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恋愛編② ウェントブルック領
セシル、辺境伯様と対峙する
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ルイス・ウェントブルック。
セシル君の元カレ、ルーカスの兄で現ウェントブルック辺境伯様である。筋骨隆々の騎士たちを束ねる世紀末のなんちゃらみたいなゴツイ人だと想像していたら、イライアス様よりも麗しい舞台役者のような人が現れた。
イライアス様も麗しい方だが、あの人は例えるなら有名ブランドのパリコレ常連スーパーモデルだとしたら、こちらは前世の女性だけの劇団、その男役トップスターのようである。自分でも何を言っているのかわからんようになってきた。
とにかく、白豚には眩しい美貌であることに間違いないっ!
「あ……あのぅ。学生時代はそのぅ……ルーカス殿にはお世話になり……ありがとうございます? あれ? ごめんなさいか?」
微笑みを浮かべてはいるが、ルイス殿の俺を見る目に温度がなく、ついパニックになってしまったが、やっぱり昔の婚約不成立を怒っている?
「兄上。セシル・オールポート伯爵です。手紙にも書きましたが、オールポート領ヴァゼーレにて発見された魔獣の許可状をお願いします」
「あ……お願いしますっ!」
ルーカスの言葉に、ここに来た目的を思い出し頭を下げる。首がないし腹がつかえて深く頭を下げることが不可能だが、気持ち的には土下座をしている。
「許可状ねぇ。ルーカス、お前はどう思ったんだい?」
トトンと指で顎を叩き視線をやや上に向けたルイス殿は、高貴な楽器が奏でる音のような声で弟に尋ねる。
「そうですね……。知性は高いです。信じられないことにこちらの言葉が通じ意思疎通が可能です。攻撃力は高いですが、その力をコントロールすることもできます。そして……魔法が行使できます」
「力だけで判断したら危険だね」
や、ヤバイ! ルイス殿の目が「何か起きたら面倒だから、ヤッちゃえば?」みたいな不穏な色が滲み出てきたーっ!
「あ、あの、本当に頭がいいんです。ヴァゼーレでは共存共栄を目指し、タロウとハナコを神獣として崇めるつもりです!」
ハナコはとにかくトビーやヘクターの作るスイーツや菓子パンで機嫌を取っておけば大丈夫。ハナコがこっちの味方なら、愛妻に尻に敷かれているタロウもこちらの意思を尊重してくれるだろう。ヴァゼーレに住む領民たちが間違ってもタロウとハナコに喧嘩を売らないように神獣として崇め、彼らの縄張りを絶対不可侵とすれば、いいご近所さんになれるはず。んで、ついでに熊野郎のような危ない獣を狩ってくれれば万々歳である。
「ふ~ん。でも、ウェントブルック辺境伯家が許可するには、君たちの話だけではね? ああ、もちろんルーカスを疑っているわけではないよ。ただ、お前はそのセシル・ハーディングに関わると少しおバカになるから」
クスッとかわいらしく笑ったルイス殿は、その白魚のような手を伸ばし、ルーカスの頭をよしよしと撫でた。撫でた……、えっ? 撫でた? 俺が隣に座るルーカスを見開いた目で凝視していると、後ろに立つディーンの息を呑む音が聞こえてきた。
ひっ、ひえええぇぇぇぇっ。ルーカスだって三〇過ぎのおっさんだぞ? そりゃカッコイイけど、そうだよ、カッコイイ男なんだよ……なのに、子どものように頭を撫でるなんて! ブラコンが過ぎませんかね?
「あっ、兄上。証拠ならあります。ほら、コイツ」
ひょいと首を摘ままれ四肢をバタつかせたリヒトが、ルイス殿の顔の前に差し出された。
「……なにこれ?」
「ガルルッ」
リヒトが至近距離で見つめてくるルイス殿に愛想を振りまくこともなく、自分をぞんざいに扱うルーカスへと威嚇の唸り声を上げた。
ふむっと一通りリヒトを観察したルイス殿が、優雅に足を組みテーブルの上で細い指を組み合わせ、目を閉じて思考の海へとダイブする。……まつ毛なげぇな、こいつ。本当に武で有名なウェントブルック辺境伯様本人なのか? 確か、本人は先代やルーカスより剣術の腕は落ちるけども、戦術や交渉など知力に優れているとか。剣術もウェントブルック辺境伯騎士団の中でも上位クラスの強さだと教えてもらったが、こんな細腕で長剣を振り回せるのか? 鎧を身に着けただけで動けなくなるんじゃないの?
「っ! ひいっ」
失礼なことを頭の中で列挙していたのがバレたのか、すうーっと細く開いた目で射抜かれたぞーっ。こわっ。美人、こわっ。
「その仔狼はたしかにこちらとの意思疎通ができているし、人の子どもよりも知力が高そうだ。私の弟に対する態度には些か不満があるが、オールポート伯爵にはずいぶんと慣れている。その親である魔獣の優秀さも予想できる。……ウェントブルック辺境伯として許可状の発布に文句はない」
「ではっ!」
やった! これでウェントブルック辺境伯への用事は終わりだ。あとはラスキン博士の養い子を見つけて、四の五の言わせずに拉致して、オールポート領まで連れてきてしまえばいい。あれ? これってば頑張れば日帰り、遅くても明日にはオールポートに帰れるのでは?
「……許可状はこちらで用意して、直接陛下へと送ろう。そして……」
ゴクリ。な、なんだ? 許可状を書くのに他に条件でもあるのか? はっ! あれか、賄賂か? うぅ~ん、お金は持ってきてないからトビーの焼き菓子で代わりになるかな?
「ルーカス。オールポート伯爵との婚姻の祝いとしては、他にも用意しようと思うが、何がいい?」
「はあ? はぁ? へ? 俺とルーカスの婚姻? なんでそんな話になってんだーっ」
俺はルイス殿の言葉にバッとソファーから立ち上がり、隣に座るルーカスの胸倉を掴んで前後に揺さぶる。
「おいっ、おおいっ。結婚ってなんだ? 俺は知らないぞ? お前、ふざけんなよっ。俺はお前のこと覚えてないって言ってんだろうがっ! それを結婚だとーっ。許可状は欲しいが、お前と結婚が条件なんてハードルが高すぎだろーっ」
がくがくと俺に揺さぶられつつ、ルーカスは「結婚」の言葉にニヤニヤしやがる。くっそう、騙しやがったな!
「ガウッ。ガウッ」
ルーカスの足元ではリヒトが牙を奴の脛に立てて噛み噛みしていた。
セシル君の元カレ、ルーカスの兄で現ウェントブルック辺境伯様である。筋骨隆々の騎士たちを束ねる世紀末のなんちゃらみたいなゴツイ人だと想像していたら、イライアス様よりも麗しい舞台役者のような人が現れた。
イライアス様も麗しい方だが、あの人は例えるなら有名ブランドのパリコレ常連スーパーモデルだとしたら、こちらは前世の女性だけの劇団、その男役トップスターのようである。自分でも何を言っているのかわからんようになってきた。
とにかく、白豚には眩しい美貌であることに間違いないっ!
「あ……あのぅ。学生時代はそのぅ……ルーカス殿にはお世話になり……ありがとうございます? あれ? ごめんなさいか?」
微笑みを浮かべてはいるが、ルイス殿の俺を見る目に温度がなく、ついパニックになってしまったが、やっぱり昔の婚約不成立を怒っている?
「兄上。セシル・オールポート伯爵です。手紙にも書きましたが、オールポート領ヴァゼーレにて発見された魔獣の許可状をお願いします」
「あ……お願いしますっ!」
ルーカスの言葉に、ここに来た目的を思い出し頭を下げる。首がないし腹がつかえて深く頭を下げることが不可能だが、気持ち的には土下座をしている。
「許可状ねぇ。ルーカス、お前はどう思ったんだい?」
トトンと指で顎を叩き視線をやや上に向けたルイス殿は、高貴な楽器が奏でる音のような声で弟に尋ねる。
「そうですね……。知性は高いです。信じられないことにこちらの言葉が通じ意思疎通が可能です。攻撃力は高いですが、その力をコントロールすることもできます。そして……魔法が行使できます」
「力だけで判断したら危険だね」
や、ヤバイ! ルイス殿の目が「何か起きたら面倒だから、ヤッちゃえば?」みたいな不穏な色が滲み出てきたーっ!
「あ、あの、本当に頭がいいんです。ヴァゼーレでは共存共栄を目指し、タロウとハナコを神獣として崇めるつもりです!」
ハナコはとにかくトビーやヘクターの作るスイーツや菓子パンで機嫌を取っておけば大丈夫。ハナコがこっちの味方なら、愛妻に尻に敷かれているタロウもこちらの意思を尊重してくれるだろう。ヴァゼーレに住む領民たちが間違ってもタロウとハナコに喧嘩を売らないように神獣として崇め、彼らの縄張りを絶対不可侵とすれば、いいご近所さんになれるはず。んで、ついでに熊野郎のような危ない獣を狩ってくれれば万々歳である。
「ふ~ん。でも、ウェントブルック辺境伯家が許可するには、君たちの話だけではね? ああ、もちろんルーカスを疑っているわけではないよ。ただ、お前はそのセシル・ハーディングに関わると少しおバカになるから」
クスッとかわいらしく笑ったルイス殿は、その白魚のような手を伸ばし、ルーカスの頭をよしよしと撫でた。撫でた……、えっ? 撫でた? 俺が隣に座るルーカスを見開いた目で凝視していると、後ろに立つディーンの息を呑む音が聞こえてきた。
ひっ、ひえええぇぇぇぇっ。ルーカスだって三〇過ぎのおっさんだぞ? そりゃカッコイイけど、そうだよ、カッコイイ男なんだよ……なのに、子どものように頭を撫でるなんて! ブラコンが過ぎませんかね?
「あっ、兄上。証拠ならあります。ほら、コイツ」
ひょいと首を摘ままれ四肢をバタつかせたリヒトが、ルイス殿の顔の前に差し出された。
「……なにこれ?」
「ガルルッ」
リヒトが至近距離で見つめてくるルイス殿に愛想を振りまくこともなく、自分をぞんざいに扱うルーカスへと威嚇の唸り声を上げた。
ふむっと一通りリヒトを観察したルイス殿が、優雅に足を組みテーブルの上で細い指を組み合わせ、目を閉じて思考の海へとダイブする。……まつ毛なげぇな、こいつ。本当に武で有名なウェントブルック辺境伯様本人なのか? 確か、本人は先代やルーカスより剣術の腕は落ちるけども、戦術や交渉など知力に優れているとか。剣術もウェントブルック辺境伯騎士団の中でも上位クラスの強さだと教えてもらったが、こんな細腕で長剣を振り回せるのか? 鎧を身に着けただけで動けなくなるんじゃないの?
「っ! ひいっ」
失礼なことを頭の中で列挙していたのがバレたのか、すうーっと細く開いた目で射抜かれたぞーっ。こわっ。美人、こわっ。
「その仔狼はたしかにこちらとの意思疎通ができているし、人の子どもよりも知力が高そうだ。私の弟に対する態度には些か不満があるが、オールポート伯爵にはずいぶんと慣れている。その親である魔獣の優秀さも予想できる。……ウェントブルック辺境伯として許可状の発布に文句はない」
「ではっ!」
やった! これでウェントブルック辺境伯への用事は終わりだ。あとはラスキン博士の養い子を見つけて、四の五の言わせずに拉致して、オールポート領まで連れてきてしまえばいい。あれ? これってば頑張れば日帰り、遅くても明日にはオールポートに帰れるのでは?
「……許可状はこちらで用意して、直接陛下へと送ろう。そして……」
ゴクリ。な、なんだ? 許可状を書くのに他に条件でもあるのか? はっ! あれか、賄賂か? うぅ~ん、お金は持ってきてないからトビーの焼き菓子で代わりになるかな?
「ルーカス。オールポート伯爵との婚姻の祝いとしては、他にも用意しようと思うが、何がいい?」
「はあ? はぁ? へ? 俺とルーカスの婚姻? なんでそんな話になってんだーっ」
俺はルイス殿の言葉にバッとソファーから立ち上がり、隣に座るルーカスの胸倉を掴んで前後に揺さぶる。
「おいっ、おおいっ。結婚ってなんだ? 俺は知らないぞ? お前、ふざけんなよっ。俺はお前のこと覚えてないって言ってんだろうがっ! それを結婚だとーっ。許可状は欲しいが、お前と結婚が条件なんてハードルが高すぎだろーっ」
がくがくと俺に揺さぶられつつ、ルーカスは「結婚」の言葉にニヤニヤしやがる。くっそう、騙しやがったな!
「ガウッ。ガウッ」
ルーカスの足元ではリヒトが牙を奴の脛に立てて噛み噛みしていた。
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