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こんな形で……~子爵令息ジュエル・サイラス~
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帰館したすぐに、王城から迎えの馬車が来た。
登城すると思っていたのに、着いた場所はすっかり馴染んでいた、バレンシア劇場で。
案内された支配人室で待っていたのは、見知った劇場関係使者達と……彼だった。
……バレンシア劇場専属歌手・レオ。……いや、元マクガイヤ公爵令息レオン殿だ。
と、そこで初めて違和感に気付く。
彼が僕の前に出る時は必ず、“レオ”だった。劇場専属歌手・レオ。最近静かに話題になってきた“癒やしの歌い手”。彼のもう一つの顔。
なのに、今はその変装を解いている。冴えないレオではない、彼自身の姿だ。その事実に僕の不安が最高に達する。
…………どういうこと、だ?
戸惑う僕に、最初に声をかけたのはシン殿下だった。友好国の王子。第2王女の婚約者。
「……君がどれほど不安かは、僕にも容易に推察できる。
本来なら筋道立てて説明するのが筋だけど……。今はそれより、本筋から説明するよ。……彼との話し合いはその後でゆっくりとして欲しい」
殿下と第2王女のお話を聞き終えた後。
「…………王族の皆様のお言葉を、疑う理由などありませんが……。正直な話、あまりにも突拍子過ぎて、理解が追いついていません」
沈黙の後、やっとの思いで何とかこれだけ言った。
王家に忠誠を誓う貴族としては、全面的に信じるというべきなんだろう。
……でも言い切るには、あまりにも荒唐無稽、かつ現実味の無い内容だったからだ。
――この世界が、違う世界では“ギャルゲー”とかいう物語が基調の遊戯で?
――更に、そこではアーリアの奴が主人公? で強制力? とかいう力が発動し、太刀打ち出来ないが、これ以上の犠牲を出さない為にも何とかしなくてはいけない。その為に僕にも協力して欲しい。って……。
信じる方がおかしいだろう。妄想か冒険小説でもあるまいし。
ただ……と、そこで僕の視線は、自然とレオン殿の様子に向いた。レオン殿は、一瞬だけ僕の目を見返した後、大きく頷く。――殿下達のお話が事実だと、そう言いたいんだろう。でもすぐに僕から視線を外してしまった。
さっきから無言で、決まり悪そうに僕と目を合わさない。きっと正体を隠して僕と交流していたことを、気にしているんだろう。――別に気にすること、無いのに。そんな気持で俯いたまま、膝に置いた手をギュッと握る。
……僕だってお互い様……いや、責められるべきは僕の方だ。
最初からそんなこと分かっていて、あえて黙っていたんだから。
――自分が楽だからというだけで。彼と普通に話したい、そんな勝手な理由だけで……騙されたふりを、していた。……思い返し、自分の小狡さがイヤになる。
そんな思いは、シン殿下のお声によって遮断された。
「……そうだろうね。君の答えは当然だ。だから信じられないのなら、それでもいい。ただこれだけは信じて欲しい。アーリア・コーニー男爵令息をこのままにしておいたら、たくさんの人達が犠牲になる。それを防ぐ為にも協力してほしい。よろしく頼む」
言葉と共に、深々と頭を下げられた。――って、ええ!?
「で、殿下! あ、頭を上げて下さい!」
王女の婚約者で友好国の王子に、子爵令息でしかない僕が頭を下げられるなど、後で厄介な事が起こる予感しか無い。
けど彼は、アタフタする僕に気付くと、下げた頭をすぐに上げた。
「…………なんて、ね」
いたずらっ子のようにペロッと舌を出して。一見お茶目な仕草だが、一向に和まない。
「正直言って、そんなのはあくまで建前。……僕の本音は」
と、殿下がここで言葉を切った。両の口角を上げる。笑ったと気付くのに少し時間がかかった。
「あいつに、償わせたい」
最愛の女性を遊戯の駒扱いし、汚そうとした行為を。
その末に彼女が、自身を傷付けた事も含めた全てを。
倍返しなどとんでもない。その上から更に上乗せし、もはや起き上がる気力すら削り取って、挙げ句に奈落に落とし込んでやる。
そんなシン殿下の怒りを肌にビリビリと感じながら、僕は恐怖で体を強ばらせるしかなかった。
これがヤマトノ国の王族。――始祖を勇者に持つ国の者なのか。
――あいつ、とんでもない相手を敵に回したな……。
と、そこでステラ王女殿下がサラリと口を挟んできた。
「それに、そなたにも悪い話では無いはずだろう。襲われた仕返しが出来るではないか」
え、ええ!?
「ど、どうしてそれを!?」
「宰相からだ。“あんな見境のない男の監視などとんでもない!”とその日の内に母上に直接報告に来た」
「あ……」
だからあの日の翌日、“監視は必要無い”とご報告があったのか。と一人納得する僕と違い、王女は彼女らしからぬ疲れたような顔で、椅子の背にもたれる。
「その件に関しては母上より、むしろ父上の方がお怒りだったぞ? “ギャルゲーにその要素いらない! この世界の神はフジョシなのか?”とか訳の分からない事を叫ばれて。
はあ……。どうにも最近の陛下達はまるで別人のようだ。前世の記憶が戻ったからか、みょ~な感じではっちゃけてい、て――……っ!!」
え?
ステラ王女の声が途中で止まる。
予想外な事が起こった。ステラ王女のサディスティックとも称される怜悧な美貌が一転、恐怖に染められたからだ。
こんな彼女は初めて見る。騎士団長で、魔獣の群れにも単身で特攻する程の豪胆さは、もはや国中に知られている事なのに。
が、よく見れば彼女だけで無かった。他の人達も青ざめて硬直している。
一体、何が……?
1人で不思議に思っていたら、
「――誰が誰を襲ったって…………?」
地を這うような声が、背後から聞こえてきた。
登城すると思っていたのに、着いた場所はすっかり馴染んでいた、バレンシア劇場で。
案内された支配人室で待っていたのは、見知った劇場関係使者達と……彼だった。
……バレンシア劇場専属歌手・レオ。……いや、元マクガイヤ公爵令息レオン殿だ。
と、そこで初めて違和感に気付く。
彼が僕の前に出る時は必ず、“レオ”だった。劇場専属歌手・レオ。最近静かに話題になってきた“癒やしの歌い手”。彼のもう一つの顔。
なのに、今はその変装を解いている。冴えないレオではない、彼自身の姿だ。その事実に僕の不安が最高に達する。
…………どういうこと、だ?
戸惑う僕に、最初に声をかけたのはシン殿下だった。友好国の王子。第2王女の婚約者。
「……君がどれほど不安かは、僕にも容易に推察できる。
本来なら筋道立てて説明するのが筋だけど……。今はそれより、本筋から説明するよ。……彼との話し合いはその後でゆっくりとして欲しい」
殿下と第2王女のお話を聞き終えた後。
「…………王族の皆様のお言葉を、疑う理由などありませんが……。正直な話、あまりにも突拍子過ぎて、理解が追いついていません」
沈黙の後、やっとの思いで何とかこれだけ言った。
王家に忠誠を誓う貴族としては、全面的に信じるというべきなんだろう。
……でも言い切るには、あまりにも荒唐無稽、かつ現実味の無い内容だったからだ。
――この世界が、違う世界では“ギャルゲー”とかいう物語が基調の遊戯で?
――更に、そこではアーリアの奴が主人公? で強制力? とかいう力が発動し、太刀打ち出来ないが、これ以上の犠牲を出さない為にも何とかしなくてはいけない。その為に僕にも協力して欲しい。って……。
信じる方がおかしいだろう。妄想か冒険小説でもあるまいし。
ただ……と、そこで僕の視線は、自然とレオン殿の様子に向いた。レオン殿は、一瞬だけ僕の目を見返した後、大きく頷く。――殿下達のお話が事実だと、そう言いたいんだろう。でもすぐに僕から視線を外してしまった。
さっきから無言で、決まり悪そうに僕と目を合わさない。きっと正体を隠して僕と交流していたことを、気にしているんだろう。――別に気にすること、無いのに。そんな気持で俯いたまま、膝に置いた手をギュッと握る。
……僕だってお互い様……いや、責められるべきは僕の方だ。
最初からそんなこと分かっていて、あえて黙っていたんだから。
――自分が楽だからというだけで。彼と普通に話したい、そんな勝手な理由だけで……騙されたふりを、していた。……思い返し、自分の小狡さがイヤになる。
そんな思いは、シン殿下のお声によって遮断された。
「……そうだろうね。君の答えは当然だ。だから信じられないのなら、それでもいい。ただこれだけは信じて欲しい。アーリア・コーニー男爵令息をこのままにしておいたら、たくさんの人達が犠牲になる。それを防ぐ為にも協力してほしい。よろしく頼む」
言葉と共に、深々と頭を下げられた。――って、ええ!?
「で、殿下! あ、頭を上げて下さい!」
王女の婚約者で友好国の王子に、子爵令息でしかない僕が頭を下げられるなど、後で厄介な事が起こる予感しか無い。
けど彼は、アタフタする僕に気付くと、下げた頭をすぐに上げた。
「…………なんて、ね」
いたずらっ子のようにペロッと舌を出して。一見お茶目な仕草だが、一向に和まない。
「正直言って、そんなのはあくまで建前。……僕の本音は」
と、殿下がここで言葉を切った。両の口角を上げる。笑ったと気付くのに少し時間がかかった。
「あいつに、償わせたい」
最愛の女性を遊戯の駒扱いし、汚そうとした行為を。
その末に彼女が、自身を傷付けた事も含めた全てを。
倍返しなどとんでもない。その上から更に上乗せし、もはや起き上がる気力すら削り取って、挙げ句に奈落に落とし込んでやる。
そんなシン殿下の怒りを肌にビリビリと感じながら、僕は恐怖で体を強ばらせるしかなかった。
これがヤマトノ国の王族。――始祖を勇者に持つ国の者なのか。
――あいつ、とんでもない相手を敵に回したな……。
と、そこでステラ王女殿下がサラリと口を挟んできた。
「それに、そなたにも悪い話では無いはずだろう。襲われた仕返しが出来るではないか」
え、ええ!?
「ど、どうしてそれを!?」
「宰相からだ。“あんな見境のない男の監視などとんでもない!”とその日の内に母上に直接報告に来た」
「あ……」
だからあの日の翌日、“監視は必要無い”とご報告があったのか。と一人納得する僕と違い、王女は彼女らしからぬ疲れたような顔で、椅子の背にもたれる。
「その件に関しては母上より、むしろ父上の方がお怒りだったぞ? “ギャルゲーにその要素いらない! この世界の神はフジョシなのか?”とか訳の分からない事を叫ばれて。
はあ……。どうにも最近の陛下達はまるで別人のようだ。前世の記憶が戻ったからか、みょ~な感じではっちゃけてい、て――……っ!!」
え?
ステラ王女の声が途中で止まる。
予想外な事が起こった。ステラ王女のサディスティックとも称される怜悧な美貌が一転、恐怖に染められたからだ。
こんな彼女は初めて見る。騎士団長で、魔獣の群れにも単身で特攻する程の豪胆さは、もはや国中に知られている事なのに。
が、よく見れば彼女だけで無かった。他の人達も青ざめて硬直している。
一体、何が……?
1人で不思議に思っていたら、
「――誰が誰を襲ったって…………?」
地を這うような声が、背後から聞こえてきた。
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