転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~

緒沢利乃

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陰謀編 プレイステッド領

人質、助けが現る?

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下働きくんが今日も密偵だとバレない完璧な擬態でベッドメイキングを終え、ペコペコと頭を下げて退出しようとしたとき、扉がバンッと乱暴に開けられてぬうっとデカイ体の騎士が入ってきた。ギョッと下働きくんが目を見開き部屋の隅に移動してブルブルと震えている。何も知らなかったら、下働きくんが騎士にビビッて行動不能になっていると同情するところだが、彼が密偵だと知っている俺が見れば、いざとなったときこちらの護衛も兼ねて、敢えて部屋に残っていると思う。なんて頼りになるんだ、下働きくん!

俺の護衛なら、リヒトがいるので間に合っているのだが、その心意気が嬉しい! どっかの伯爵家の騎士団長に教えてやりたいぜ。ああ、そうとも、護衛対象に首チョップかまして誘拐したどこぞの騎士団長になっ!

「おや、元気そうじゃないか」

ぬっと部屋に入ってきたムサイ騎士は、俺の顔を見てニッカリと笑った。その顔は……レ、レナード? お前、こんなところで何やってんの?

ヴァゼーレを守る兵士として元傭兵の鉱山夫から、オールポート伯爵家のお抱えとなったレナードとその一味。魔石鉱山の町として建築ラッシュ中のヴァゼーレで治安維持に務めているはずのお前が、遠く離れたプレイステッド辺境伯領にいるなんて! 驚きにパチパチと瞬きする俺の様子に笑顔を向けつつ、レナードは下働きくんにギロリと鋭い視線を向ける。あ、ヤバい。

「レ、レナード。その恰好はどうした? まさか、ウチの給金が不服で転職したんじゃないだろうな?」

レナードはオールポート伯爵家の紋章が入った鎧ではなく、ややボロッちい鎧を身につけていた。

「ん? これは潜入って奴だ。支給された鎧はボロボロだが、剣は愛用品のままだから安心しなっ」

あーあーあー、安心できないよーっ。狭い部屋の中で剣を抜くな―っ。その剣先を下働きくんに向けるなーっ。俺はスプラッターは苦手なんだよおおぉぉぉっ。

「待て待て、待て。あの子はいいんだ。ほら、君も早く持ち場に戻りなさい。このことは内緒で」

レナードのぶっとい腕にしがみ付き下働きくんを部屋から逃がす。彼も素早い動きで部屋を出て行ったが、レナードに挑戦的な目で睨むことは忘れなかった。

「なんだ、あいつ」

「いいから、扉を閉めて……あれ?」

扉前には、いつも監視役でゴロツキ騎士たちがいるのだが、今日の監視の顔は……あ、こいつレナードの部下じゃん。俺の輿を担いでいた奴だよ。そいつも、俺の顔を見て、「よっ」と右手を上げている。いやいや、俺はお前の雇い主なんだが……敬うって言葉は知っている? 複雑な気持ちで視線を下に落とすと、モゴモゴと猿轡を噛まされ全身グルグル巻きにされたゴロツキ騎士が転がっていた。これは、いったい?

「ああ、こいつは後で捨てておきますんで。これからは旦那の護衛は俺たちが交代で付きますよ」

ニシシと悪童みたいに笑ったレナードの部下は、縛られ転がしているゴロツキ騎士の横っ腹をゲシッと蹴り飛ばした。う、う~む、いいのだろうか? 悩む俺を無視してレナードはパタンと扉を閉めてしまった。

「さて、セシルの旦那。なんで、こんな面白いことになってんです?」

それは、こっちが聞きたいわ!






















「はあああっ。ハーディングのご隠居がギャーギャー騒いでいると思ったら、セシルの旦那が誘拐されたっていうし。そりゃ大変だってんで、手下どもと助けにきたけど、ルーカスって奴が殺気飛ばしてて怖ぇし、王子も一緒で居心地が最悪で、俺らはここに潜入する任務を請け負うことにしたんですよ。しかし……まさかセシルの旦那を誘拐したのがハリソンだったとはねぇ」

レナードは床に胡坐をかいて座り、ガシガシと乱暴に自分の頭を掻く。その表情は冴えず、旧友の裏切りに心を痛めているのかもしれない。

「ハリソンのことはいい、俺もここに来てからは一度も顔を合わせていないしな」

裏切った主人の前に出せる顔があれば出してみろ! フンフンッと鼻息荒くハリソンへの悪態を吐いていたが、レナードは呆れた顔で俺を見ている。

「会わないでしょうなぁ。王都にいるルーカスに、ここの悪玉からの手紙を運んだのはハリソンだって話ですから」

「……マジか?」

ハリソンの奴がプレイステッド辺境伯領にいなかっただと? くっそ、あいつぅ。俺をこんなところに閉じ込めておいて、自分は王都で羽を伸ばしているなんて、ヒドイ! ヒドイぞ、極悪人め~っ。

「まぁ、セシルの旦那が元気そうでよかったですよ。ご隠居にいい報告ができますわ。んじゃ、セシルの旦那の周りは俺の部下で固めておきますが、大人しくしててくださいよ」

「なに? お前まで俺に動くなっと言いたいのか!」

「当たり前でしょ」

アホな子を見る目で見るな! お前が来たならそのまま連れ出してくれてもいいだろう? 虜囚ごっこも飽きちゃったんだよ。俺も何かしたい。何かしーたーい!

「とにかく、数日中にはルーカスと王子で動きますから、それまではここにいてください。じゃないと俺がご隠居に怒られるんですから」

ちぇっ。レナード、お前の雇い主は俺だぞ。このオールポート伯爵様なんだぞ。たぶん、お前の給金のほとんどはハーディング侯爵家の金だと思うが……。うええ~ん、俺も誘拐救出大作戦に関わりたいよーっ。
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