8 / 25
だから、デートじゃないよ
しおりを挟む
冒険者ギルドに戻り、受付カウンターにいるギルド職員のニーナさんの元へ。
「こんにちは」
「アオイくん、おかえりなさい。薬草採れた?」
はい、と皮袋から薬草の束を出していく。最後に「ビビビ草」を出すと、ニーナさんの目が爛々と輝きますよ。貴方も愛好者の一人なんですね、高額美容液の……。
ギルド職員のニーナさんは俺の冒険者登録を担当してくれた人でもあり、初心者用冒険者講習の講師でもある。俺と同じ位の背丈に童顔で恐ろしい鉄壁の営業スマイルに、勝手に親近感を持ってます。
「もう、アオイくんがこの薬草を持ち込んでくれるおかげで、手に入れやすくなって助かってるんだー。ありがとう、これからも、頑張ってね」
バチコーンとウィンクされましたが、笑顔で避けます。男からの好感度などいらん!
それじゃと、換金されたお金を仕舞って、そそくさと帰ろうとしたのに……、見つかった……。
「あら、アオイちゃん。おかえり。ちょっと待って、わたしも一緒に帰るわ」
「えー! サブマス、早くないですか? まだ仕事残ってますよね?」
「あの仕事はギルマスの分よ。ちゃんと自分でやりなさいって伝えておいて」
……。いやいや、貴方帰る気マンマンだったでしょ? だって手に荷物持ってるし……。
イリヤさんは、カツカツと靴の踵を響かせて階段を下りると、俺の腕をガシッと組んで捕まえる。
「じゃあ、お疲れ様ーっ」
ひらひらと手を振りながらギルドの扉を開けて、ズルズル俺を引き摺りながら出ていくのだ……イリヤさん。朝に会うだけで、お腹いっぱいなんだけどなぁ。
ピロリン♪ と「人生の2択」も表示されています。いっそのこと「抱く」か「抱かれる」かしたら、この状態も終わるのか……。
はっ! あぶないっあぶないっ。ヤバい方向へ考えが誘導されるところだった。ふうーっ。
「アオイちゃん、真っ直ぐ宿に戻るのでいいの? どっか寄っていく?」
「い、いいえ。宿に帰ってご飯食べます」
「じゃあ、一緒に食べましょ」
「……はい」
ううーっ、逃げられないっ。
宿屋に戻り、そのまま一階の受付兼食堂でご飯を食べてます。今日の夕飯は白パンとトマトスープとチキンソテー、サラダです。美味しいです。この宿屋「タイタンの矢」は白マッチョが料理や洗濯を担当して、褐色マッチョが受付と掃除を担当している。
二人とも気の良い人で、一人ずつと接するのには問題はない。ただ、二人揃うと俺の心がダメージを受けるので止めてほしい。男しかいない異世界の現実が俺を押し潰そうとするんだぁ……。
「あの……」
「ん? なぁに? このスーブ美味しいわね」
「はい、美味しいです。……じゃなくて……」
「あら、足りない? わたしのパンも食べる?」
「いいえ……。むしろ、多いぐらいです。いやいや、そうじゃなくて……」
「やだぁ、もっと食べないと、大きくなれないわよ? ほら、あーん」
あーん、じゃねぇよっ。
口を開ける訳ねぇだろうっ。そのシチュエーションは付き合って初めてのデートで、ディズニーランドでする予定だったんだよっ。
俺は無言で、テーブルの上でイリヤさんに握られている右手を放そうともがく。もがく。もーがーくーっ……ダメだ、この馬鹿力めっ!
席に着いた早々、手を握りやがって。しかも指で手の甲を擽ったり、指の股を強く押してみたり、手首をさわさわ柔く触ったり、いやらしいことすんなっ!
イリヤさんはニコニコしながら、フォークに刺したチキンをグイグイと俺の口に押し付ける。
やーめーれーっ!
バシッ!
「痛ーいっ。なにすんのよっ、カディ!」
「アオイが嫌がってんだろうが、飯ぐらいちゃんと食わせてやれっ」
褐色マッチョの旦那、カディさんがイリヤさんの後頭部を叩いて、俺の右手も救出してくれた。
ありがたやー、ありがたやー。
カディさんとイリヤさんが軽口を叩き合ってる間に、俺は残っていたスーブとパンを口に押し込んだ。
「アオイちゃん、リスみたい、頬っぺたパンパンでかわいい」
俺はふるふると頭を振って否定する。
かわいくない、俺は断じて、かわいくないっ。
だから、そんなうっとりした顔で俺を見るな!
「人生の2択」表示がチカチカと点滅しやがりますっ!
「こんにちは」
「アオイくん、おかえりなさい。薬草採れた?」
はい、と皮袋から薬草の束を出していく。最後に「ビビビ草」を出すと、ニーナさんの目が爛々と輝きますよ。貴方も愛好者の一人なんですね、高額美容液の……。
ギルド職員のニーナさんは俺の冒険者登録を担当してくれた人でもあり、初心者用冒険者講習の講師でもある。俺と同じ位の背丈に童顔で恐ろしい鉄壁の営業スマイルに、勝手に親近感を持ってます。
「もう、アオイくんがこの薬草を持ち込んでくれるおかげで、手に入れやすくなって助かってるんだー。ありがとう、これからも、頑張ってね」
バチコーンとウィンクされましたが、笑顔で避けます。男からの好感度などいらん!
それじゃと、換金されたお金を仕舞って、そそくさと帰ろうとしたのに……、見つかった……。
「あら、アオイちゃん。おかえり。ちょっと待って、わたしも一緒に帰るわ」
「えー! サブマス、早くないですか? まだ仕事残ってますよね?」
「あの仕事はギルマスの分よ。ちゃんと自分でやりなさいって伝えておいて」
……。いやいや、貴方帰る気マンマンだったでしょ? だって手に荷物持ってるし……。
イリヤさんは、カツカツと靴の踵を響かせて階段を下りると、俺の腕をガシッと組んで捕まえる。
「じゃあ、お疲れ様ーっ」
ひらひらと手を振りながらギルドの扉を開けて、ズルズル俺を引き摺りながら出ていくのだ……イリヤさん。朝に会うだけで、お腹いっぱいなんだけどなぁ。
ピロリン♪ と「人生の2択」も表示されています。いっそのこと「抱く」か「抱かれる」かしたら、この状態も終わるのか……。
はっ! あぶないっあぶないっ。ヤバい方向へ考えが誘導されるところだった。ふうーっ。
「アオイちゃん、真っ直ぐ宿に戻るのでいいの? どっか寄っていく?」
「い、いいえ。宿に帰ってご飯食べます」
「じゃあ、一緒に食べましょ」
「……はい」
ううーっ、逃げられないっ。
宿屋に戻り、そのまま一階の受付兼食堂でご飯を食べてます。今日の夕飯は白パンとトマトスープとチキンソテー、サラダです。美味しいです。この宿屋「タイタンの矢」は白マッチョが料理や洗濯を担当して、褐色マッチョが受付と掃除を担当している。
二人とも気の良い人で、一人ずつと接するのには問題はない。ただ、二人揃うと俺の心がダメージを受けるので止めてほしい。男しかいない異世界の現実が俺を押し潰そうとするんだぁ……。
「あの……」
「ん? なぁに? このスーブ美味しいわね」
「はい、美味しいです。……じゃなくて……」
「あら、足りない? わたしのパンも食べる?」
「いいえ……。むしろ、多いぐらいです。いやいや、そうじゃなくて……」
「やだぁ、もっと食べないと、大きくなれないわよ? ほら、あーん」
あーん、じゃねぇよっ。
口を開ける訳ねぇだろうっ。そのシチュエーションは付き合って初めてのデートで、ディズニーランドでする予定だったんだよっ。
俺は無言で、テーブルの上でイリヤさんに握られている右手を放そうともがく。もがく。もーがーくーっ……ダメだ、この馬鹿力めっ!
席に着いた早々、手を握りやがって。しかも指で手の甲を擽ったり、指の股を強く押してみたり、手首をさわさわ柔く触ったり、いやらしいことすんなっ!
イリヤさんはニコニコしながら、フォークに刺したチキンをグイグイと俺の口に押し付ける。
やーめーれーっ!
バシッ!
「痛ーいっ。なにすんのよっ、カディ!」
「アオイが嫌がってんだろうが、飯ぐらいちゃんと食わせてやれっ」
褐色マッチョの旦那、カディさんがイリヤさんの後頭部を叩いて、俺の右手も救出してくれた。
ありがたやー、ありがたやー。
カディさんとイリヤさんが軽口を叩き合ってる間に、俺は残っていたスーブとパンを口に押し込んだ。
「アオイちゃん、リスみたい、頬っぺたパンパンでかわいい」
俺はふるふると頭を振って否定する。
かわいくない、俺は断じて、かわいくないっ。
だから、そんなうっとりした顔で俺を見るな!
「人生の2択」表示がチカチカと点滅しやがりますっ!
54
あなたにおすすめの小説
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました
すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。
第二話「兄と呼べない理由」
セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。
第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。
躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。
そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。
第四話「誘惑」
セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。
愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。
第五話「月夜の口づけ」
セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
俺の婚約者が変態過ぎる!〜いいだろ。コイツ俺のなんだぜ?〜
ミクリ21
BL
婚約者のヒューゴのことを、主人公のユリスは苦手であった。
何故なら、ヒューゴは超ド級の変態だったからだ。
しかし、ある時前世の記憶を思い出したユリスは、ヒューゴを深く深く愛し始める。
何故なら、ユリスは前世で変態大好きな性癖だったから………。
悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!
ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。
らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。
なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる