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終わりと始まり
しおりを挟む大広間――といっても、役者さん達が公演中稽古場兼寝室として使うように、2部屋の仕切りを取って大きくしただけなのだが――で、真ん中にテーブルが置かれ、中央に大量の料理が並んでいる。
支配人と座長が開いてくれた、ちょっとした宴会だ。役者さん達は当然の事、支配人夫婦にミーシャさんやミヤちゃん、俺まで仲間に入れてもらっている。
今日で公演はお終い。一座の皆さんは明日、次の土地へと流れていく。
しばらくの間の付き合いだったけど、お別れするのはやはり寂しい。替わりとはいえ、一緒に舞台に上がったりもしたし。
と、少ししんみりとしていたら、
「みんな、今日までお疲れ様だったな! 今回は色々あったが、無事今日を迎えられたのも、皆の頑張りがあったからだ! 今日は好きなだけ飲んで食ってくれ! 乾杯!!」
「かんぱーい!!!」
座長の音頭が終わり、一斉にあちこちで乾杯が交わされる。俺も近くにいた支配人達や役者さんと酒杯を合わせた。
「レオンさん」
アイカさんが笑顔で俺に近付いてきた。俺も笑いかけようとして、フッとうつむく。手の中にあるグラスをギュッと握りしめた。
「レオンさん?」
「……アイカさん、その、俺は貴女に済まない事を……」
今回、マルゴット劇場の支配人が起こした事件。
あいつをバレンシア劇場から遠ざけることには成功した。
しかしアイカさんは?
一時で済んだとはいえ商売ものの喉を壊され、どれほど恐怖したか、苦しんだか。その思いを考えると、俺の選択は彼女にとって不本意なものだったはずだ。本来なら罪を白日の下にさらしてやりたいだろう。
が、そんな俺にアイカさんは、
「う~ん……気にならないと言えば正直嘘になるけど、レオンさんがそんなに済まながる必要はないわ。
私の喉は全快したし、公でなくても真犯人は罰を受けた。誰かに自分の弱みを握られているって恐怖ですもんね。それにこれでバレンシア劇場も、前のように忙しくなるでしょう?」
「ああ、そうなるよう、俺も手伝うつもりだ」
「レオンさんが来年もここにいてくれたら、私達また一緒に歌えるわね!」
そうなのだ。
最終のアンコールの場で、何故か舞台衣装を着て舞台袖にいた俺が呼ばれた。分からないまま出て来たら、そこでアイカさんと一緒に挨拶からのデュエットという流れになっていたんだ。
いやぁ……プロの歌い手さんとデュエットなんて、緊張した! 何とか保たせたけど正直、歌詞間違えてないか? ってヒヤヒヤものだった。
「は、はは……」
思わず苦笑で返してしまう。
「しっかし……レオンさん、あんた一体ナニモンなんだ?」
真剣な表情で、役者さんが俺に言う。
「あのチンピラ共に呼び出された時、加勢出来るようにって言われた通り後を付けてたけど、俺ら、完全に必要なかったじゃねぇか」
「地面に転がっている奴ら縛って、運んで下さったでしょう?」
「そんなの加勢じゃねぇよ。舞台での事と言い、タダモンじゃねーな」
「……一応、冒険者でもあるので」
嘘はついていない。
「冒険者? ランクは」
「Aです」
おおっと周りがどよめく。座長も目を丸くして俺に言う。
「そっちの方が稼げるじゃないか!」
「ですから、……そこは訳ありで」
確かに座長の言う通りなんだよ。好意に甘えていつまでもここに居座る訳にはいかない。早いとこちゃんと稼いで出て行かなきゃいけないんだ。
でもギルドには、貴族の令息達と遭遇するかもだから、あまり行きたくないんだ。ある程度依頼こなさないとランク剥奪されるから、時間をずらして行ってはいるが。
「……その事、なんだがな」
と、支配人が話しかけてきた。でも普段の彼と違ってどこか歯切れが悪い。
「うちはお前が知っている通り、ろくな稼ぎも出せないオンボロ劇場だ。家賃代わりに手伝ってくれているとはいえ、給金も出せてない。正直、ここんところミーシャへの支払いも停滞しているんだ。……そんな俺が言うのもどうかと思う、が」
一端言葉を切った後、真っ直ぐ俺を見ると思い切ったようにそれを言った。
「最初は週一で良いから……お前、ウチの専属歌手として、舞台で歌う気はねぇか?」
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