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陰謀編 プレイステッド領
プレイステッド辺境伯騎士団の働き
空き巣のように抜き足差し足で、屋敷のボロッちい階段を下りていくセシルたちの耳には届かないが、屋敷の玄関ホールでは騎士団長と老執事との激しいやり取りが繰り広げられていた。
「ここを通せ。何度も言わせるな! それとも剣を抜いてほしいのかっ」
「なにを仰る! ここはお嬢様のお屋敷です。例えプレイステッド辺境伯騎士団の団長であろうとも、主の許しなくお通しすることはできませぬ」
細い鳥ガラのような体で、雄々しい騎士団長たちを押しとどめる執事は、今は亡き前辺境伯夫人をお嬢様と呼び、ラファエルを主と称した。亡き主人の命を守る姿勢には感嘆するが、騎士団長は呆気なく執事の肩をドンと突き飛ばし、屋敷の中へと足を進める。
「フンッ。ここはプレイステッド辺境伯家の屋敷。ならば、主はプレイステッド辺境伯様だ。そして、お前は前辺境伯夫人の使用人ではあるが、プレイステッド辺境伯の使用人ではない。ラファエル様が個人で雇用したにすぎぬ。ならば、この屋敷での権限などお前にはこれっぽちもありはせん!」
突き飛ばされて尻もちをついた老執事に冷たい一瞥をくれてやると、騎士団長は部下に指示をし屋敷やその周りにへと散らばっていった。
その場に残った騎士団長は、騎士たちに追い払われ逃げ出してきた屋敷の使用人たちを目で追いつつ、隣に立つ小隊長に頷いてみせた。小隊長は逃げ出してきた使用人一人一人を捕まえ縛り上げていく。
「な、なにをなさるのです」
仲間が騎士団に拘束されていく様を見た老執事は慌てて立ち上がり、騎士団長に食ってかかった。しかし、ペイッと軽く払われ再びペタンと床に座り込んでしまう。
「プレイステッド辺境伯様が知らないと思っているのか? そこまで主君をバカにしているのか? ラファエル様たちがオールポート伯爵を誘拐し、この屋敷にて監禁していることを! 既にプレイステッド辺境伯領には王国騎士団を率いて第二王子殿下とルーカス副団長が来ているのだぞ!」
ダンッと強く足を踏み鳴らすと、老執事は「ひいっ」と短く悲鳴をあげて体を縮こませた。
「なぜ、ラファエル様をお止めしなかった。このままではプレイステッド辺境伯家は王家やウェントブルック辺境伯家だけでなく、オールポート伯爵家やハーディング侯爵家からも敵視される。そうなれば、王家とて庇いきれずプレイステッド辺境伯家は滅びるのみ。……いいや、きっと分家の誰かが当主となり、名前を改めて辺境伯家は続くだろう。そこまでだったのか?」
「な……なにが?」
「そこまで、前辺境伯夫人はプレイステッド辺境伯家を恨んでいたのか? 家を破滅させるほどお恨みだったのか? 孫であるラファエル様の未来を閉じ、ミカエル様の名に傷を付けただけでは飽き足らず、家そのものさえも……」
騎士団長の鬼気迫る表情に怯えた老執事は、ただ首を横に振るだけで言葉を発することはできなかった。前辺境伯夫人の婚姻とともにプレイステッド辺境伯家へとやってきた老執事は、まわりの者たちと馴染めず、ただお嬢様に従い共に雇われた者たちと固まって狭い世界を創り生きてきた。今はもう、残されたラファエル様の命に殉じるのみ。なのに……このように恐ろしい目に遭うなどと。老執事は知らなかった。考えなかった。知ろうとしなかった。自分が主人と崇めた前辺境伯夫人が主張した継承の魔道具に認められたラファエル様の辺境伯位を信じ、行動しただけだった。まさかまさか、王家までが首を突っ込み、自分の首に剣先を向けられるなど思ってもいなかった。
自分の人生を捧げたお嬢様が望んだ、ラファエル様の辺境伯継承は、ただラファエル様が望めば簡単に事がなせると思っていたのだ。
「ひぃぃぃっ。こ、殺さないでくれぇぇ」
両腕で頭を庇い、小さく小さく体を縮める。残り少ない命でも、剣で斬られ罪人として死ぬのは嫌だった。
「ちぃっ、死にたくなかったら案内しろ。セシル・オールポート伯爵はどこに閉じ込めている!」
ドガッと執事の背中を蹴飛ばした騎士団長は、老執事の案内でセシル・オールポート伯爵が監禁されていた部屋へと移動する。だが……その部屋にオールポート伯爵の姿はなかった。
馬車に乗り、プレイステッド辺境伯領の高級店へ足を運んでいたラファエルは、プレイステッド辺境伯の騎士団の騎馬が隊列を組んで移動するのを視界に入れる。騎士たちが騎馬で移動するのは珍しくもない日常だ。商人の馬車が襲われ盗賊でも捕らえに行くのか、それとも山中での訓練があるのか。いつもなら気にも留めない景色に、ラファエルは眉を顰めた。
「馬車を停めろ」
御者席に向かい声を上げると、暫し目を瞑って思考の海に潜る。なぜか嫌な予感がする。モヤモヤと胸に広がる不安に、ラファエルは屋敷に戻ることにした。御者に指示を出し、警戒するように馬車の窓に視線を向け続ける。
「なぜ、騎士団がこの道を?」
怪訝に思うのは一瞬で、あり得ない予想にラファエルは舌打ちをする。そう……あのプレイステッド辺境伯の騎士団は自分の屋敷へと向かっている。父か兄からの遣いならば、隊列を組むほどの人数で押しかけてくることはない。
「私を捕らえにきたのか……」
それは身内による酷い裏切り行為に思えた、無意識に爪を噛んでいたラファエルは、御者に屋敷に向かう馬車をあるところへ進めるよう指示を変えた。
「いずれ、私が辺境伯となったら父も兄も不要だ。あの騎士団も一度解体し、私に従順な者を集めなければ」
既に足元まで崩壊しつつある野望にも気づかず、ラファエルは明るい未来だけを見つめていた。
「ここを通せ。何度も言わせるな! それとも剣を抜いてほしいのかっ」
「なにを仰る! ここはお嬢様のお屋敷です。例えプレイステッド辺境伯騎士団の団長であろうとも、主の許しなくお通しすることはできませぬ」
細い鳥ガラのような体で、雄々しい騎士団長たちを押しとどめる執事は、今は亡き前辺境伯夫人をお嬢様と呼び、ラファエルを主と称した。亡き主人の命を守る姿勢には感嘆するが、騎士団長は呆気なく執事の肩をドンと突き飛ばし、屋敷の中へと足を進める。
「フンッ。ここはプレイステッド辺境伯家の屋敷。ならば、主はプレイステッド辺境伯様だ。そして、お前は前辺境伯夫人の使用人ではあるが、プレイステッド辺境伯の使用人ではない。ラファエル様が個人で雇用したにすぎぬ。ならば、この屋敷での権限などお前にはこれっぽちもありはせん!」
突き飛ばされて尻もちをついた老執事に冷たい一瞥をくれてやると、騎士団長は部下に指示をし屋敷やその周りにへと散らばっていった。
その場に残った騎士団長は、騎士たちに追い払われ逃げ出してきた屋敷の使用人たちを目で追いつつ、隣に立つ小隊長に頷いてみせた。小隊長は逃げ出してきた使用人一人一人を捕まえ縛り上げていく。
「な、なにをなさるのです」
仲間が騎士団に拘束されていく様を見た老執事は慌てて立ち上がり、騎士団長に食ってかかった。しかし、ペイッと軽く払われ再びペタンと床に座り込んでしまう。
「プレイステッド辺境伯様が知らないと思っているのか? そこまで主君をバカにしているのか? ラファエル様たちがオールポート伯爵を誘拐し、この屋敷にて監禁していることを! 既にプレイステッド辺境伯領には王国騎士団を率いて第二王子殿下とルーカス副団長が来ているのだぞ!」
ダンッと強く足を踏み鳴らすと、老執事は「ひいっ」と短く悲鳴をあげて体を縮こませた。
「なぜ、ラファエル様をお止めしなかった。このままではプレイステッド辺境伯家は王家やウェントブルック辺境伯家だけでなく、オールポート伯爵家やハーディング侯爵家からも敵視される。そうなれば、王家とて庇いきれずプレイステッド辺境伯家は滅びるのみ。……いいや、きっと分家の誰かが当主となり、名前を改めて辺境伯家は続くだろう。そこまでだったのか?」
「な……なにが?」
「そこまで、前辺境伯夫人はプレイステッド辺境伯家を恨んでいたのか? 家を破滅させるほどお恨みだったのか? 孫であるラファエル様の未来を閉じ、ミカエル様の名に傷を付けただけでは飽き足らず、家そのものさえも……」
騎士団長の鬼気迫る表情に怯えた老執事は、ただ首を横に振るだけで言葉を発することはできなかった。前辺境伯夫人の婚姻とともにプレイステッド辺境伯家へとやってきた老執事は、まわりの者たちと馴染めず、ただお嬢様に従い共に雇われた者たちと固まって狭い世界を創り生きてきた。今はもう、残されたラファエル様の命に殉じるのみ。なのに……このように恐ろしい目に遭うなどと。老執事は知らなかった。考えなかった。知ろうとしなかった。自分が主人と崇めた前辺境伯夫人が主張した継承の魔道具に認められたラファエル様の辺境伯位を信じ、行動しただけだった。まさかまさか、王家までが首を突っ込み、自分の首に剣先を向けられるなど思ってもいなかった。
自分の人生を捧げたお嬢様が望んだ、ラファエル様の辺境伯継承は、ただラファエル様が望めば簡単に事がなせると思っていたのだ。
「ひぃぃぃっ。こ、殺さないでくれぇぇ」
両腕で頭を庇い、小さく小さく体を縮める。残り少ない命でも、剣で斬られ罪人として死ぬのは嫌だった。
「ちぃっ、死にたくなかったら案内しろ。セシル・オールポート伯爵はどこに閉じ込めている!」
ドガッと執事の背中を蹴飛ばした騎士団長は、老執事の案内でセシル・オールポート伯爵が監禁されていた部屋へと移動する。だが……その部屋にオールポート伯爵の姿はなかった。
馬車に乗り、プレイステッド辺境伯領の高級店へ足を運んでいたラファエルは、プレイステッド辺境伯の騎士団の騎馬が隊列を組んで移動するのを視界に入れる。騎士たちが騎馬で移動するのは珍しくもない日常だ。商人の馬車が襲われ盗賊でも捕らえに行くのか、それとも山中での訓練があるのか。いつもなら気にも留めない景色に、ラファエルは眉を顰めた。
「馬車を停めろ」
御者席に向かい声を上げると、暫し目を瞑って思考の海に潜る。なぜか嫌な予感がする。モヤモヤと胸に広がる不安に、ラファエルは屋敷に戻ることにした。御者に指示を出し、警戒するように馬車の窓に視線を向け続ける。
「なぜ、騎士団がこの道を?」
怪訝に思うのは一瞬で、あり得ない予想にラファエルは舌打ちをする。そう……あのプレイステッド辺境伯の騎士団は自分の屋敷へと向かっている。父か兄からの遣いならば、隊列を組むほどの人数で押しかけてくることはない。
「私を捕らえにきたのか……」
それは身内による酷い裏切り行為に思えた、無意識に爪を噛んでいたラファエルは、御者に屋敷に向かう馬車をあるところへ進めるよう指示を変えた。
「いずれ、私が辺境伯となったら父も兄も不要だ。あの騎士団も一度解体し、私に従順な者を集めなければ」
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