51 / 76
浸食される~カルティ王国第2王女・ステラ・カルティ~
しおりを挟む
彼と――シン・ヤマトノと初めて出会ったのは、お互いに6歳だった頃。
婚約者になると引き合わされた時、大きい眼鏡が印象強い私よりもチビでヒョロリと頼りない彼を一目見て最初に決意したのは、
この婚約、絶対にぶち壊してやる!
だった。
こんな軟弱そうなヤツと結婚なんて、冗談じゃない。せめて私より強い男でないと。
物心ついてから、淑女などとは縁遠く、男のように剣ばかり振り回していた。将来の夢は武者修行の旅に出ること。
こう言うと周りの者は、“なんて野蛮な”“お姉様や女王陛下を見習え”“王女としての使命を……”などと怒られるか呆れられるかだった。
だからあえて、彼に話した。縁談を断らせるために。
話し終えてからジッと、反応を待つ。
――さぁ呆れなさい。そしてこんな奴と結婚なんてイヤだ! って思いなさい。
けど、予想に反し彼はキラキラと目を輝かせ、
「すごいね、ちゃんと夢に向かって頑張ってるんだ!」
「――? 変だと思わないの?」
まさかの反応に、言った方が面食らう。しかし気付かないように目の前の少年は
「どうして? その為に一生懸命頑張ってるんでしょ? スーちゃんなら出来るよ、僕も応援するね」
夢を初めて……肯定された。
安心感と喜びが、胸の奥に広がっていった。それに合わせるように、鼓動が早くなる。
思えばあの時、もう一つの夢が生まれたのだ。
彼と一緒になりたい。2人で幸せになるんだと。
「……我ながら単純だったな」
当時の事を思い出し、クスッと笑う。
今にして思えば、“婚約なんてイヤだ!”と母親達に言ってみても良かったのだ。しかしまだあの頃は、他の子供と同じく自分も親や乳母達を恐れていた。だからシンの方から言わせたかった。今思えば卑小な考えだった。
あれから時が経ち……。騎士団の団長を務められる程には強くなった。変われたと、思う。
でも今のように、シンの来るのをソワソワしながら待っているところは、昔と変わらない。“魔導馬車が故障して遅くなる”との連絡は来ていたが……遅すぎるのではないだろうか? こちらから早馬を出そうか? いや私が直接お迎えに――。
などと考えていたら、1人の男が自分に近付いてくるのに気がついた。がっしりした体格に、軽薄そうではあるが整った顔立ち。着崩した正装が、野生の獣のような魅力を醸し出している。
……こいつは確か、アーリア・コーニー男爵令息。妹の婚約者だ。
それがなぜ、ここに? と言うか私に用なのか?
訝しく思っている間にも、ドンドン距離を詰めてきた。いい加減近付き過ぎだと思った時……。
「……ずいぶんと浮かない顔だな、らしくもない」
不遜な口調で、話しかけられた。
…………は?
更に的を外れた事を言われてしまう。どう見ればそんな風に見えるんだ? 呆れたままにそれを言おうと口を開いた。が、
「……お前には関係ない」
口から出たのは、そんな一言だった。
…………私はなぜ、こんな事を……?
そんな私の戸惑いに気付かず、アーリアは話し続けている。
「まぁ……仕方ねぇよな。親同士に決められた相手と一緒になるなんて悲劇でしかねぇし。それも責任だとか、言うんだろうけどなぁ」
それは違う。責任なんかで嫌々シン様と婚約者になった訳じゃない、最初はそうだったけど、今は心から……。
「私は王女だ、相手がどなたでも役目を果たすのみの、な」
でもまた出て来たのは、まるで思ってもみない言葉だった。
何だ、これは? 私はこんな事を言いたいんじゃない。“どなたでも”なんて思った事なんか無い。シン様でなくてはイヤだ、私は……。
早くこの勘違い男の言葉を否定しないと。そう思うのに何故か、それを言う事が出来ない。
異変はそれだけではなかった。真っ直ぐに自分を見る瞳に、鼓動が高まる。はだけた襟元からチラリと見える肌や大きな手に誘われるように目が吸い寄せられていく。
――あの手で撫で回されたら……自分はどう、なるだろう?
そう考えてから、慌てて首を振った。
――コイツは妹の婚約者だぞ!
何故先程から、言う気のない言葉ばかりが口から出て来るんだ。そしてどうして私はこの不遜な男を、追い払わない? これからシン様が来るというのに、こんなヤツの相手をしている暇は……!
「……役目、ね。でも王族も人間なんだ。一時位解放されても、良いんじゃねぇか」
ああ、解放されたい。……と、思った時、
「……第2王女殿下、シン・ヤマトノ第5王子殿下がご到着です」
「スーちゃん! 迎えに来てくれたんだ、嬉しいなぁ♪」
従者らしき声がして、そちらの方を見ると……。従者とシン様がこっちに歩いてくるのが見えた。……面倒だけど、お迎えしなくては。
……って、面倒??
さっきから私は、どうしたんだ……?
流れ込んでくる感情が、どちらが本当なのか分からない。
シン様が……面倒? そんな筈は無いいや本当は心の奥ではずっと我慢をずっと会いたくて、待ち遠しく、思っているのになんでそんないや違う、私は王族の義務で仕方なくいや私はずっとシン様を待っていていやウンザリしていて違う久しぶりに会えるからどんな話をしようとか前日から色々と……。
「スーちゃん、どうし……?」
戸惑うような表情のシン様の姿に、霞がかかったように見えたと思った瞬間、グラッと体から力が抜ける。
「ステラ!!」
シン様の叫ぶ声を聞きながら、私は意識を失っていった。
婚約者になると引き合わされた時、大きい眼鏡が印象強い私よりもチビでヒョロリと頼りない彼を一目見て最初に決意したのは、
この婚約、絶対にぶち壊してやる!
だった。
こんな軟弱そうなヤツと結婚なんて、冗談じゃない。せめて私より強い男でないと。
物心ついてから、淑女などとは縁遠く、男のように剣ばかり振り回していた。将来の夢は武者修行の旅に出ること。
こう言うと周りの者は、“なんて野蛮な”“お姉様や女王陛下を見習え”“王女としての使命を……”などと怒られるか呆れられるかだった。
だからあえて、彼に話した。縁談を断らせるために。
話し終えてからジッと、反応を待つ。
――さぁ呆れなさい。そしてこんな奴と結婚なんてイヤだ! って思いなさい。
けど、予想に反し彼はキラキラと目を輝かせ、
「すごいね、ちゃんと夢に向かって頑張ってるんだ!」
「――? 変だと思わないの?」
まさかの反応に、言った方が面食らう。しかし気付かないように目の前の少年は
「どうして? その為に一生懸命頑張ってるんでしょ? スーちゃんなら出来るよ、僕も応援するね」
夢を初めて……肯定された。
安心感と喜びが、胸の奥に広がっていった。それに合わせるように、鼓動が早くなる。
思えばあの時、もう一つの夢が生まれたのだ。
彼と一緒になりたい。2人で幸せになるんだと。
「……我ながら単純だったな」
当時の事を思い出し、クスッと笑う。
今にして思えば、“婚約なんてイヤだ!”と母親達に言ってみても良かったのだ。しかしまだあの頃は、他の子供と同じく自分も親や乳母達を恐れていた。だからシンの方から言わせたかった。今思えば卑小な考えだった。
あれから時が経ち……。騎士団の団長を務められる程には強くなった。変われたと、思う。
でも今のように、シンの来るのをソワソワしながら待っているところは、昔と変わらない。“魔導馬車が故障して遅くなる”との連絡は来ていたが……遅すぎるのではないだろうか? こちらから早馬を出そうか? いや私が直接お迎えに――。
などと考えていたら、1人の男が自分に近付いてくるのに気がついた。がっしりした体格に、軽薄そうではあるが整った顔立ち。着崩した正装が、野生の獣のような魅力を醸し出している。
……こいつは確か、アーリア・コーニー男爵令息。妹の婚約者だ。
それがなぜ、ここに? と言うか私に用なのか?
訝しく思っている間にも、ドンドン距離を詰めてきた。いい加減近付き過ぎだと思った時……。
「……ずいぶんと浮かない顔だな、らしくもない」
不遜な口調で、話しかけられた。
…………は?
更に的を外れた事を言われてしまう。どう見ればそんな風に見えるんだ? 呆れたままにそれを言おうと口を開いた。が、
「……お前には関係ない」
口から出たのは、そんな一言だった。
…………私はなぜ、こんな事を……?
そんな私の戸惑いに気付かず、アーリアは話し続けている。
「まぁ……仕方ねぇよな。親同士に決められた相手と一緒になるなんて悲劇でしかねぇし。それも責任だとか、言うんだろうけどなぁ」
それは違う。責任なんかで嫌々シン様と婚約者になった訳じゃない、最初はそうだったけど、今は心から……。
「私は王女だ、相手がどなたでも役目を果たすのみの、な」
でもまた出て来たのは、まるで思ってもみない言葉だった。
何だ、これは? 私はこんな事を言いたいんじゃない。“どなたでも”なんて思った事なんか無い。シン様でなくてはイヤだ、私は……。
早くこの勘違い男の言葉を否定しないと。そう思うのに何故か、それを言う事が出来ない。
異変はそれだけではなかった。真っ直ぐに自分を見る瞳に、鼓動が高まる。はだけた襟元からチラリと見える肌や大きな手に誘われるように目が吸い寄せられていく。
――あの手で撫で回されたら……自分はどう、なるだろう?
そう考えてから、慌てて首を振った。
――コイツは妹の婚約者だぞ!
何故先程から、言う気のない言葉ばかりが口から出て来るんだ。そしてどうして私はこの不遜な男を、追い払わない? これからシン様が来るというのに、こんなヤツの相手をしている暇は……!
「……役目、ね。でも王族も人間なんだ。一時位解放されても、良いんじゃねぇか」
ああ、解放されたい。……と、思った時、
「……第2王女殿下、シン・ヤマトノ第5王子殿下がご到着です」
「スーちゃん! 迎えに来てくれたんだ、嬉しいなぁ♪」
従者らしき声がして、そちらの方を見ると……。従者とシン様がこっちに歩いてくるのが見えた。……面倒だけど、お迎えしなくては。
……って、面倒??
さっきから私は、どうしたんだ……?
流れ込んでくる感情が、どちらが本当なのか分からない。
シン様が……面倒? そんな筈は無いいや本当は心の奥ではずっと我慢をずっと会いたくて、待ち遠しく、思っているのになんでそんないや違う、私は王族の義務で仕方なくいや私はずっとシン様を待っていていやウンザリしていて違う久しぶりに会えるからどんな話をしようとか前日から色々と……。
「スーちゃん、どうし……?」
戸惑うような表情のシン様の姿に、霞がかかったように見えたと思った瞬間、グラッと体から力が抜ける。
「ステラ!!」
シン様の叫ぶ声を聞きながら、私は意識を失っていった。
0
あなたにおすすめの小説
【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約
Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。
腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。
地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。
彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。
「死んで、私の影になれ」
彼女は知っていた。
この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。
そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。
これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる