転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~

緒沢利乃

文字の大きさ
183 / 234
陰謀編 社交シーズン春②

伯爵、クレモナで食いしん坊と再会する

しおりを挟む
謎の美容茶を飲み干し、そろそろ屋敷に帰ろかと立ち上がると、窓からひょっこりとラスキン博士が顔を出した。

「セシル様。ハチミツと刺繍入りのハンカチを持って帰るか?」

ひらひらとラスキン博士の右手に握られた白いハンカチにはかわいい花々が刺繍されていた。しかも、ラスキン博士が魔獣専門と聞いて頼んでいた養蜂も成功していたらしい。ここの蜂は普通のミツバチではない。カイコと同じ魔虫である蜂なので、バカデカイ。そんなデカイ蜂が吸える蜜なんてあるのか? どんなデカイ花なんだよ。ラフレシア級のデカさなのか? と不思議に思っていたが、奴らは体はデカいが吸う花は普通サイズでOKだった。……ちょうど、花が咲く植物もあるし、サレルノの中で魔虫がブンブン飛んでもいいかぁと俺は呑気に考えていた。

もちろん、ダメだった。めちゃ怒られた、俺とラスキン博士。やっぱりね、小さい子がいるからさ、デカイ蜂が飛んでいたら怖いでしょ? だから、カイコがいた茂みの奥に果樹をいくつか植えて、その周りに花を生けて蜂たちのお食事処にしました。果樹はねぇ、蜂が受粉作業を担ってくれるし、蜂蜜とフルーツが採れたらクレモナ商店街のあちこちに売りつけて現金収入にもなるし、結果オーライでした。

いまはラスキン博士の手を離れて、養蜂グループが頑張って蜂と果樹と花の世話をしてくれている。俺が考案したとされる作業着も大好評だ。うむ、前世からのパクリの作業着である。

「ところでラスキン博士。エディはどうした? てっきりサレルノで親子水入らずで過ごしていると思ったのに」

窓越しに会話するのも面倒なので、俺は薬師の婆さんに別れを告げ、サレルノの綿花畑の中ラスキン博士と並んで歩くことにした。

「あいつはヴァゼーレに行きました。あっちで魔獣研究所の立ち上げでヒーヒー言っているでしょう。ヒヒヒ」

「……いいのか? 知らない場所でいきなり魔獣研究所の所長で? ラスキン博士が一緒に行って面倒みてやればいいのに」

ずっと、ヴァゼーレに行きっ放しはサレルノのカイコたちの育成に問題があったときに困るので許可できないけど、研究所が回り出すまでの間ならいいんだぞ? 俺がコテンと首を傾げてラスキン博士を見つめると、博士は大きく笑って肩を竦めてみせた。

「いいんですよ。うるさい老いぼれは口を出さなくて。あいつはあいつなりの研究所を運営していけばいい。一応、それなりに知識のある奴らが研究所には集まっているみたいですしな」

「そいつらもクセが強いのでは? むしろ、そいつらとの関係がこじれたりしないか?」

短い間しか顔を合せなかったが、エディはラスキン博士の養い子らしくクセ強で人の話を聞いちゃいない系の学者ムーブ野郎だった気がする。しまった……そこまでだという認識があったなら常識人の助手でも派遣しておけばよかった……例えばクラークのような社畜精神に溢れていたり、ディーンのように貧乏くじを引いちゃう奴とか。……いたな、ヴァゼーレに貧乏くじを自ら引きに行く奴が。俺は鉱山案内をしてくれた一人の男の顔を思い浮かべた。

よし! ヴァゼーレの魔獣研究所は任せたぞ! 心の中でエールを送り、ガタゴトと馬車に揺られ屋敷へと帰る俺だった。





























翌日。

今度は領都クレモナの視察へ出発。のんびりしていたら春の社交シーズンで王都へ行かなきゃいけないから、白豚は今のうちに働くんです。……もう白豚ネタをぶち込めなくなってきたなぁ……ただのデブだもんなぁ……でも激しいダイエットしてサイズを変えると衣装を縫ったライオネルが激怒するからなぁ。くだらない悩みでしょんぼりしていたらクレモナ商店街に着きました。まだ王都へ行く貴族たちも通らないので、地元民でそこそこ賑わっています。しかも、ラグジュアリーホテル目当てで王都からの来訪者も増え、俺としてはウハウハだ。

「セシル様。お待ちしておりましたわ」

領都クレモナ商店街責任者、クラークの秘書ケイシーちゃん。この子、トビーの店とヘクターの店はもちろん、商店街のスイーツ系の店の商品を試食として食べまくっていると聞いているが、体形が変わってない。スレンダーなまま。すごいな? さては、隠れてめちゃくちゃ運動してるな?

「あ、これ。サレルノで採れたハチミツのサンプル。採れる量が限られているから、販売はしない。領都クレモナで消費しようと考えている」

そう、サレルノのハチミツのパンケーキとか食べたかったらクレモナにお越しなさい、オーホホホホッ作戦である。ヘクターに頼んでハチミツを練りこんだパンとかもいいし、リタがハチミツを活かしたドリンクを作れば、お店でお茶会を開くお嬢さんたちで大盛況だ。ふふふ、商機が見えた! 当然ケイシーちゃんも食いつく。商売の意味でも、自身の食いしん坊レーダーにも。

「悪いけど、ハチミツに関してはケイシーちゃんに一任するよ。俺は春の社交シーズンが終わったら、南の領地リグーリの視察に行きたいんだ」

「リグーリですか? あちらは特に問題はありませんし、農作物も順調だと報告はありましたが?」

ケイシーちゃんが両手でしっかりとハチミツの瓶を抱えたまま、パチパチと不思議そうに瞬きをする。俺はふうっと息を吐き、リグーリに行く理由を話すのだった。

「西のサレルノ、東のヴァゼーレ、北は王都。俺が動き出して足を踏み入れていないのはリグーリだけ。そんなの同じ領民なのに面白くないだろう? 領民感情もそうだけど、そろそろ役所と巡回騎士たちの詰所が完成する頃だし、ちょっと試してみたいこともあるんだよ」

今まで手付かずだったリグーリの地。でも、ここの農作物は相変わらずオールポート伯爵家の生命線だ。いざというときに備えておかないとね!
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

処理中です...