柴犬ポン太の事件簿

月影 光(つきかげひかる)

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第4話:初恋は柴犬とともに

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最近、花さんの同僚・ユカリさんが、なんだかそわそわしている。
職場でもちょっとしたミスが増えて、ため息が多い。

「最近、駅で気になる人がいてね……」
ランチの時、ぽつりと話してくれたのは、いつもきびきび働くユカリさんにしては珍しい乙女な表情だった。

相手は、毎朝同じ時間に同じ電車に乗っているスーツ姿の男性。
いつも本を読んでいて、隣の席が空いているとそっと譲ってくれる優しい人らしい。

「顔も名前も知らないし……話しかけるなんて、無理だよね」
ユカリさんは笑ったけど、ちょっとだけ寂しそうだった。

 

その夜、花さんが僕に言った。
「ポン太、明日の朝、駅まで一緒に行ってみようか」

翌朝、僕は花さんと一緒に駅の近くまでお出かけ。
わざと人の多い通勤時間に合わせて、リードを少し長めにゆるめてもらった。

 

すると――見覚えのあるユカリさんが、少し遅れてやって来た。
今日は、髪をまとめて、花模様のハンカチを手に持っている。

そして、そのあとすぐ。
改札を通って出てきたのは、長身で眼鏡をかけた男性。
スーツのポケットから少し見えるのは、小説の背表紙だ。

 

僕はしっぽを振って、その男性の足元に近づいていった。
タイミングを見計らって、ぴょんとジャンプ。
すると、ユカリさんのハンカチが、ふわっと風に乗って落ちた。

 

「……あの、これ……」

男性が拾い上げ、ユカリさんに手渡す。

「ありがとうございます」

ふたりは少し照れたように目を合わせ、ユカリさんが軽く会釈をした。
それだけで、朝の空気がほんの少し、あたたかくなった気がした。

 

帰り道、花さんが笑いながら僕の頭を撫でた。
「ポン太、やるねぇ。恋のキューピッドだ」

ふん、僕にかかればこんなもんさ。
ただの偶然? いや、名探偵には計算づくだよ。

 

恋のはじまりに必要なのは、ちょっとの勇気と――犬の鼻。
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