星降る庭で、きみを見た

夜灯 狐火

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プロローグ

永遠(とわ)の楔が穿つ時

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 その空は、もはや空ではなかった。
 轟々と磁気嵐が渦巻き、空気は帯電している。
 ビリビリと電流が、上る龍のように弧を描いていた。
 嵐の中心には、天を貫くほどの大きな裂け目が空間を切り裂いている。

 目も開けていられないほどの向かい風の中、傷だらけの男――かつて「封獄の守人」と称された退魔師は、地にひれ伏していた。
 老いた声でただひたすらに「すまぬ、すまぬ」と呟く。

 するとしばらくして、荒廃した大地に赤く輝く巨大な紋様が浮かび上がり、裂けた空間の前にそれを覆うような大きな扉が現れた。

 男はなおも呟き続ける。
 誰に届くわけでもない言葉を、ただ吐き出すように。

 地鳴りを響かせながら、扉が少しずつ閉じていく。
 強烈な磁気嵐は、まるで何事もなかったかのようにぴたりと止んだ。
 風に吹き上げられて宙に舞っていた瓦礫の山が、浮力を失い音を立てて次々と落ちていく。

 男は安堵の表情を浮かべた。

 しかし次の瞬間、扉の向こうから先ほどにも増して強烈な磁気嵐が吹き込んできた。
 男は吹き飛ばされそうになりながら、必死に踏みとどまる。

「……やはり、無理なのか」

 男は絶望色を滲ませた。

 そして何かを決意したかのように、少し後方を見た。
 そこには、場の雰囲気とは真逆の、静かで安らかな表情を浮かべた人物が眠るように横たわっている。

「……すまぬ。我が一族は生涯を賭して、お前を守ると誓う」

 男は静かに立ち上がる。
 その胸の奥に眠る、最後の魔術を呼び起こすように。

「黄昏の深淵、宙の最果てに佇む叡智よ、闇と無より生まれ出る揺蕩うもの。渾沌の内なる聖なる光よ、我が願いをもって邪を封じる礎となれ」

 男が謳うと、美しい弓が顕現した。
 そして矢を持たぬままに弦を引くと、そこに光の矢が現れた。

 その力の重たさに男の腕はズタズタに裂け、血が吹き出している。
 それでも男は構わず、持てるすべての力を込めて弓を引き絞った。

「どうか、これで……!!!」

 男が鳴弦させると、光の矢は真っ直ぐに風を切り飛んでいった。
 光の矢が扉を穿つと四方に飛散し、大きな鎖となって次元の裂け目ごと扉を封じた。

 鎖の中心には、それはそれは小さな、しかし生命力に満ちた宝玉が美しい光を放っている。

 今度こそ逆流する嵐は止み、辺りには静けさが戻った。

 男は安堵した。

 しかし同時に大量の血を吐き、そのまま倒れ息絶えた。

 彼の視界に、今は何も知らぬまま眠る人物が映っていた。

 それが、すべての嚆矢となることも知らずに。
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