転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~

緒沢利乃

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陰謀編 社交シーズン春②

伯爵、サレルノの現状に満足する

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魔道具職人。

この世界には魔力や魔素という心躍るワードはあるが、魔法は使えない。魔素を体内に取り込んで魔獣となった獣やごく一部の人だけが魔法を行使することができる。当然、前の世界のように「科学」は発展していない。

その代わりの便利道具が魔石をエネルギー源とした魔道具だった。つまり、電気はないけど魔石をエネルギーとして冷蔵庫やヒーターが作られている。その魔道具を作れるのが魔道具職人。

職人と聞くと手先が器用で実直な人物像が浮かぶが、魔道具職人は前の世界でいうところの「数学」「物理」の能力が必要。それが「魔法学」である。……ぶっちゃけ、わけわからん。でも、数学っぽいし、物理っぽい。職人といえど、学者的な側面があるのだ。

で、王都にも高名な魔道具の工房はあるが、トビーたちをスカウトしたときと同じく、王都の工房職人というプライドがあるので、オールポート領に移住なんてしてくれない。ましてやヴァゼーレなんて山奥には。
そこで、魔石鉱山を領地にたくさん所持している、ウェントブルック辺境伯領の魔道具職人をスカウトすることにした。ここでは工房で働いてるけど独り立ちできない職人がうようよいる。師匠の工房を出て自分の工房を持つことを目標として毎日精進しているが、ウェントブルック辺境伯領内では工房が多すぎて飽和状態。しかも無名の職人が王都に行っても客はつかない。かわいそうだが、修行した工房で燻るしかないのだ。

そういう職人を甘い言葉でヴァゼーレに引っ張るつもりだった。パパンがヴァゼーレに魔道具工房をいくつか作りたいって言ってたから。……んで、俺はそのことをスッポリと忘れてお家に帰ってきてしまったと……。やべっ、怒られる案件じゃん!

しかし、養い子のエディが魔獣に襲われ怪我をしたというトラブルに巻き込まれながらも、ラスキン博士はちゃっかり魔道具職人を見つけていた。なんでも、昔愛用していた魔道具を作っていた工房に声をかけたところ、そろそろ独り立ちできる職人を三人も紹介してくれたらしい。しかも、得意な魔道具の種別が違うという満点な人材選別。素晴らしい!

んで、今日ここサレルノにいるのは、そのうちの一人で防御・結界系魔道具が得意なポーくん! 職人としては歴は浅いしまだ弱冠十八歳のピチピチな男の子だが、腕は確からしい。
サレルノの防御として魔道具の柵を考案し、設置したあとの試運転確認に来ていたところ、そこにタイミングよく俺が引っかかったと……。

「少し刺激が弱いのではないか?」

「あ、いいえ。まだ試運転なので弱くしているのです。本来はこの十倍の威力にしようと考えています」

ラスキン博士の要求に答えるポーくんの言葉に恐れ慄く。じゅ、十倍? あのビリリの十倍の威力? 大丈夫? 不法侵入者が死んじゃわない? 柵の周りに心臓が止まった盗賊たちが寝っ転がっていたらイヤなんだけど。

楽しく柵の威力の話を交わすポーくんとラスキン博士を横目に、俺はやや内股になりながらサレルノのシンボル、製糸工場へと足を向けた。





















ひと通りサレルノの視察を終えると、爺さん婆さんが生活する共同住宅兼保育所施設で茶を飲む。

「しかし、セシル様はずいぶんとお痩せになったねぇ」

特製薬草ブレンド茶という薬師の婆さんの怪しい茶を口に含んで俺はうんと頷いた。そりゃ、最強騎士団の訓練メニューに付き合ったら痩せるよ。そのときの訓練でできた筋肉を衰えさせることなく、こっちに帰ってきてからも筋トレは欠かしてないし。
されよりババア。このお茶の効能はなに? なんか苦くて酸っぱいんだけど?

「そんなに顔をくちゃくちゃにするでない。せっかく肉に埋もれていた顔をスッキリとしてきたのに。そのお茶はな美容茶じゃ。お通じがよくなるぞ」

「……下剤じゃねぇか」

おいお~い、領主に一服盛るなよ。これから馬車に揺られて帰るのにもよおしたらどうすんだ? まったくもう。

「んで、婆さん。ここの爺さんたちはどうだ?」

「いやだねぇ。アタシャみたいな美人にここの田舎臭い男は似合わないよ」

照れ笑いをしてそう告げてきたけど、俺が聞きたいのは老人恋愛話ではなく、健康の話! あんた、薬師でしょうが!

「セシル様。多少、持病や腰痛に苦しんでる方はおりますが、皆さん元気ですよ。日中はちびっ子たちと楽しく過ごして若返っているみたいです」

「そうか……。そりゃよかった」

婆さんの代わりに、薬師見習いの子が教えてくれた。婆さんの見習いも増えたらしく、薬草園の手入れもラクになったと笑う。老人やちびっ子が多く、風邪や感染症が心配だったが、冬は無事越せたことが見習いたちの自信になっているそう。

「やっぱ、冬はダメか?」

「体力のない者はそもそも発熱した時点で危ないからね。熱さましの薬草を増やすことにしたよ」

抗生物質などないこの世界。うっかり風邪を引いたり体調を崩したことが原因で命を失うこともある。俺は前の世界で当たり前だった予防措置の説明をし、サレルノの住民に徹底してもらうようにする。

「そんな簡単なことでいいんですか?」

見習いたちはコテンと首を傾げるが、婆さんの顔はキリッと引き締まった。

「あいよ。セシル様の言う通りにするさね。老人や子どもだけじゃなく、大人にも徹底させるよ」

ドンッと胸を叩く婆さんに、俺もニカッと笑って応えた。
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