私がヒロインなんだから!

みけの

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私がヒロインになった日②~リュー視点~

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 ―――おやおや。
借金で苦しいなら、お金を融通すると来たか。
商家の娘が下町の―――どころか、貧民街の子供に対して―――金を施す。本来なら即座に飛びついてもおかしくない申し出だろう。
 なのに、目の前のこの少女はそれを蹴り、全く思いもつかない提案をしてきたのだ。
 カリン・ワタライ。
セシル・サトーと同じ世界で生を終え、その記憶を持って生まれた少女。この世界を統べる神の一柱である僕・リューが、『物語のヒロイン』に選んだ娘だ。
 が、神という、この世界での至高の存在が選んだとはいっても所詮それは人間側が崇める為の事情であり、神側もそうとは限らない。
 それを説明するには、少々時間と場所が移動する事になる……。


 「はぁい、リューちゃん選んで♪」
退屈なデスクワークの合間に、同僚からずい、と紙の束を突き付けられる。何が楽しいのか、えらくニッコニコだ。
「はいはい。…じゃ、これね」
おざなりに答え、大雑把な動作で紙に手を突っ込む。一応様式美に乗っ取り悩んでいるように手をごそごそして見せ、適当に指先に当たった1枚を引っ張り出して手渡した。
とにかくその時、僕は不機嫌で。
だから考え もしなかった。毎日の変り映えのしない行事の一つと思い込んで、その内容を尋ねる事も、選んだ事の意味も何も知らずにそれをした。
 やっべ、って思ったのは、同僚が次に言った言葉に、だった。
「じゃあ……この子を“物語”のヒロイン、って事で上の皆様に報告するねっ! やり直しは不可だからねー」


 “物語”――――それは僕らにとって重要事項だ。
僕を含めて3人で支配するこの世界では、何年かに一度の確率で1人の人間に深く関わらねばならない。
―――え、何でそんな事をしているのか、って?
それは……どどん!

ブログのネタが欲しいからー!! 

 って、誰だよ、某『物知りな推定5歳女児がふざけた事言う大人を叱って座布団とっちゃう番組』の真似かよとか思ってるのは。え? 5歳女児は座布団、取らないの? ……ま、いいか。
 話を変えよう。地球の一国だけでも八百万の神々って程神様――人は僕らをそう呼ぶらしい――は存在する。その神々が、あちこちの星や次元で、世界を作り始めた。どうしてか? 地球の人口が増え過ぎたのと、文明が発展し過ぎたからだ。結果、人々の願い・欲望は複雑化し、もはや神の手に負えるものではなくなって来たから。
 故に何柱の神達は、地球以外に世界を作り、人間を分けて管理する事になったんだ。世界の構造は、そこを管理する神によって違うけど。
 で、世界を管理する神達は、定期的に自分達の選んだ人間の成功談・失敗談を他の神々に報告し合う事になっている。
 ……で、ブログのネタ、ってなる訳さ。
 
 それに、あまり関わらないでいると僕達の存在がおざなりになる、それは嫌! 神にも承認欲求位あるんだい、でも干渉過ぎは人間にとって良くない! って事で、その位の頻度にしている。
発表された話が、他の神に受けたりしたら、それが或る日人間の手で小説やらゲームやらになる事もある。世界によって時間の流れが違うから、出来た後で影響を受けた人間が、たまたま出来る前のこっちの世界に転生してくる場合もある。今のこの2人がそれだ。
普段は人間のやりたいようにしてもらってるんだけどね。


 ……で、現在に話を戻そう。
「……恋愛、以外の情報? そんなものがどうして欲しいの? あなた、本当はゲームに」
「興味ないです」
キッパリと言い切るカリン。続けて
「第一キャラクター絵どころか絵師さんも分からない恋愛ゲームにどう興味が持てるんですか。……ってか、仮にキャラ絵のそのまま、所謂美形さんが実際出て来たら『キャー、かっこいい!』ってなる前に眼医者か精神科に駆け込みますよ。二次元は二次元です」
うわ、身もフタもない。だけどここまで言い切るのは、カリンなりにゲーム自体にはこだわりがあるのだろう。
「でもここが恋愛ゲームの世界でも、ゲームならシステムがあるはず。
私も恋愛ゲームは経験あるけど、キャラの好感度を上げる為のリアクションとか、あるでしょ? この日にここに行けばステータスが変化する、とか、学校でこれを学べばこの能力が上がってあの能力が下がる、とか。私が欲しいのはそれです」
「そんなのあなたが知ってもしょうがないじゃない!」
セシルの声が荒い。相手の意思が読めずに焦ってるみたいだ。顔からさっきまでの余裕の笑みが消えている。
 彼女が与えたら、その知識を利用してゲームに割り込もうとしている……とか勘ぐっているのかも。セシルは恋愛脳のようだから。
 一方のカリンは、セシルの剣幕に臆した風も無く首肯する。
「そうですね。私が知ってもしょうがない。……私が知ってもね、でも」
カリンはそこで言葉を切る。セシルと僕が次に出る言葉を待っていると、カリンの生活の疲れが濃く出た顔が初めてフッと和らいだ。笑んだ口から言葉が出る。

「妹が、いるんですよ」
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