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陰謀編 プレイステッド領
人質、家族愛を思う
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ふと、思う。
前世の俺ってば、家族に恵まれてたんだなぁって。姉と妹に挟まれてかなり理不尽な目には遭ってきたが、それでも家族仲は良かったと思う。父も母も子煩悩なタイプで、俺は愛されていたと確信できる。しかも、両親は俺や姉妹だけでなく、その周りにも暖かい気持ちを振りまく人だった。理人も俺の母の料理や父の親父ギャグに救われた奴だ。理人は芸能人か、と思うほどキラキラしい奴だったが、珍しく姉も妹も獲物として狙ったりしなかった。俺の友人として、いやもう一人の家族として接していたようだった。
理人の家族は、さすが金持ちとうんざりするほどドライな関係だった。仕事でほとんど顔を合わすことのない父親に、プライドの高い母親、ライバル視してくる兄。こんな家族の中では、ちょっとでも失敗すればすぐに見捨てられるし、能力が高ければもっともっとと酷使される。心休まるときがないよ。実際、理人は俺と知り合ってから、ピクリとも動かなかった表情筋が仕事をするようになったしね。
ここ異世界でも家族のあり方つーのは変わらないもので。セシル君の毒親である母親も、政略結婚した父上の容姿が気に入らないと、侯爵夫人としてはあり得ない振る舞いをしたあげく、自分で産んだ嫡男である兄上が父上似だというだけの理由で育児放棄。自分とそっくりに生まれたセシル君を溺愛。侯爵家を継げないセシル君のために用意した伯爵家の令嬢はストーカー気質の自己中女。……ママン、終わってるよ……。
ルーカスもウェントブルック辺境伯なんて名家に生まれたのに、婿養子の父さんのコンプレックスが爆発して、ルーカスに本来は必要のない継承の魔道具を使用させ、下手したら辺境伯の地位を簒奪しようと企んでいたせいで、不遇な少年時代を送るハメになった。ファンキーな父ちゃんである。おかげでルーカスは兄であるルイス殿との仲は良好ではあるが、ウェントブルック辺境伯領の平和のため、故郷を出て王都で騎士をやっている。
「……ラファエルの奴にも何かあるのかな?」
禍々しい「気」を持ち、艶やかな美貌を持つ男。なぜか俺を攫い、俺の命を人質にしてルーカスにウェントブルック辺境伯を継がせようと画策している、奴の本当の狙いはなんだろう?
助けが来るのを待つ間、俺はラファエルの狙いについて考えてみることにした。……暇つぶしの冒険小説を読んでしまったからではない。このシリーズ面白かったなぁ。続きはいつ出るのかなぁ……。
プレイステッド辺境伯屋敷の応接室に王族である第二王子と同じく辺境伯の地位にあるウェントブルック辺境伯家の弟を待たせ、執務室ではプレイステッド辺境伯と次期プレイステッド辺境伯の二人が沈痛な表情で肩を落としていた。
「やはり、ウェントブルック辺境伯から抗議文が届いたときに、あの子を幽閉しておくべきでした」
「……あ奴の仕業だという証拠がなかった」
苦しい言い訳だと自分でもわかっていた。自分の母であるプレイステッド辺境伯家の膿に、人生とその性根を狂わされた息子が不憫だった。孫を犠牲にプレイステッド辺境伯領を守った父に対して強く出れなかった若いころの自分にも腹が立つ。今、自分がプレイステッド辺境伯としていられるのは、息子が犠牲になったからであり、その息子によって立場が危うくなるのも、仕方のないことではないかと……。
「父上。ことはプレイステッド辺境伯家だけの問題ではなくなっています。まさかウェントブルック辺境伯に喧嘩を売るとは思いませんでしたが、今回のことはもっと悪い」
ダンッとテーブルに手を叩きつけた次期プレイステッド辺境伯、ラファエルの兄ミカエルは鬼の形相で一枚の報告書を睨みつけている。この報告書はラファエルに付けた監視役からの報告書であり、虚偽の内容が書き連ねてあった。何が「問題なし」だ、こちらの付けた監視役はとっくにラファエルに誑かされ、こちらを裏切っていたのだ。
「慌てて、ラファエルの身辺を調べなおしたらとんでもないことが起きていた! 勝手に王都の社交に顔を出していたのも驚きましたが……まさか、オールポート伯爵を攫ってきたなんて……。彼はただの伯爵家当主ではありません! あの、あのハーディング侯爵家の出身です!」
「……わかっている」
はあっと息を吐き出せば、向かい合うミカエルからも深いため息が漏れる。むしろ、今回の訪問でハーディング侯爵家の者がいなかったのは僥倖であった。たかが、侯爵家と侮ってはいけない。先代と今代のハーディング侯爵は切れ者で、経済と武力はとび抜けて優れている。唯一、社交が弱かったが、ハーディング侯爵のパートナーは王族も贔屓にするデザイナーであり、広い交友関係を持つ人物で、この者を一族に加えたことでハーディング侯爵家には死角がなくなったとも言われている。王家ですらも扱いに神経を使う名家に……なんてことを……。
「ハーディング侯爵は弟であるオールポート伯爵を溺愛しているという噂もありますし、今回ウェントブルック辺境伯の代理で来られたルーカス・ウェントブルックは学生時代オールポート伯爵とは恋人関係だったという……。これはもう、プレイステッド家は終わりなのでは?」
「言うなっ!」
コーンウォール王家を支える両翼として存在した二つの辺境伯家。それが、母のくだらない野望で崩されてたまるものか。そう……私はこのとき、息子を犠牲にする覚悟を決めたのだった。
前世の俺ってば、家族に恵まれてたんだなぁって。姉と妹に挟まれてかなり理不尽な目には遭ってきたが、それでも家族仲は良かったと思う。父も母も子煩悩なタイプで、俺は愛されていたと確信できる。しかも、両親は俺や姉妹だけでなく、その周りにも暖かい気持ちを振りまく人だった。理人も俺の母の料理や父の親父ギャグに救われた奴だ。理人は芸能人か、と思うほどキラキラしい奴だったが、珍しく姉も妹も獲物として狙ったりしなかった。俺の友人として、いやもう一人の家族として接していたようだった。
理人の家族は、さすが金持ちとうんざりするほどドライな関係だった。仕事でほとんど顔を合わすことのない父親に、プライドの高い母親、ライバル視してくる兄。こんな家族の中では、ちょっとでも失敗すればすぐに見捨てられるし、能力が高ければもっともっとと酷使される。心休まるときがないよ。実際、理人は俺と知り合ってから、ピクリとも動かなかった表情筋が仕事をするようになったしね。
ここ異世界でも家族のあり方つーのは変わらないもので。セシル君の毒親である母親も、政略結婚した父上の容姿が気に入らないと、侯爵夫人としてはあり得ない振る舞いをしたあげく、自分で産んだ嫡男である兄上が父上似だというだけの理由で育児放棄。自分とそっくりに生まれたセシル君を溺愛。侯爵家を継げないセシル君のために用意した伯爵家の令嬢はストーカー気質の自己中女。……ママン、終わってるよ……。
ルーカスもウェントブルック辺境伯なんて名家に生まれたのに、婿養子の父さんのコンプレックスが爆発して、ルーカスに本来は必要のない継承の魔道具を使用させ、下手したら辺境伯の地位を簒奪しようと企んでいたせいで、不遇な少年時代を送るハメになった。ファンキーな父ちゃんである。おかげでルーカスは兄であるルイス殿との仲は良好ではあるが、ウェントブルック辺境伯領の平和のため、故郷を出て王都で騎士をやっている。
「……ラファエルの奴にも何かあるのかな?」
禍々しい「気」を持ち、艶やかな美貌を持つ男。なぜか俺を攫い、俺の命を人質にしてルーカスにウェントブルック辺境伯を継がせようと画策している、奴の本当の狙いはなんだろう?
助けが来るのを待つ間、俺はラファエルの狙いについて考えてみることにした。……暇つぶしの冒険小説を読んでしまったからではない。このシリーズ面白かったなぁ。続きはいつ出るのかなぁ……。
プレイステッド辺境伯屋敷の応接室に王族である第二王子と同じく辺境伯の地位にあるウェントブルック辺境伯家の弟を待たせ、執務室ではプレイステッド辺境伯と次期プレイステッド辺境伯の二人が沈痛な表情で肩を落としていた。
「やはり、ウェントブルック辺境伯から抗議文が届いたときに、あの子を幽閉しておくべきでした」
「……あ奴の仕業だという証拠がなかった」
苦しい言い訳だと自分でもわかっていた。自分の母であるプレイステッド辺境伯家の膿に、人生とその性根を狂わされた息子が不憫だった。孫を犠牲にプレイステッド辺境伯領を守った父に対して強く出れなかった若いころの自分にも腹が立つ。今、自分がプレイステッド辺境伯としていられるのは、息子が犠牲になったからであり、その息子によって立場が危うくなるのも、仕方のないことではないかと……。
「父上。ことはプレイステッド辺境伯家だけの問題ではなくなっています。まさかウェントブルック辺境伯に喧嘩を売るとは思いませんでしたが、今回のことはもっと悪い」
ダンッとテーブルに手を叩きつけた次期プレイステッド辺境伯、ラファエルの兄ミカエルは鬼の形相で一枚の報告書を睨みつけている。この報告書はラファエルに付けた監視役からの報告書であり、虚偽の内容が書き連ねてあった。何が「問題なし」だ、こちらの付けた監視役はとっくにラファエルに誑かされ、こちらを裏切っていたのだ。
「慌てて、ラファエルの身辺を調べなおしたらとんでもないことが起きていた! 勝手に王都の社交に顔を出していたのも驚きましたが……まさか、オールポート伯爵を攫ってきたなんて……。彼はただの伯爵家当主ではありません! あの、あのハーディング侯爵家の出身です!」
「……わかっている」
はあっと息を吐き出せば、向かい合うミカエルからも深いため息が漏れる。むしろ、今回の訪問でハーディング侯爵家の者がいなかったのは僥倖であった。たかが、侯爵家と侮ってはいけない。先代と今代のハーディング侯爵は切れ者で、経済と武力はとび抜けて優れている。唯一、社交が弱かったが、ハーディング侯爵のパートナーは王族も贔屓にするデザイナーであり、広い交友関係を持つ人物で、この者を一族に加えたことでハーディング侯爵家には死角がなくなったとも言われている。王家ですらも扱いに神経を使う名家に……なんてことを……。
「ハーディング侯爵は弟であるオールポート伯爵を溺愛しているという噂もありますし、今回ウェントブルック辺境伯の代理で来られたルーカス・ウェントブルックは学生時代オールポート伯爵とは恋人関係だったという……。これはもう、プレイステッド家は終わりなのでは?」
「言うなっ!」
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