星降る庭で、きみを見た

第五章 ワルプルギスの夜

47.5 守りたいと思えた日

「……守りたかっただけ……」




　君のその言葉が、胸の奥に静かに染み込んでいった。


　――守りたい、だなんて。


　俺には、きっと永遠に関わりのない感情だと思っていた。

　悠久の時のそのあいだ、俺はずっと“道具”だった。
　命を削る駒。意味も理由も持たぬまま、ただ使われるもの。
　誰かの願いを叶えるための枷であり、
　誰のためでもない、そのくせ必要とされる、無名の影だった。

「守れ」と命じられたことは幾度もあった。
　けれど――「守られた」ことなど、ただの一度もなかった。

　今、君が俺を見ている。
　涙を湛えた、大きな鳶色の瞳で。
　……あの人と同じ、優しい色。

　深く、冷たい夜の中。
　閉ざされた闇の底で、誰にも気づかれずに耐え続けた時間。
　傷だらけの身体を抱えながら、意味のない痛みをただ繰り返して。

　そんな俺に、手を差し伸べたのは、誰でもない。君だった。

「守りたい」――
　その言葉を耳にしたとき、胸が締めつけられて、声が出なかった。

　君の瞳に映っていた俺は、
“ただの道具”ではなかった。

　血に濡れ、傷ついた俺を、
　君は、怖がらずに抱きしめてくれた。

　だから――

　俺も君を守ろうと、心に決めた。
　どんなに痛くても、どれほど壊れても、
　君のそばで、君を見つめていたいと思った。

　それが、俺の小さな、初めての願いだった。

　そして今――
　震える君を、この腕に抱きしめる。
　その温もりが、俺の生きてきた証のようで。

　ようやく気づけた。
　これこそが、俺の“存在意義”なんだと。
　誰かの命令じゃない。
　俺自身が、そう在りたいと願ったのだと。

　でも――

「巻き込んで……、ごめんな」

　弱く、掠れた声が漏れた。
　俺の運命に、君を巻き込んでしまったことが、
　いまはただ、申し訳なくてならなかった。