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恋愛編② ウェントブルック領
セシル、元カレの兄とご対面
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城だった……。ウェントブルック領の領都バルレッタ、その中央に堂々と建つウェントブルック辺境伯の屋敷は……城だった。
いや、違う。ぐるりと岩で築かれた高い城壁に囲まれて、その城壁には防御力を高めるた、等間隔に城塔が設けられている。しかもルーカスの説明を聞きながらよく見れば、二重構造の城壁は外側よりさらに高い内壁があり、その多重壁の外側には当然掘がある。辺境伯の居城に入るには城門の跳ね橋を下ろしてもらう必要があるのだ。
「ふえええぇぇっ」
上を見すぎて口がポッカーンと開いてしまっているが、それほどに高く大きい壁とその壁越しにも見える城! これ、屋敷じゃないよね? 城塞だよ、城塞!
王都側にある転移の魔道具は王城の敷地内にあったけど、辺境伯の転移の魔道具は領都の外れにあった。そこから馬車に揺られながら来たバルレッタの町並みは石造り、レンガ造りの優美さを排除したガッチリとした雰囲気。大通りにはお店もいっぱいあるし人通りも多いけど、チャラチャラした感じがないのです。しかも領都クレモナや王都でさえ少ないとはいえ女性の姿はそこそこあったけど、ここバルレッタではあまり見かけなかった。ガチャンガチャンとフルプレートアーマーの奴らはあちこちにいたけどね。
軍馬に乗り王国騎士団の騎士らしい煌びやかな簡易鎧を身に付けた麗しいルーカスを、ウェントブルック辺境伯の弟だと気づいた領民たちから感嘆の吐息が聞こえてくるが、キャーキャーと騒がれることはない。……まあ、ヤロウだけでキャーキャーと野太い声援が溢れるようだったら、俺はディーンに命じて馬を早駆けさせる。そんないたたまれない空間にいたくないやい!
そんな複雑な気持ちでやってきたウェントブルック辺境伯の居城の厳めしさに、俺のチキンなハートがブルブルしてるぜ。
「開門! 開門! ルーカス様のご帰還だーっ。橋を下ろせーっ!」
防御壁の上からルーカスの姿を確認した護衛兵が大声で伝令を飛ばす。ギィィィィッと耳障りの悪い音を響かせて跳ね橋が下ろされていくのを暗澹たる気持ちで見守っていたが、背中をポンッとルーカスに叩かれて正気に戻った。
「さぁ、疲れたろう? 屋敷に入ったらゆっくりと休むといいよ」
「……んなわけにいくかっ。まずはウェントブルック辺境伯に挨拶だ」
嫌だよーっ。挨拶したくないよーっ、と俺の心がうるさいが、どうせいつかは顔を合わせるのだ。嫌なことは最初に済ます。これは前世からの俺のモットーなので!
大丈夫! 姉に命じられた限定スイーツが買えなかったときや、妹にせがまれたアイドルのライブチケットが取れなかったときに比べれば、怖くない、怖くない。
緊張するううぅぅぅぅっ。
ズラーッと並んだ使用人の間を、つい前世の癖でへこへこ会釈をしながら通り過ぎ、ベンジャミンの10倍執事らしい老執事に出迎えられ目を白黒させ挨拶したところまでは覚えている。なぜか城の中を厳めしい騎士たちに囲まれて案内され、シャーロットちゃんは静々と近寄ってきたメイドたちに攫われた。うがーっとパニックになる寸前、シャーロットちゃんの左右にマリーとメイがピタリと密着したのが確認できたので、俺はそのまま連行……じゃない案内され、通されたのは辺境伯様の執務室……なぜ、応接室じゃない? 俺……一応お客様なのでは?
俺がちょこんとソファーに座ると、警戒心バリバリの騎士たちが扉と部屋の四隅に立ちこちらを睨んでいる。ル、ルーカス、お前の実家の騎士だろう? もうちょっと愛想よくしろって命じなさい。お客様に失礼ですよっ。
ハッ! お前、なにちゃっかりと俺の隣に座ってんだ! 自慢じゃないが俺の体はかなりスペースを取るのだかろ、ゆったりと一人で座らせろやーい!
「セシル様。もう少しポーカーフェイスで。さっきからお顔が面白いことになってます」
「えっ?」
ベンジャミンの言葉に慌てて両手で頬をムニムニとする。ルーカスのヤロウが微笑んで「とってもかわいいよ」とかふざけたことを言いやがるが無視だっ。無視!
だいたい、俺の護衛ならハリソンだろうがっ。あいつ……シャーロットちゃんとラスキン博士たちと一緒に別室に行きやがった。俺のお付きはディーンとベンジャミンの武力に期待できないメンバーである。くっそう。
「またせたね」
ガチャリと扉が開けられ、柔らかな声とともに姿を現したのはウェントブルック辺境伯、セシル君の元カレの兄上様だあああぁぁぁっ。
正直……この人辺境伯様? 年中魔獣討伐に勤しむ領地のトップ? 俺の中でのイメージは父上や兄上みたいな男らしいタイプだったのに、この人本当に辺境伯様なのかな?
スラリと伸びたやや細身の体。手足は長くしなやかだ。ルーカスと同じ黒髪だが彼が漆黒の闇のような黒髪なら、辺境伯様は夜明けの薄闇色の黒髪である。その黒髪を長く伸ばしてハーフアップにしている。瞳は深い緑色で知性が感じられる。鼻筋が通っている白皙の美貌の持ち主であり、麗しい人、優美な佇まいの人である。……辺境伯様ってあのフルプレートアーマー集団のトップではないのか? よっぽどうちの父上や兄上のほうが辺境伯様フェイスなのだが?
「久しぶりだな、ルーカス。もっと頻繁にこちらへ帰ってきてほしいのだけどな」
ソファーに座り足を組む姿でさえ目を奪われる辺境伯様が、弟であるルーカスにニッコリと邪気なく微笑んだ。
「兄上……。私情で転移の魔道具は私用できませんから……」
困ったように眉を下げるルーカスに、辺境伯様は面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「そもそも、王国騎士団に入ったことが間違いなのだよ。お前はここで騎士たちを統率してほしかったのに」
プンプンと口を尖らす辺境伯様はちょっと人間味が出てきたな。残念なほうに。この世界はブラコンしかいないのか? ブラコン大会があったらうちの兄上といい勝負になりそうだ。
「それで……そちらがルーカスの運命を狂わした魔性の人かい?」
ブヒ? 俺はそんな恐ろしい男ではありません。無害な白豚です。ブヒブヒ。
いや、違う。ぐるりと岩で築かれた高い城壁に囲まれて、その城壁には防御力を高めるた、等間隔に城塔が設けられている。しかもルーカスの説明を聞きながらよく見れば、二重構造の城壁は外側よりさらに高い内壁があり、その多重壁の外側には当然掘がある。辺境伯の居城に入るには城門の跳ね橋を下ろしてもらう必要があるのだ。
「ふえええぇぇっ」
上を見すぎて口がポッカーンと開いてしまっているが、それほどに高く大きい壁とその壁越しにも見える城! これ、屋敷じゃないよね? 城塞だよ、城塞!
王都側にある転移の魔道具は王城の敷地内にあったけど、辺境伯の転移の魔道具は領都の外れにあった。そこから馬車に揺られながら来たバルレッタの町並みは石造り、レンガ造りの優美さを排除したガッチリとした雰囲気。大通りにはお店もいっぱいあるし人通りも多いけど、チャラチャラした感じがないのです。しかも領都クレモナや王都でさえ少ないとはいえ女性の姿はそこそこあったけど、ここバルレッタではあまり見かけなかった。ガチャンガチャンとフルプレートアーマーの奴らはあちこちにいたけどね。
軍馬に乗り王国騎士団の騎士らしい煌びやかな簡易鎧を身に付けた麗しいルーカスを、ウェントブルック辺境伯の弟だと気づいた領民たちから感嘆の吐息が聞こえてくるが、キャーキャーと騒がれることはない。……まあ、ヤロウだけでキャーキャーと野太い声援が溢れるようだったら、俺はディーンに命じて馬を早駆けさせる。そんないたたまれない空間にいたくないやい!
そんな複雑な気持ちでやってきたウェントブルック辺境伯の居城の厳めしさに、俺のチキンなハートがブルブルしてるぜ。
「開門! 開門! ルーカス様のご帰還だーっ。橋を下ろせーっ!」
防御壁の上からルーカスの姿を確認した護衛兵が大声で伝令を飛ばす。ギィィィィッと耳障りの悪い音を響かせて跳ね橋が下ろされていくのを暗澹たる気持ちで見守っていたが、背中をポンッとルーカスに叩かれて正気に戻った。
「さぁ、疲れたろう? 屋敷に入ったらゆっくりと休むといいよ」
「……んなわけにいくかっ。まずはウェントブルック辺境伯に挨拶だ」
嫌だよーっ。挨拶したくないよーっ、と俺の心がうるさいが、どうせいつかは顔を合わせるのだ。嫌なことは最初に済ます。これは前世からの俺のモットーなので!
大丈夫! 姉に命じられた限定スイーツが買えなかったときや、妹にせがまれたアイドルのライブチケットが取れなかったときに比べれば、怖くない、怖くない。
緊張するううぅぅぅぅっ。
ズラーッと並んだ使用人の間を、つい前世の癖でへこへこ会釈をしながら通り過ぎ、ベンジャミンの10倍執事らしい老執事に出迎えられ目を白黒させ挨拶したところまでは覚えている。なぜか城の中を厳めしい騎士たちに囲まれて案内され、シャーロットちゃんは静々と近寄ってきたメイドたちに攫われた。うがーっとパニックになる寸前、シャーロットちゃんの左右にマリーとメイがピタリと密着したのが確認できたので、俺はそのまま連行……じゃない案内され、通されたのは辺境伯様の執務室……なぜ、応接室じゃない? 俺……一応お客様なのでは?
俺がちょこんとソファーに座ると、警戒心バリバリの騎士たちが扉と部屋の四隅に立ちこちらを睨んでいる。ル、ルーカス、お前の実家の騎士だろう? もうちょっと愛想よくしろって命じなさい。お客様に失礼ですよっ。
ハッ! お前、なにちゃっかりと俺の隣に座ってんだ! 自慢じゃないが俺の体はかなりスペースを取るのだかろ、ゆったりと一人で座らせろやーい!
「セシル様。もう少しポーカーフェイスで。さっきからお顔が面白いことになってます」
「えっ?」
ベンジャミンの言葉に慌てて両手で頬をムニムニとする。ルーカスのヤロウが微笑んで「とってもかわいいよ」とかふざけたことを言いやがるが無視だっ。無視!
だいたい、俺の護衛ならハリソンだろうがっ。あいつ……シャーロットちゃんとラスキン博士たちと一緒に別室に行きやがった。俺のお付きはディーンとベンジャミンの武力に期待できないメンバーである。くっそう。
「またせたね」
ガチャリと扉が開けられ、柔らかな声とともに姿を現したのはウェントブルック辺境伯、セシル君の元カレの兄上様だあああぁぁぁっ。
正直……この人辺境伯様? 年中魔獣討伐に勤しむ領地のトップ? 俺の中でのイメージは父上や兄上みたいな男らしいタイプだったのに、この人本当に辺境伯様なのかな?
スラリと伸びたやや細身の体。手足は長くしなやかだ。ルーカスと同じ黒髪だが彼が漆黒の闇のような黒髪なら、辺境伯様は夜明けの薄闇色の黒髪である。その黒髪を長く伸ばしてハーフアップにしている。瞳は深い緑色で知性が感じられる。鼻筋が通っている白皙の美貌の持ち主であり、麗しい人、優美な佇まいの人である。……辺境伯様ってあのフルプレートアーマー集団のトップではないのか? よっぽどうちの父上や兄上のほうが辺境伯様フェイスなのだが?
「久しぶりだな、ルーカス。もっと頻繁にこちらへ帰ってきてほしいのだけどな」
ソファーに座り足を組む姿でさえ目を奪われる辺境伯様が、弟であるルーカスにニッコリと邪気なく微笑んだ。
「兄上……。私情で転移の魔道具は私用できませんから……」
困ったように眉を下げるルーカスに、辺境伯様は面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「そもそも、王国騎士団に入ったことが間違いなのだよ。お前はここで騎士たちを統率してほしかったのに」
プンプンと口を尖らす辺境伯様はちょっと人間味が出てきたな。残念なほうに。この世界はブラコンしかいないのか? ブラコン大会があったらうちの兄上といい勝負になりそうだ。
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