悪役令息な俺でもいいんですか?~歌声で人々を癒やします。でも元婚約者(第3王女)はお断りです~

みけの

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旅の一座が来るそうです

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 遡る事2日前。
早朝の空の下、屋根の上で俺はトンテンカンと、釘を打つ。
「レオ! こんなんじゃダメだ釘が斜めになってるぞ! もう一度やり直せ」
今の声は近所に住む、大工のビルさん。今日は非番だそうで、一緒に作業をして頂いている。
 最初、俺が見よう見まねで壁の塗装をしていたら、ヌッと横から顔を出して、アレコレ教えてくれるようになった。おかげで所々ボロかった建物が綺麗に修繕されていく。
「はい」
 指摘され、俺は斜めに刺さった釘を引っこ抜いた。釘1本打つといっても難しいものだ。ちょっと思いついて、そこにある小さい薄い板きれを2枚取る。それで釘を挟んで板に添え、上から軽く打ち、直立したらガンガンと打ち込む。よし、これで真っ直ぐと。
「――ありがとうな」
「え?」
 1カ所修繕出来てさあ次、と立ち上がったところで、ビルさんがボソッと俺に言った。
「何故、俺にそんな事を?」
だってこの場合礼を言うのは俺の方だと思うのだが。でもビルさんは、
「この劇場のボロさはずっと気がかりだったが、どうこうすることも出来なくて皆、放っていたんだ。
 でもお前が1人で修繕しようとしていたから、みんな手助けしようって思えたんだ。……本当に、ありがとうな」
「…………」
でもそれは俺がどうとかではなく、支配人が良い人だからだ。まず正体不明の宿無しの俺を置いて下さっている事自体感謝しか無い。
「しかしお前も働き者だな。朝から晩まで働きづめで疲れねぇか?」
疲れる? 俺が??
「疲れませんよ! と言うか気持的には、過去最っ高にみなぎってます!」
「そ、そうなのか……」
つい力を込めて言ってしまった俺にドン引きするビルさん。でも正直な感想だ。
子守(元婚約者の)しないだけでもう、羽のように心が軽い! ここが学園や公爵家では無いと言うだけでも空気がうまい! 
「前いたのが、呼吸するのにすら気を遣うような場所でしたから……」
「そんなひでぇ場所も、あるんだな……。ま! 良かったじゃねぇか、そんなとこと縁が切れて!」
「はい!」
ビルさんの言葉に心から頷く俺。
 追い出された時はへこんだけど、結果としてはこれで良かったのかも知れないな。
そう思えるのも、寝床をくれた支配人やミヤちゃんや、ミヤちゃんのお姉さんのミーシャさんのおかげだ。機会があれば、恩に報いたい。――と思った時、ずっと疑問に思っていた事を言った。
「ビルさん……。この劇場、どうしてこんなに廃れたんですか? 新しく出来た劇場に客を取られたから?」
 大通りに面した、大きい劇場の事は俺も知ってる。と言うか、行った事だけはある。
 建物は……まぁ……豪華だった。貴賓席だったからかも知れないが。
いかにも値が張りそうな絨毯やソファ。緞帳もやたらキンキラキンで、俺的には趣味が良いとは言いにくい。
 でも観劇をする客は貴族が多い。どっちを選ぶかと言われればあっちを選ぶだろう。
今のバレンシア劇場は本業ではほとんど営業していない。もっぱら会議や集まりの際に、提供する場所代位だ。よくこれで潰れないな。
けど何故か、急にビルさんの顔が苦々しげに歪む。
「あの新しい劇場の支配人は昔ここで働いていた奴なんだが、突然首になってな。その後、どんな手を使ったのかあの劇場の支配人になった。
 それからだ。バレンシア劇場の従業員達をドンドン引き抜いていったんだ」
「ええ?」
 それって営業妨害?
「次には得意先を奪っていってな。おかげさまで今の閑古鳥状態よ」
「そんなことが……」
 一体何でその人は、この劇場を潰すような真似をしているんだろう?
 俺が首を傾げていると、不意にビルさんがニィっと笑った。
「……まぁ、これからちょっとの間は忙しくなるだろうがな!」
「それはどうして?」
「この時期になると、旅の軽業一座がやってくるんだが結構人気があってな。……そこが常にこの劇場を利用してるんだ! だからレオン、お前も忙しくなるぞ!」
 つまりその旅の一座が来ている間は、この劇場も通常営業になるんだな。
 あ、つまり……その人達が来るまでに、修繕を済ませなきゃいけないんだ! 軽業を披露するんなら、舞台に壊れたとこが無いかもチェックしないと。うわぁ……本当に大変だ!
 とこれからやる仕事の段取りを考えていると、
「レオンくーん、ビルさーん、お茶にしませんかー?」
 屋根の下から呼ぶ声がした。

「そうなの。だからレオン君、これからガンガン頑張ってもらうわよ」
お給料のために! 私達姉妹の生活のためにね!
 眼鏡の奥の瞳をらんらんと輝かせ、俺に檄をとばす赤毛に緑色の瞳で、ちょっとあるソバカスが愛嬌のある女の人こそ、ミヤちゃんのお姉さんのミーシャさん。
 あの日俺に熱くお礼を言ってくれた人である。この劇場で唯一の従業員だ。
俺が字の読み書きと計算が出来ることを知った彼女は、暇を見つけては俺に仕事を回してくる。おかげで最初は雑用だけ受け持っていたのが、今は半分従業員みたいになってしまった。
 とはいえそれだけでは暮らしていけないから、冒険者との兼任になるのだが。
 ……その一座の公演が終わるまでは、こっちを優先した方がいいかも知れない。
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