転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~

緒沢利乃

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陰謀編 領地経営④

手紙の行方 1

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その日、王都から馬車で半日程度離れているオールポート伯爵領の果てに位置する南リグーリの麦畑から、一斉に重要案件が書かれた密書が放たれた。密書を持って散らばったのは、オールポート伯爵家の騎士ではなく、その隣の領地ハーディング侯爵家の騎士たちだった。

ハーディング侯爵家に、主人が不在のオールポート伯爵家に、ヴァゼーレに滞在しているハーディング前侯爵に、サレルノの顔役ラスキン博士へ。主人の従者であるディーンの強い要望により、オールポート伯爵家の王都屋敷を守る執事にまで、その密書は届けられた。

密書を受け取った者たちは驚愕し、直ちに行動を開始する。その中で、ただ一人、オールポート伯爵王都屋敷の執事、ヴァスコだけは、密書の内容に目を見張り、ふむとひと呼吸分思考したあと、何通もの手紙を書きだした。



















ハーディング侯爵家の騎士から至急と告げられ一通の手紙を預かった。オールポート伯爵家の執事長である自分と古参の使用人でメイド長のライラと顔を突き合わせ手紙に目を通した。

「セ……セシル様が攫われた」

「ベン、それだけじゃない。攫った奴の中にオールポート家の騎士がいるかもって……」

息子でありセシル様の従者であるディーンからの手紙に動揺したまま、私は騎士たちの確認に走った。オールポート家の騎士は王都屋敷の護衛とサレルノの巡回。レナード率いるヴァゼーレの護衛。そして本来なら騎士団長であるハリソンと精鋭の騎士たちがセシル様の護衛につく。

確認した結果、オールポート屋敷とサレルノ巡回の騎士たちは全員揃っていた。王都屋敷の担当もヴァゼーレの担当も消えた騎士はいないだろう。そんな気がする。唯一、所在の確認が取れなかったのが……ハリソンだった。

「あいつ……」

「ディーンの手紙には、犯人の黒幕はプレイステッド家だってあったけど」

ライラの右手にぐしゃりと握りつぶされている手紙には、プレイステッド家が絡んでいるのに違いないというディーンの私見が書かれていた。プレイステッド家という縁もゆかりもない高位貴族がなぜオールポート伯爵に手を出したのか、ベンジャミンとライラは自分たちの手に余る状況にため息ばかりが出てしまう。

「とにかく、お嬢様の耳には入れないようにしましょう。マリーやメイにも」

「本来ならお嬢様に報告しなければならんが……ハリソンが関わっているならばメイには隠し通さないと」

ハリソンの娘の心痛を慮ってではない。もし、シャーロット様を傷つける愚行を父親がしていた場合、メイは無情にも父親に斬りかかるだろう。二人はそれを危惧していた。

「……ベン。あんた、またオールポート家のことを考えていただろう? もしセシル様に何かあったらどうするかって」

付き合いの長いライラの見たこともない厳しい表情に、ベンジャミンはむぐっと口を結ぶ。

「いいかい、わたしたちは一度間違えた。二度目はないよ。セシル様のことを見放したら、わたしたちが見放される。お嬢様は悲しむし、ハーディング侯爵家が黙っていない。それよりもなによりも、あんなに尽力してくれたセシル様の無事を祈れないなんて、ベン……あんた、ヒドイ人だよ」

「ライラ……。すまない。わかってはいるが……私は家のために、家を存続させるためだけにいるのだ。セシル様の無事よりも、もしもの時を考えてしまうのだ……」

主のいない執務室で、古参の二人はただ黙って、誰も座っていない椅子を見つめた。





















「なぁーにぃー、セシル様が攫われただとおぉぉぉぉぉっ」

バリッとディーンの書いた手紙を真ん中から真っ二つに破ってラスキン博士は吠えた。ビクンッと魔道具職人ポーの肩が上がる。

「こうしちゃいられん。しかし……ワシが駆け付けたところで何もできん。……ふむ、では誘拐に役立つ道具を作ろう」

ラスキン博士はニヤリと悪い顔で笑うと、隣にいるポーの腕を逃げられないように掴んだ。

「ひぃっ」

「なぁに、遠慮するな。魔石はハーディングの爺さんからたんまりと預かっておる。まずは爺と豚にでも扱える武器と、投擲用の武器、捕縛用の便利道具を作ってもらおうか」

長閑なサレルノに、魔道具職人の悲鳴が響き渡った。























ガタンと普段は穏やかなパートナーのただならない行動に、イライアスはパートナーが持っていた手紙を奪い目を通した。

「そんな……セシルが? しかもプレイステッド家がなぜ……」

「プレイステッド家は、セシルがウェントブルック辺境伯領を訪れていたときも、何か企んでいたと聞いた」

ハーディング侯爵はセシルの兄であり、彼は幼いときから弟を溺愛していた。その弟が婚姻で過酷な立場となり、自分たちハーディング家の者と連絡を絶っていたとき、どれだけ心苦しかったことか……。ようやく、やや問題はあるといえど、前と変わらない交流を持ち始めたのに、誘拐だと?

「ハーディング侯爵騎士団を動かす。いざとなればプレイステッド家と全面対決も辞さない」

「ダメだよ。証拠もなしに騎士団を差し向けたら、こっちの分が悪い。まずはセシルの行方。それとプレイステッド家に探りをいれよう」

正しいがまどろっこしいやり方に口を尖らせたハーディング侯爵に、パートナーであるイライアスは悪魔の微笑みで言い切る。

「僕たちの家族に手を出したんだもの。死んだほうがマシだと思うような目に遭わせてあげる」





















そして、一日遅れて早馬を飛ばした騎士がヴァゼーレに到着する。

「なんじゃ、セシルの従者からだと?」

手紙を開きふむふむと読み進めるハーディング前侯爵の顔が鬼のように険しくなっていくのを、使用人たちは慄いて見ていた。

「誰か、レナードを呼んでこい!」

ダンッと手紙をテーブルに叩きつけると、ヴァゼーレに新しくできたオールポート騎士団の隊長、レナードを呼び出した。

「どしたん、爺さん」

「これじゃ。悪いがお前さんたち、付き合ってもらうぞ。プレイステッド辺境伯領には不慣れなもんでな」

ズイッと突き出された手紙を読むレナードは、ククッと楽しそうに口の端を上げた。

「いいぜ、爺さん。プレイステッドなら裏の裏まで知ってらぁ。、悪いことをする奴らもな!」

それぞれがセシルを探し出そうとする動きの中、王都屋敷は少し違うようで……。
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