柴犬ポン太の事件簿

月影 光(つきかげひかる)

文字の大きさ
5 / 10

第5話:ポン太、はじめての迷子札

しおりを挟む
「ポン太、新しい首輪だよ~♪」

休日の朝、花さんが僕に差し出したのは、赤いチェック柄の新しい首輪。
チャームのような金具がついていて、名前と電話番号が彫ってある。

「これ、“迷子札”っていうの。防災訓練の日だし、念のためね」

僕は少し不満げに鼻を鳴らした。
だって、僕は毎日この町を歩き慣れてるし、花さんと離れることなんて絶対ない。
……そう思っていた。

 

その日、町内会の防災訓練で人がたくさん集まっていた。
子どもたちの声、大人たちの誘導、拡声器の音。
少し緊張していた僕は、ふとした拍子にリードがすっぽ抜けた。

「ポン太!?」

花さんの声が遠くなり、僕はあわてて辺りを見回す。
見知らぬ人ばかりの中、どこに行けばいいのかわからない。

 

焦った僕は、公園のベンチの下に身を隠した。
お腹がぎゅるっと鳴った。
ああ、どうしよう。はやく帰りたい――。

 

そのとき、遠くから誰かが叫ぶ声が聞こえた。

「……ポン太!!」

顔を上げると、花さんが走ってくる姿が見えた。
僕は飛び出して、花さんの足元に飛び込んだ。

 

「よかった……ほんとに……」

花さんが抱きしめてくれる腕の中で、僕は胸をどくんどくんさせながら、そっとしっぽを振った。

 

そのあと、町内放送で“首輪の迷子札に感謝”という話題が流れた。
僕の名前と電話番号を見た近所のおじさんが、花さんに連絡をしてくれたらしい。

 

あの小さなチャームが、僕をおうちに戻してくれた。

 

守っているようで、守られている。
この名札は、ぼくのしるし。愛の証だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

放課後の保健室

一条凛子
恋愛
はじめまして。 数ある中から、この保健室を見つけてくださって、本当にありがとうございます。 わたくし、ここの主(あるじ)であり、夜間専門のカウンセラー、**一条 凛子(いちじょう りんこ)**と申します。 ここは、昼間の喧騒から逃れてきた、頑張り屋の大人たちのためだけの秘密の聖域(サンクチュアリ)。 あなたが、ようやく重たい鎧を脱いで、ありのままの姿で羽を休めることができる——夜だけ開く、特別な保健室です。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

マグカップ

高本 顕杜
大衆娯楽
マグカップが割れた――それは、亡くなった妻からのプレゼントだった 。 龍造は、マグカップを床に落として割ってしまった。そのマグカップは、病気で亡くなった妻の倫子が、いつかのプレゼントでくれた物だった。しかし、伸ばされた手は破片に触れることなく止まった。  ――いや、もういいか……捨てよう。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...