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徹底的にやってやる~ヤマトノ国王子シン・ヤマトノ~
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「ぐ……っ」
遠ざかる背中を、すぐに追いかけようとした。
なのに……何故か、足が床に縫い止められたように動かない。僕だけでなく周囲でも同じのようだ。皆信じられない、って表情でお互いを見ているしか出来ない。
何故、こんな事が起こる? 魔力が働いた気配はない。では一体?
一向に動けない体に焦りが出て来た、その時――。
「ぅわ!?」
突然体がバランスを失い、前に傾いだ。そのまま倒れそうになってかろうじて踏ん張る。
「動ける!?」
謎の呪縛が急に解けたのだ。何故? いや今は考えている場合じゃない,ステラを取り返さないと!!
さっき、アイツの腕の中にいた彼女を思い出す。
あんなのは僕の大好きなステラじゃない。知らない男に抱えられて、甘えるみたいに寄りかかるなんて、そんな事考えもしないそんな人だ。
アイツが何かやったんだ。すーちゃん、無事でいて!!!
僕は全身に魔力を流した。そして彼女の部屋のイメージを頭に描く。
「テレポート(転移)」
シュッ、と一瞬で、僕の体は別の場所に移動した。
次にいたのは見覚えのある部屋の前だった。
イメージが薄かったか、と思いながら入ろうとする前に扉が乱暴に開かれ、先程の男が飛び出してきた。さっきまでの不遜な様子はない。むしろ血相を変え、
「ち……近寄んな、このバケモン! 冗談じゃねぇ、不細工なてめぇなんか、誰が抱いてやるか!! もう用はねぇよ!」
部屋の奥に向けて怒鳴り、そのまま走り去っていく。
言葉の意味が気になったけど、今はそれどころじゃないと思い直し、部屋に飛び込んだ。
「ステラ!」
一瞬、足が止まった。最初に肉の焼ける臭気が鼻をつく。次に目にしたのは荒れた部屋の様子。そして……
「う……っ」
床で背中を丸めて顔を押さえているステラだった。慌てて駆け寄り、その肩に手を置く。
「大丈夫、ステラ? 一体何があったの?」
「シン……様……?」
僕の呼びかけに応えてはくれたけど、顔を手で覆ったままだ。よく見れば髪は乱れ、ドレスも破れていて――?
……あいつか!!
状況を把握出来たと同時に追いかけて殴りたい衝動に駆られたけど、今はステラが先だ。
「怪我をしたのか! 見せて!!」
僕が言うと、何故か彼女の肩が震えた。そのままでいてたけどやがて、意を決したように顔を上げる。
……顔から血が引いた。
王国が誇る美貌とまで言われたステラの顔半分が、真っ赤に焼け、火ぶくれしていたからだ。
「何てことを……!? 痛かったでしょう? 大丈夫、すぐに治すからね」
幸い僕は治癒魔法が使える。こんな傷すぐに消してやる! 手に魔力を集め、彼女の顔の傷にかざす。が、
「ま、て……」
「……え?」
顔を背けられ、何故か止められた。
「これは……このままにしておく」
「ど、どうして……?」
驚く僕に、ステラはフッと笑った。何故笑えるんだ?
「理由は……後で説明する。……だから……冷却と、痛み止めだけ頼む……!」
……正直、そんなお願いなんか聞きたくないけど。
でも彼女は頑固だ。僕が治しても同じように繰り返すかも知れない。だから……取りあえず、言われた通りの処置をした。
治すのはキチンと理由を聞いた後でも出来るから。そう、自分に言い聞かせて。
そして……僕らは長椅子に、並んで座っている。
目の前では侍従達が、荒れた部屋を片付けてくれている。僕より遅れて駆けつけた彼らは、すぐに現状を理解して1人は女王陛下に連絡に、残りは部屋の片付けと王宮医師の手配に向かってくれた。他に傷は無いけど念の為診てもらった方がいいと。
ステラも侍女達によって、綺麗になっていた。最初駆けつけた侍女達は、ステラの様子を見て真っ青になり悲鳴をあげた。でもすぐに冷静さを取り戻すと、お風呂の支度と新しい服を揃えた。……さすがのプロフェッショナルぶりだ。
という事で、火傷を残す理由を僕が訊いたら、
「これは、私が自分でやったんだ」
……意外過ぎる答えが返ってきた。
「な、なぜ……?」
やっとそれだけを訊いた僕に、彼女は不快さを露わにして顔を歪ませる。
「一時でもあんなゲスに触れられるなんて真っ平だから」
ここまで彼女が感情を見せるのは滅多にない。騎士団の団長であり王女である彼女が、マイナスの感情を見せる事は多分、初めてではないだろうか。
「でも君ならあんな奴、簡単にやっつけられるだろ?」
王女様とはいえ何と言っても騎士団長だ。日頃から鍛錬もかかしていないしそれなりの経験も積んでいる。
あの男……アーリア、だったっけ? ちょっとしか見ていないけど、アイツが本気になったステラに勝てる筈なんて、万に一つもありはしない。
そう言った僕に、ステラは考え込むような顔になる。
そして僕の質問に応えてきた。
「アイツの……アーリア・コーニーの顔を見た途端、自分が言う気もない言葉ばかり出て来て」
――え?
「体が勝手に、いえ……心も自分のものじゃないみたいになって、おかしくなりそうだった」
これって……さっき、レオン君と話した時の……。
つまり……“隠し”キャラとは、ステラの事だったのか?
「あいつ私のこと、オモチャだって言ってた。」
頭の中でブチッと何かが切れた。怒りで声が震える。
「……今度逢ったら消し炭にしてやる……!」
「それは私が殴り飛ばした後にしてくれ。……あいつに玩ばれた人間はきっと、もっといる。あんな奴を、この王家に入れるなんて、冗談じゃない」
「……それで、どうして顔の傷を治しちゃいけないの?」
「……アイツが私を狙わなければ、あの現象は起きない気がするんだ」
もし傷がなくなって元の状態になれば、また同じようになるかも知れない。そう言って彼女は、自分の頬をなぞる。
腫れと痛みを取った為、今は赤黒いアザになっている。半分は負傷していない分、その酷さが余計に目立っていた。
自分の顔を焼くなんてどれ程勇気がいっただろう。思うだけで心が痛む。同時に奴への怒りと、彼女にそんな事をさせてしまった、自分のふがいなさに腹が立った。
「……でも、この傷の落とし前は絶対につける」
「……うん」
ステラの言葉に僕も頷く。僕らは顔を見合わせて決意を固めた。
……徹底的にやってやる、と。
遠ざかる背中を、すぐに追いかけようとした。
なのに……何故か、足が床に縫い止められたように動かない。僕だけでなく周囲でも同じのようだ。皆信じられない、って表情でお互いを見ているしか出来ない。
何故、こんな事が起こる? 魔力が働いた気配はない。では一体?
一向に動けない体に焦りが出て来た、その時――。
「ぅわ!?」
突然体がバランスを失い、前に傾いだ。そのまま倒れそうになってかろうじて踏ん張る。
「動ける!?」
謎の呪縛が急に解けたのだ。何故? いや今は考えている場合じゃない,ステラを取り返さないと!!
さっき、アイツの腕の中にいた彼女を思い出す。
あんなのは僕の大好きなステラじゃない。知らない男に抱えられて、甘えるみたいに寄りかかるなんて、そんな事考えもしないそんな人だ。
アイツが何かやったんだ。すーちゃん、無事でいて!!!
僕は全身に魔力を流した。そして彼女の部屋のイメージを頭に描く。
「テレポート(転移)」
シュッ、と一瞬で、僕の体は別の場所に移動した。
次にいたのは見覚えのある部屋の前だった。
イメージが薄かったか、と思いながら入ろうとする前に扉が乱暴に開かれ、先程の男が飛び出してきた。さっきまでの不遜な様子はない。むしろ血相を変え、
「ち……近寄んな、このバケモン! 冗談じゃねぇ、不細工なてめぇなんか、誰が抱いてやるか!! もう用はねぇよ!」
部屋の奥に向けて怒鳴り、そのまま走り去っていく。
言葉の意味が気になったけど、今はそれどころじゃないと思い直し、部屋に飛び込んだ。
「ステラ!」
一瞬、足が止まった。最初に肉の焼ける臭気が鼻をつく。次に目にしたのは荒れた部屋の様子。そして……
「う……っ」
床で背中を丸めて顔を押さえているステラだった。慌てて駆け寄り、その肩に手を置く。
「大丈夫、ステラ? 一体何があったの?」
「シン……様……?」
僕の呼びかけに応えてはくれたけど、顔を手で覆ったままだ。よく見れば髪は乱れ、ドレスも破れていて――?
……あいつか!!
状況を把握出来たと同時に追いかけて殴りたい衝動に駆られたけど、今はステラが先だ。
「怪我をしたのか! 見せて!!」
僕が言うと、何故か彼女の肩が震えた。そのままでいてたけどやがて、意を決したように顔を上げる。
……顔から血が引いた。
王国が誇る美貌とまで言われたステラの顔半分が、真っ赤に焼け、火ぶくれしていたからだ。
「何てことを……!? 痛かったでしょう? 大丈夫、すぐに治すからね」
幸い僕は治癒魔法が使える。こんな傷すぐに消してやる! 手に魔力を集め、彼女の顔の傷にかざす。が、
「ま、て……」
「……え?」
顔を背けられ、何故か止められた。
「これは……このままにしておく」
「ど、どうして……?」
驚く僕に、ステラはフッと笑った。何故笑えるんだ?
「理由は……後で説明する。……だから……冷却と、痛み止めだけ頼む……!」
……正直、そんなお願いなんか聞きたくないけど。
でも彼女は頑固だ。僕が治しても同じように繰り返すかも知れない。だから……取りあえず、言われた通りの処置をした。
治すのはキチンと理由を聞いた後でも出来るから。そう、自分に言い聞かせて。
そして……僕らは長椅子に、並んで座っている。
目の前では侍従達が、荒れた部屋を片付けてくれている。僕より遅れて駆けつけた彼らは、すぐに現状を理解して1人は女王陛下に連絡に、残りは部屋の片付けと王宮医師の手配に向かってくれた。他に傷は無いけど念の為診てもらった方がいいと。
ステラも侍女達によって、綺麗になっていた。最初駆けつけた侍女達は、ステラの様子を見て真っ青になり悲鳴をあげた。でもすぐに冷静さを取り戻すと、お風呂の支度と新しい服を揃えた。……さすがのプロフェッショナルぶりだ。
という事で、火傷を残す理由を僕が訊いたら、
「これは、私が自分でやったんだ」
……意外過ぎる答えが返ってきた。
「な、なぜ……?」
やっとそれだけを訊いた僕に、彼女は不快さを露わにして顔を歪ませる。
「一時でもあんなゲスに触れられるなんて真っ平だから」
ここまで彼女が感情を見せるのは滅多にない。騎士団の団長であり王女である彼女が、マイナスの感情を見せる事は多分、初めてではないだろうか。
「でも君ならあんな奴、簡単にやっつけられるだろ?」
王女様とはいえ何と言っても騎士団長だ。日頃から鍛錬もかかしていないしそれなりの経験も積んでいる。
あの男……アーリア、だったっけ? ちょっとしか見ていないけど、アイツが本気になったステラに勝てる筈なんて、万に一つもありはしない。
そう言った僕に、ステラは考え込むような顔になる。
そして僕の質問に応えてきた。
「アイツの……アーリア・コーニーの顔を見た途端、自分が言う気もない言葉ばかり出て来て」
――え?
「体が勝手に、いえ……心も自分のものじゃないみたいになって、おかしくなりそうだった」
これって……さっき、レオン君と話した時の……。
つまり……“隠し”キャラとは、ステラの事だったのか?
「あいつ私のこと、オモチャだって言ってた。」
頭の中でブチッと何かが切れた。怒りで声が震える。
「……今度逢ったら消し炭にしてやる……!」
「それは私が殴り飛ばした後にしてくれ。……あいつに玩ばれた人間はきっと、もっといる。あんな奴を、この王家に入れるなんて、冗談じゃない」
「……それで、どうして顔の傷を治しちゃいけないの?」
「……アイツが私を狙わなければ、あの現象は起きない気がするんだ」
もし傷がなくなって元の状態になれば、また同じようになるかも知れない。そう言って彼女は、自分の頬をなぞる。
腫れと痛みを取った為、今は赤黒いアザになっている。半分は負傷していない分、その酷さが余計に目立っていた。
自分の顔を焼くなんてどれ程勇気がいっただろう。思うだけで心が痛む。同時に奴への怒りと、彼女にそんな事をさせてしまった、自分のふがいなさに腹が立った。
「……でも、この傷の落とし前は絶対につける」
「……うん」
ステラの言葉に僕も頷く。僕らは顔を見合わせて決意を固めた。
……徹底的にやってやる、と。
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