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後編
いや前から魅了という作用に、ずっと思っていたことがあるのだよ。
一度使えば罪になるような、強い力を持つ魔術なら……ちょっと手を加えることで良い方向に使えないかな? と。
おや君、ウトウトしてきたね。無理もない。5連勤の後なんだ、無理しないでそこの長椅子で眠ると良い。
処分品市で買った安物だけど寝心地が良いからおすすめだ。
え、続きが気になって眠れそうにないって?
はあ……、分かったよ。頑張り屋の君が安心して休めるように手っ取り早くお伝えしよう。
僕は魅了の薬を調合し、客である令嬢に渡した。
彼女は喜んでいたさ。目をギラギラさせて訳の分からない“これで王太子ゲットだー!”とか“悪役令嬢ざまぁ!”なんて言葉を叫んでいた。
…………最近の若者の流行なのかね。
まあ、それは置いておこう。
小躍りしている彼女に僕は、ちょっとした入れ知恵をした。実行するかどうかで彼女の良心を知りたかったから。
“もしお客さんがたくさんの人間に特別に思われたいなら、もっと効果的な方法がありますよ。この都のどこからでも見える、王都の飲み水全てを供給している水道浄化所。あそこのタンクに入れれば、王都の民全てがあなたの信者になりますよ”ってね。
信者は大げさ過ぎかな。でも売り文句って大体そうだし、それを信じる人間がどう取るかなんて問題じゃない。
大勢に崇拝される、神のような存在になれるという誘惑に勝てなかったのか男爵令嬢は僕の教えに従って、浄化所に忍び込み貯水タンクに薬を投下した。
結果は上々。王都に住む全ての民が彼女に好意を抱くようになった。
で、結果……1週間もたずにかのご令嬢は、降参した。
ま、待ってくれ……何故睨んでくる? え、端折り過ぎ? ……早く寝られて良いと思ったんだが? わざとだろ! って……考え過ぎだって。……ククク……いや笑ってないし。
時に君、“愛”と言われてどのような答えをする?
尊い愛? 誰よりも誰かを大切に思う愛? 全てを壊しても愛する人を欲する愛?
つまり、人の数ほどに愛の形もそれぞれだという事さ。
だから僕は魅了の薬に、僕なりのアレンジをして渡した。
彼女に注ぐ愛は、彼らが最も信じる形で与えるようにとね。
結果かの令嬢に、様々な形で愛が注がれるようになった。
僕が聞いた限りだと……。
王太子の婚約者からは
“わたくしの後継になるのであれば、わたくしと同等の教養を身に着けて頂かねば!”と、彼女が幼少期から受けてきた王太子妃教育を施すべく令嬢を自邸に缶詰にした。
そんな高度な教育が一長一短で出来る訳がない。
ほうほうの体で逃げ出せば、新しい信者が寄って来て
“お嬢様、王太子殿下などよりわたしの物になってください!”
と家に招かれ助かったと安堵したらとんでもない変態で
“ぐへへへ……これでアンタは俺だけのものだぁ”
なんて言いながら足の腱を切って動けなくしようとする。
そこから更に逃げ出せば、次に出会ったのは騎士団長の令息。教育から逃げた、かくまって欲しいと訴えるも
“教育? 君なら頑張れるって信じているよ。見事やり切ってご令嬢の鼻をあかしてやれ!! 気合いだ気合いだ気合いだぁーー!!”
と、熱い励ましをしながら追手に引き渡されたそうだ。
まぁこれもほんの一例。
そんな感じで、かの男爵令嬢はあちこちで様々な愛を注がれる事になり、最初のお試しとして渡した薬以降、ここに来る事はなくなった。あれは効果が1週間しか保てないから、更に欲しいなら来店してもらうしかない。それが来なくなったのだから不要と言う事だろう。
もしかしたら方法を変えて、そちらで挑もうとしているのかも知れないがその時は僕の作戦がダメだったというだけの話だ。
そして数日後。
後日側近の方から、礼を言われたよ。今度はわざわざこの店まできてくださったんだ。
“まさかこのようなやり方があるとは思いませんでした。彼女すっかり大人しくなりました。男爵からの話だと、これまでの奇行が鳴りを潜めて大人しくなったそうで。
……男爵ご夫妻も長い間、困惑されていたようです。
いきなり娘が『ここはゲームの世界で私はヒロインなの!』とか意味不明な事を言いつつ自室を不快そうに眺めて『なぁに、この家。ぼろいしだっさ! まぁヒロインの親は稼ぎが悪いって設定だったからしょうがないか。頑張って攻略対象落としてこんな場所から抜け出そう☆』といった感じの発言を繰り返していたようで。
突然の変りように、何か悪い者が取りついたのかと心配していたが、これで元に戻ってくれればありがたいとの事でした”
察するに、男爵も娘の素行に苦しんでいたようだ。
親なのにと思わなくもないが、親だからって人間だ。突然おかしくなった子供にどう対処するかなんて、分からないし出来ないだろう。そこに他人が介入して結果、娘が痛い目を――あくまで娘自身だけが被害に遭って、それも自業自得という形――で見たという事実に、彼らが内心ほっとしたかも……。
まぁそれも僕には関係ないけど。
僕の目の前にある問題は……。
これで君は、眠れそうかな?
一度使えば罪になるような、強い力を持つ魔術なら……ちょっと手を加えることで良い方向に使えないかな? と。
おや君、ウトウトしてきたね。無理もない。5連勤の後なんだ、無理しないでそこの長椅子で眠ると良い。
処分品市で買った安物だけど寝心地が良いからおすすめだ。
え、続きが気になって眠れそうにないって?
はあ……、分かったよ。頑張り屋の君が安心して休めるように手っ取り早くお伝えしよう。
僕は魅了の薬を調合し、客である令嬢に渡した。
彼女は喜んでいたさ。目をギラギラさせて訳の分からない“これで王太子ゲットだー!”とか“悪役令嬢ざまぁ!”なんて言葉を叫んでいた。
…………最近の若者の流行なのかね。
まあ、それは置いておこう。
小躍りしている彼女に僕は、ちょっとした入れ知恵をした。実行するかどうかで彼女の良心を知りたかったから。
“もしお客さんがたくさんの人間に特別に思われたいなら、もっと効果的な方法がありますよ。この都のどこからでも見える、王都の飲み水全てを供給している水道浄化所。あそこのタンクに入れれば、王都の民全てがあなたの信者になりますよ”ってね。
信者は大げさ過ぎかな。でも売り文句って大体そうだし、それを信じる人間がどう取るかなんて問題じゃない。
大勢に崇拝される、神のような存在になれるという誘惑に勝てなかったのか男爵令嬢は僕の教えに従って、浄化所に忍び込み貯水タンクに薬を投下した。
結果は上々。王都に住む全ての民が彼女に好意を抱くようになった。
で、結果……1週間もたずにかのご令嬢は、降参した。
ま、待ってくれ……何故睨んでくる? え、端折り過ぎ? ……早く寝られて良いと思ったんだが? わざとだろ! って……考え過ぎだって。……ククク……いや笑ってないし。
時に君、“愛”と言われてどのような答えをする?
尊い愛? 誰よりも誰かを大切に思う愛? 全てを壊しても愛する人を欲する愛?
つまり、人の数ほどに愛の形もそれぞれだという事さ。
だから僕は魅了の薬に、僕なりのアレンジをして渡した。
彼女に注ぐ愛は、彼らが最も信じる形で与えるようにとね。
結果かの令嬢に、様々な形で愛が注がれるようになった。
僕が聞いた限りだと……。
王太子の婚約者からは
“わたくしの後継になるのであれば、わたくしと同等の教養を身に着けて頂かねば!”と、彼女が幼少期から受けてきた王太子妃教育を施すべく令嬢を自邸に缶詰にした。
そんな高度な教育が一長一短で出来る訳がない。
ほうほうの体で逃げ出せば、新しい信者が寄って来て
“お嬢様、王太子殿下などよりわたしの物になってください!”
と家に招かれ助かったと安堵したらとんでもない変態で
“ぐへへへ……これでアンタは俺だけのものだぁ”
なんて言いながら足の腱を切って動けなくしようとする。
そこから更に逃げ出せば、次に出会ったのは騎士団長の令息。教育から逃げた、かくまって欲しいと訴えるも
“教育? 君なら頑張れるって信じているよ。見事やり切ってご令嬢の鼻をあかしてやれ!! 気合いだ気合いだ気合いだぁーー!!”
と、熱い励ましをしながら追手に引き渡されたそうだ。
まぁこれもほんの一例。
そんな感じで、かの男爵令嬢はあちこちで様々な愛を注がれる事になり、最初のお試しとして渡した薬以降、ここに来る事はなくなった。あれは効果が1週間しか保てないから、更に欲しいなら来店してもらうしかない。それが来なくなったのだから不要と言う事だろう。
もしかしたら方法を変えて、そちらで挑もうとしているのかも知れないがその時は僕の作戦がダメだったというだけの話だ。
そして数日後。
後日側近の方から、礼を言われたよ。今度はわざわざこの店まできてくださったんだ。
“まさかこのようなやり方があるとは思いませんでした。彼女すっかり大人しくなりました。男爵からの話だと、これまでの奇行が鳴りを潜めて大人しくなったそうで。
……男爵ご夫妻も長い間、困惑されていたようです。
いきなり娘が『ここはゲームの世界で私はヒロインなの!』とか意味不明な事を言いつつ自室を不快そうに眺めて『なぁに、この家。ぼろいしだっさ! まぁヒロインの親は稼ぎが悪いって設定だったからしょうがないか。頑張って攻略対象落としてこんな場所から抜け出そう☆』といった感じの発言を繰り返していたようで。
突然の変りように、何か悪い者が取りついたのかと心配していたが、これで元に戻ってくれればありがたいとの事でした”
察するに、男爵も娘の素行に苦しんでいたようだ。
親なのにと思わなくもないが、親だからって人間だ。突然おかしくなった子供にどう対処するかなんて、分からないし出来ないだろう。そこに他人が介入して結果、娘が痛い目を――あくまで娘自身だけが被害に遭って、それも自業自得という形――で見たという事実に、彼らが内心ほっとしたかも……。
まぁそれも僕には関係ないけど。
僕の目の前にある問題は……。
これで君は、眠れそうかな?
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