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第7話:パン屋さんのうっかり事件
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朝の散歩コースにあるパン屋さん「ブレッド・スマイル」。
コウジさんという店主が毎日せっせと焼くメロンパンは、町内でも人気だ。
あそこのパン袋には、ほんのりバターの匂いがついている。
だから僕はつい、寄り道してしまう。
ある日、店主が花さんに声をかけた。
「昨日、予約されてたメロンパンが一袋、どこかに消えたんですよ……」
お金はちゃんと受け取ってる。でも、渡した記憶がない。
「落とし物コーナーにもないし……もしかして誰か、間違えて持っていったかな」
僕はクンクンと鼻を利かせて、店の裏へまわった。
ゴミ箱、ベンチ、そして……小さな植え込みのそば。
――いた。匂いの主は、メロンパンに混じって甘い香りのする、薄いピンクの紙袋だった。
中には潰れたパンと、手紙が一通。
《お母さん、来週も元気でいてね。またパン買って帰るよ》
花さんが読んで、顔を上げた。
「これ……アヤちゃんの文字だ」
アヤちゃんは、病気のお母さんと2人暮らしの高校生。
いつも放課後にパンを買って帰る。昨日は急いでいたのか、うっかりベンチに置き忘れて帰ったらしい。
店主はそっと言った。
「……じゃあ、もう一度焼いてあげよう。できたてのほうが、お母さんも喜ぶだろうし」
そして手紙を丁寧に包み直し、袋の中へ入れた。
夕方、アヤちゃんが来たとき、店主は何も言わず、パンの袋を手渡した。
「昨日の分、ちょっと焼きすぎたからオマケだよ」
アヤちゃんは涙をこらえるようにうなずいた。
失くし物の中にあるのは、パンだけじゃない。
やさしさと気持ち――それを、もう一度届けられたなら、事件じゃなくて、贈り物になる。
コウジさんという店主が毎日せっせと焼くメロンパンは、町内でも人気だ。
あそこのパン袋には、ほんのりバターの匂いがついている。
だから僕はつい、寄り道してしまう。
ある日、店主が花さんに声をかけた。
「昨日、予約されてたメロンパンが一袋、どこかに消えたんですよ……」
お金はちゃんと受け取ってる。でも、渡した記憶がない。
「落とし物コーナーにもないし……もしかして誰か、間違えて持っていったかな」
僕はクンクンと鼻を利かせて、店の裏へまわった。
ゴミ箱、ベンチ、そして……小さな植え込みのそば。
――いた。匂いの主は、メロンパンに混じって甘い香りのする、薄いピンクの紙袋だった。
中には潰れたパンと、手紙が一通。
《お母さん、来週も元気でいてね。またパン買って帰るよ》
花さんが読んで、顔を上げた。
「これ……アヤちゃんの文字だ」
アヤちゃんは、病気のお母さんと2人暮らしの高校生。
いつも放課後にパンを買って帰る。昨日は急いでいたのか、うっかりベンチに置き忘れて帰ったらしい。
店主はそっと言った。
「……じゃあ、もう一度焼いてあげよう。できたてのほうが、お母さんも喜ぶだろうし」
そして手紙を丁寧に包み直し、袋の中へ入れた。
夕方、アヤちゃんが来たとき、店主は何も言わず、パンの袋を手渡した。
「昨日の分、ちょっと焼きすぎたからオマケだよ」
アヤちゃんは涙をこらえるようにうなずいた。
失くし物の中にあるのは、パンだけじゃない。
やさしさと気持ち――それを、もう一度届けられたなら、事件じゃなくて、贈り物になる。
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