に構っている余裕はないのだ。

「ということで、今日はサレルノに行ってくる。俺の護衛を適当に用意してくれ」

シャーロットちゃんの今日の予定はライオネルを呼んでの仮縫い。春の社交シーズンは一緒に王都に行き、イライアス様紹介の貴族のお嬢さんたちと交流を深める予定があるから、お茶会用のドレスを仕立ているのだ。
俺の分もライオネルが勝手に作った。イライアス様の監修で。俺……まだ見ていないんだけど。ふ、不安だ。

「……ハリソンは今日も早朝からどこかへ出かけています。護衛には小隊を付けますので」

「一人か二人でもいいけど。そうだな、夏には領地の南、リグーリにも行きたいし、騎士たちの護衛訓練とでもするか」

正直、ゾロゾロついて来られるのは面倒だが、領都クレモナ、西の領地サレルノ、東の領地ヴァゼーレ、南の領地リグーリを巡回する騎士隊を発足させたいし、いっちょ鍛えてやるか。わーははははっ。
今回のサレルノ行は俺とディーン、リヒト。護衛の小隊を護衛に出発です。

そういや、ラスキン博士とは手紙のやり取りも止まっているけど、元気にしているかな? 養い子のエディとは仲良く過ごしているのだろうか? ガタガタと馬車に揺られながら俺はウェントブルック辺境伯領で出会ったエディとラスキン博士に思いを馳せる。

……なぁんか、嫌な予感しかしないんだわ。



























冬の間は雪で、年を迎えてからはウェントブルック辺境伯領に急遽行くことになり、実はかなりお久しぶりのサレルノ。春から夏に向けていろいろと忙しい時期を迎えるはずだ。

ハーディング侯爵領とオールポート領を繋ぐ街道は、人の行き来が復活したため、整備がされ馬車が走りやすくなっている気がした。しかも途中で現れるセシル君のトラウマの元、亡き妻が建てたメルヘンチックな教会は取り壊され、新しく休憩所として素朴な小屋が建てられた。うむ、俺の精神衛生上優しく、ケツに優しい街道になったことに満足である。

サレルノにはぐるりと柵が張り巡らされており、防犯の意味があるのかと疑うその柵の高さは俺の腰辺り。ひょいと簡単にとまではいかないが、跨げてしまう高さなので、この柵の意味はなんじゃろな?
そして、好奇心に満たされた俺は門番とやり取りしているディーンを無視して柵をひょいと……。

バチッ!

「いてーっ!」

ゴロンゴロンと転げまわる俺の周りをリヒトが「キャンキャン」と吠えたてる。イテーッ、足の柔らかいところにバチッと電気がーっ、電気がーっ。

「なにやってんですか、セシル様。この柵は盗賊対策で作られた魔道具です。試運転中だからその微弱な刺激でしたけど、下手すると心臓が止まりますからね」

ディーンの冷たい視線と言葉が胸に痛い。お願い、手を貸してください。足がプルプルルして一人では立てません。うぇぇぇん、痛いよー。お股が痛いよー。

「なんでそんな魔道具がサレルノにあるんだよ。魔道具って高いんだぞ? そこまでハーディング侯爵家から投資されたつーのか? 俺のところに報告がきてないんだけどー」

ディーンに肩を借りながら文句を言いサレルノの門を潜ると、苦笑して俺を見る懐かしい面々。サレルノの代表として逞しくなったロブ。人を使役することに成れ風格が出てきたジェシカ。マシュー夫婦は変わらず柔らかく目じりを下げている。……薬師の婆さんがイヒヒッと笑っているのは見なかったことにしたい。

「あれ? 見慣れない顔がいるな?」

サレルノの産業はこれから大きくなっていくけど、最初は余所者は入れずに少数精鋭で行う。どうせ大量生産なんてすぐには対応できないんだし、グッと数を抑えて販売していくつもりだった。やっぱり、余所者が入るとトラブルも増えるし、この世界では命が軽い。うっかり雇い入れた奴が盗賊団の引き込み役だったなんて目も当てられないよ。だから、ここの住民は必ず俺の「オーラ」審査を受けることとなっている。

そして、俺はこいつと会ったことなんてない! ぎゃああああっ、不審者発見!

「セシル様。なにをアホなことを言っているのか。この人は魔道具職人ですよ。アンタがウェントブルック辺境伯領で勧誘を忘れた……」

見慣れない男の背中からひょっこりと顔を出したラスキン博士に指摘され、俺はムグッと顔を顰めた。

そ……そうだった。パパンに頼まれていた魔道具職人の勧誘。ルイス殿の承諾もあり何人かはヴァゼーレに移住してもらおうと考えていたのに……、すっかり忘れていたんだよおおぉぉぉぉぉっ。
俺は悪くない。悪くないよっ。だって、馬の魔獣が溢れてくるとか、ハリソンの奴が不穏な動きをしているとか、いっぱいいっぱい大変なことがあったんだもん! ルーカスとリヒトと大切な話もあったし……。だから俺は悪くない!

一番、ハラハラドキドキしたシャーロットちゃんの初恋問題は別。あれは別。俺は無罪、シャーロットちゃんも無罪!
無罪なのだああぁぁぁぁぁぁっ!
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