『バズらなきゃ』

月影光(つきかげひかる）

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第2話：数字の奴隷

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通知音が、止まらない。
再生数は、2万…3万…朝には12.8Kを超えていた。

「ヤバ……ほんとにバズってる……」

興奮じゃなかった。
呼吸は浅く、胃の奥がヒリヒリする。
止まったら終わる気がした。バズが、命綱になっていた。

通学路でも、ずっとスマホの画面を開きっぱなし。
スカートのポケットに手を入れて、目線はずっと画面に。

🔔「コメント：新着39件」
🔔「フォロワー：＋142」
🔔「ギフト：3件のプレゼントが届いています」

数字が更新されるたびに、胸がドクドクと脈打つ。
もはや酸素より、通知が生きる理由になっていた。

「覚えてないの？あの日、君がしたこと。」

そのコメントだけが、画面の奥でじっと残っている気がした。

🔔 キングコウジがあなたを「LIVE招待」しました

「……え？」

画面に“特別招待”のエフェクトが光る。

恐る恐るLIVE枠に入ると、目を疑った。

👑 キングコウジ
🎩 ミゲル
🌟 鏡花くらら
🔥 夢銀
💰 無基金
💬 界

TikTokのランキング上位者が、一堂に会していた。

「うっ……」
圧が、すごい。コメント欄もギフトも流れが早すぎて見えない。

画面越しのキングコウジが言った。

「ようこそ、数字の世界へ」

まず目に飛び込んできたのは——
画面中央にデンと構えるミゲル。
真っ黒なキャップとシャツ。がっしり太った体。
だけど、その存在感は異常に強い。

「はは、かわいいやん、この子～」
関西弁。重低音ボイス。
その横には、明らかに高額ギフトを連打している“ミゲル信者”が大勢いた。

次に現れたのは、鏡花くらら。
全身整形、なのに圧倒的に“今っぽい”可愛さと色気を持ったセクシー美女。
指で軽く巻いた髪を揺らしながら、赤リップの口元でニッコリ笑う。

「ユイちゃん……顔、いい線いってるじゃん？
でもね？　バズるには“潰す覚悟”もいるの。」

笑ってるのに、怖い。
コメント欄には、くららのファンからのギフト嵐が吹き荒れている。

画面下に突然現れたのは、冷たい文字列だった。

🕹️「RANKING SURVIVAL」
『現在の順位：ユイ──142,781位』

「……っ」

『3日以内に10,000位以内に到達できなければ、アカウント永久凍結。』

ドクン。
心臓が嫌な音を立てる。
喉がひゅうっと詰まった。

「こんなの、おかしい……」

でも、指はスマホを強く握り直していた。

バズらなきゃ、“ここ”にいることすら許されない——

➤ 第3話：裏アカの影につづく

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